逃げても逃げても義兄がいる。──それが、愛だった。
最終エピソード掲載日:2026/03/27
婚約破棄は、五分で終わった。
舞踏会の真ん中で王太子に切り捨てられたアネットの前に、ほとんど接点のなかった従兄が現れる。公爵家の嫡男レヴィ。彼は後見を名乗り出て、こう言った。
お前の再婚相手は俺が審査する。
実家にも王宮にも戻れないアネットにとって、その手を取る以外の選択肢はなかった。衣食住は完璧に整えられ、外出には護衛がつき、縁談はすべて義兄の一存で却下される。
感謝はしている。でも、このままでは一生この人の手の中だ。
アネットには前の世界で身につけた知識がある。産地と消費地を繋げば価値が生まれることを、体で覚えている。行商の仮登録を取り、商人に紛れて王都を脱出した。
けれど逃げた先の宿場町では、なぜか部屋が用意されていた。港町の宿には公爵家の紋章入りの手紙が届いた。辺境の温泉街に隠れたら、湯治客のふりをした義兄本人がいた。
追いかけてくるのに、捕まえない。 監視しているのに、商売は止めない。
逃走経路は十二通り想定していた。お前が選んだのは八番目だ。
この人は有能すぎて怖い。けれど怖いだけなら、とっくに振り切ることを諦めている。振り切れないのに足を止めないのは、この人の本心が分からないからだ。
義務だと思えば楽だった。後見人の責任感だと片づければ済んだ。なのにレヴィは、聞いてもいないのにこう答えた。
義務じゃない。
アネットが各地で人を繋ぎ、小さな行商の輪を広げていく間も、義兄の影はずっとそばにあった。そしてかつてアネットを捨てた王太子が、今さら返せと言い出した時、彼女は気づく。
自分の隣に、いつの間にか誰かが立っていることに。
なぜこの人は追い続けるのか。その答えはまだ、誰にも明かされていない。
舞踏会の真ん中で王太子に切り捨てられたアネットの前に、ほとんど接点のなかった従兄が現れる。公爵家の嫡男レヴィ。彼は後見を名乗り出て、こう言った。
お前の再婚相手は俺が審査する。
実家にも王宮にも戻れないアネットにとって、その手を取る以外の選択肢はなかった。衣食住は完璧に整えられ、外出には護衛がつき、縁談はすべて義兄の一存で却下される。
感謝はしている。でも、このままでは一生この人の手の中だ。
アネットには前の世界で身につけた知識がある。産地と消費地を繋げば価値が生まれることを、体で覚えている。行商の仮登録を取り、商人に紛れて王都を脱出した。
けれど逃げた先の宿場町では、なぜか部屋が用意されていた。港町の宿には公爵家の紋章入りの手紙が届いた。辺境の温泉街に隠れたら、湯治客のふりをした義兄本人がいた。
追いかけてくるのに、捕まえない。 監視しているのに、商売は止めない。
逃走経路は十二通り想定していた。お前が選んだのは八番目だ。
この人は有能すぎて怖い。けれど怖いだけなら、とっくに振り切ることを諦めている。振り切れないのに足を止めないのは、この人の本心が分からないからだ。
義務だと思えば楽だった。後見人の責任感だと片づければ済んだ。なのにレヴィは、聞いてもいないのにこう答えた。
義務じゃない。
アネットが各地で人を繋ぎ、小さな行商の輪を広げていく間も、義兄の影はずっとそばにあった。そしてかつてアネットを捨てた王太子が、今さら返せと言い出した時、彼女は気づく。
自分の隣に、いつの間にか誰かが立っていることに。
なぜこの人は追い続けるのか。その答えはまだ、誰にも明かされていない。
第1話「婚約破棄と義兄」
2026/03/27 12:15
第2話「過保護の檻」
2026/03/27 12:15
第3話「王都脱出」
2026/03/27 12:15
第4話「港町の女商人」
2026/03/27 12:15
第5話「追跡者の影」
2026/03/27 12:16
第6話「湯けむりの邂逅」
2026/03/27 12:16
第7話「薬草と温泉と」
2026/03/27 12:16
第8話「八番目の逃走路」
2026/03/27 12:16
第9話「繋がる道と声」
2026/03/27 12:16
第10話「隣に立つ人」
2026/03/27 12:16