表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/16

第3話:進化の代償と体内に蠢く影

「消えた……?」


空っぽの手のひらを見つめ、悠真の背中に冷たい汗が伝う。


最強の一撃を放った直後の消失。絶望が脳裏をよぎった瞬間——


(……待て。まだ、体の中に『重み』が残っている?)


意識を集中する。右手の奥底に、ぼんやりとした淡い光の輪が浮かび上がった。


(来い……!)


強く念じた途端、空間がわずかに歪み、漆黒の《バースト・エッジ》が掌にずしりと実体化した。


その瞬間、右腕の奥が“軋む”ように脈打った。


「……っ」


一瞬だけ、自分の体の内側に“別の何か”が滑り込んできたような、得体の知れない感覚が襲った。


肉体が自分のものではなくなりつつあるような、冷たく粘つく違和感。


まるで自分の魂の隙間に、見えない指がゆっくりと入り込んでくるかのような——理由も正体もわからない、底冷えする恐怖。


だが、それも数秒で霧散した。


「……収納、か」


悠真は小さく息を吐いた。


どうやら進化した武具は、自分の意志で自由に出し入れできるようだ。


「はは……心臓に悪い仕様だな」


安堵の笑みが漏れたが、胸の奥に残った小さな棘は消えなかった。


この力は、本当に自分の味方なのか。


それとも——自分の体を、少しずつ蝕み始めているのではないか——そんな、根拠のない不安が、静かに頭の片隅にこびりつく。


危険なものなのか。


その答えは、まだ見えない。


翌日の夕暮れ。


市場で食料を買い込み、宿へ急ぐ路地裏で、悲痛な叫びが響いた。


「やめてくれ! それだけは……!」


「さっさと金を出せ、ジジイ!」


悠真が物陰から覗くと、二人のチンピラが年配の行商人を壁に追い詰めていた。


荷車には家族の生活を支える品々が積まれ、その後ろで十歳くらいの少女が祖父に必死にしがみついている。


少女の震える肩と、恐怖に濡れた瞳が、悠真の胸を刺した。


(どうする……? 相手は二人。武器を持ってる可能性もある。

でも、今の俺には『進化した武器』がある。試してみる価値はあるんじゃないのか?)


覚悟を決め、腰の剣に手をかけた。


心臓の鼓動が速まる。


「おい、お前ら」


低く、落ち着いた声で呼びかける。


二人のチンピラがギロリと振り返った。


その目は、明らかに場数を踏んだ「荒事慣れ」したものだった。


「……あぁ? 誰だてめぇ」


「消えろ。そうすれば痛い目を見ずに済む」


「ハッ! 威勢がいいな。おい、やっちまえ!」


短剣を持った男が鋭く突進してきた。


悠真は慌てず、懐から《幻惑の鏡》を取り出す。


昨日、市場で見つけた古鏡に『ルミナスグラス』で進化させておいたものだ。


悠真が鏡を突き出すと。


シュンッ!


夕暮れの残光を増幅し、爆発的な閃光が路地を埋め尽くした。


「ぐわっ!? 目があぁぁ!!」


「こいつ、ただの旅人じゃねぇぞ……」


チンピラたちの視線が一瞬乱れた。


その隙を逃さず、悠真は《水流の剣》を鋭く抜き放つ!


シュゴォッ!


刃先から冷気が溢れ、足元の小石を軽く斬ると表面が白く凍りつき、パキンと砕けた。


「なっ……!?」


「魔法剣だとぉ!?」


動揺した一人が闇雲に短剣を振りかざし飛びかかってきた。


悠真は左手に力を込める。


「召喚――!」


ドゴンッ!


左手に巨大な《岩石盾》が瞬時に出現!


同時に——


ガキィン!


短剣が岩肌に弾かれ、甲高い金属音を立てて跳ね返った!


「ぐっ……!?」


弾かれた男の腕が揺らぐ。


その隙を突き、悠真は氷剣を振り切った。


シュパッ!


刃先がかすめただけで、男の腕に白い霜が広がり、みるみる凍りつく。


「っつぅ! 冷てぇぇ!こいつ……やべぇぞ!」


ここまでは完璧だった。


だが、もう一人の男——大剣を構えた大柄な男は動じなかった。


その構え、足運び。明らかに素人ではない、元・冒険者の風格があった。


「……チッ、魔法具使いか。素人相手なら無双できたんだろうが、運が悪かったな」


その動きに、無駄が一切ない。経験と技量が、悠真を圧倒的に上回っていた。


男が地を蹴った瞬間、地面がズンッと低く鳴った。


(速い……!)


重い風圧が悠真の頰を叩く。


悠真は咄嗟に《岩石盾》を構えたが、男の狙いは中心ではなかった。


「甘いんだよ!」


ガァンッ!!


大剣の重圧を乗せた強烈な蹴りが盾の端を捉え、凄まじい衝撃が左腕を突き抜けた。


骨が軋むような痛みとともに、盾が大きく跳ね上がる。息が一瞬止まった。


「しまっ——!」


すかさず振り下ろされる大剣。


シュゥゥゥンッという恐ろしい風切り音が耳を劈く。


ガキィィィン!!


重い激突音が響き渡り、必死に出した氷剣が、質量と経験の差にねじ伏せられ、呆気なく弾き飛ばされた。


「終わりだ。ガキが分不相応な玩具を持つからこうなる」


大剣が脳天を狙って振り下ろされる。


完全に無防備になった悠真の首筋に、死の予感が冷たく駆け上がった。


その瞬間——


「……それは、こっちのセリフだ」


悠真は右手を伸ばした。


大剣が届く寸前、空間が歪み、漆黒の質量が「物質化」した。


「出ろ、《バースト・エッジ》!!」


「なっ……!? どこから……っ!?」


虚空から漆黒の大剣が至近距離で実体化し、男の腹部に深々と突き刺さった。


ドォォォォンッ!


ゼロ距離での衝撃波。爆発に弾かれ、その巨体が木の葉のように路地の壁まで吹き飛ぶ。


「ガハッ……!」


男は白目を剥き、そのまま崩れ落ちてピクリとも動かなくなった。


路地に、重い静寂が落ちた。


「た、助かった……! 本当に、本当に感謝するよ! いやぁ、あんな妙技、見たこともない……。この恩は一生忘れん!」


老人が涙声で何度も頭を下げる。


少女はまだ震えながらも、小さな声で「……おにいちゃん、ありがとう……」と呟いた。


悠真は激しく脈打つ右手をポケットに押し込み、なんとか笑みを浮かべた。


勝った。


追放されて以来、初めて誰かを守れたという実感が、胸の奥を熱くした。


——しかし。


右腕の奥で、再びあの“何か”が蠢いた。


自分の体内に知らない存在が根を張り、這い回っているような、静かな恐怖。


王城の冷たい視線が脳裏に蘇る。


拳を、骨が軋むほど強く握りしめた。


(やれる……俺は、やれる)


だが、同時に——


(まだ、全然足りない。あいつらに笑われる程度じゃ、絶対に足りない)


視線を落とす。


手のひらで空間がゆっくりと歪み、まるで息をしているように脈打っていた。


口元が、静かに、深く歪んだ。


――この力は、俺をどこへ連れていく?


英雄か、怪物か。それとも、取り返しのつかない“何か”か。

第3話、ありがとうございます。


ここから“差”がはっきりしてきます。


次回『忘却の谷と霧の呼び声』


面白いと感じていただけたら、

★で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ