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婚約破棄を悟った令嬢は断罪に向けて対策をする

作者: かん
掲載日:2026/03/13

婚約者は、他に好きなご令嬢がいるようだ。


その事に気が付いたのは、学園に入学して半年ほど経ったころ。

学園に入る前までは義務的とはいえ定期的に訪問してくれていたのに、ここ数か月彼の姿を見ていない。

どうしたのだろうと学園で彼を探していると、見つけてしまったのだ。裏庭の隅のベンチで他の女性と親密にしているのを。


私と彼は幼いころに婚約が決まったけれど、彼が私に恋愛感情を持っていないことは分かっていた。

素っ気ない態度の彼を私が好きになるはずもなく。

けれど貴族の婚約なんてそんなものだし、恋愛でなくても情くらいは湧いていると思っていた。

なのに。隠れるように女性と顔を寄せ合っている彼を見てしまうなんて。



「大変よコルト!逃げる準備をしなくちゃ!」


帰るなり鞄に本を詰めだした私に、従者のコルトが眉を顰めた。

そして「は?」と、従者が主に発するにはどうかと思う言葉を吐く。

背が高い彼がそんな態度をとると威圧的に感じるが、私は怯まない。慣れっこだからだ。


「ラミアお嬢様?そんなに本を持ってどこに逃げるというのですか、図書館ですか?」

「違うわよ。私、婚約破棄されそうなの!きっと国外に追いやられるのよ。その前に逃げてやるの!」


私の言葉を聞いて、コルトはますます眉間の皺を深めた。


「婚約破棄って、お嬢様と婚約者のアルバ様のですか?なんでまた」

「見たのよ、私。学園の裏庭で他のご令嬢と口づけをしているところを!」

「……お嬢様の夢では?」

「もう、コルトは私が学園でお昼寝をすると思ってるの?」

「思っています」

「もう!!」


プリプリと怒りながらも、机の上に置いた鞄を持ち上げる。

ずっしりと重い鞄に、本を入れすぎたと気付き中身を見直す。どれも大切な本だから全部持っていきたいのに。


「で?どこに逃げるんですか?当てはあるんですよね?もうここには戻ってこれなくなります。ご家族やご友人、心残りはありませんか?」


そう言われて、言葉に詰まる。

ほとんど衝動で逃げる準備をしていた。

どこか遠くに、とは思っていたけれどその場所は決めていなかったし、家族や友人に会えなくなることなんて考えていなかった。

黙り込む私に、コルトは大きなため息を吐いた。


「はあ。落ち着いてください。もし婚約破棄となっても、それはあちら側の過失になります。お嬢様が国外に追放されることはありません」

「で、でも、婚約破棄は悪事をでっちあげられてされるものだと相場が決まっているわ」

「それは小説の読みすぎですよ。卒業パーティーで婚約破棄なんて実際はありませんよ。両家が納得したうえで破棄されるものです」

「万が一ということもあるじゃない、そうだわ!いつ断罪されてもいいように対策をしておきましょう!」

「……もう好きにしてください」




「……それで?何をしているんですか?」


一か月後。

部屋で練習をしている私に、コルトは眉をしかめる。

そんな彼に、私は得意げに持っていた本を差し出す。

コルトは本を受け取ると題名を読み上げた。


「『サルでも分かる論破の仕方』……なんですかこの本は」

「ふふん。もし悪事を捏造されても戦えるように勉強してるのよ」

「この間まで、いつでも逃げれるようにって長距離走の練習していましたよね。まさか走って他国まで行くつもりなのかと思っていましたが。あれはもういいんですか?」

「それは今も特訓中よ!見てなさい、走って国境超えちゃうんだからね!」

「お嬢様、この国は島国ですから国境超えるなら水泳も練習しないと」

「それもそうね……!……って、そうならないようにいま練習しているのよ!」


コルトにお願いして、練習に付き合ってもらう。

コルトが婚約者のアルバ様役。パーティーの場で婚約破棄を告げられるという設定だ。


「ラミア、婚約を破棄してもらう。お前がこの令嬢を虐げていることは、分かっている」


台本をコルトが読み上げる。

ものすごく棒読みだが、私は優しいので目を瞑ろう。


「私そんなことしていません」

「嘘をつくな。証拠はあがってるんだ。先日、ラミアがこの令嬢を池に落としたところを何人もの人が見ているんだ」

「先日とはいつですか?目撃者の方のお名前は?」

「ふ、二日前だ。名前は……忘れたが、見たと聞いている」


今だ、とテーブルをバンと叩く。

コルトが目を少しだけ丸くした。


「異議あり!!二日前、噴水になど行っていません。常に誰かといましたし証言を集めてきますわ。それに、目撃者の名前が不明確です。明確にしてくださいませ!」


部屋がしん、と静かになる。

してやったりとコルトを見ると、彼は深い深いため息をついた。


「……ラミアお嬢様。テーブルは叩いてはいけません」

「でもいい線いっていない!?他国ではこのように反論するそうよ」

「でも、ではありません」




「……ラミアお嬢様?何をしているんですか?」


その数か月後。

私は植え込みに隠れてターゲットが来るのを待っていた。

授業が終わり私を迎えに来たコルトに後ろから話しかけられる。


「ちょ、隠れて隠れて!コルト大きいんだから突っ立ってたら目立つ!」

「はあ……。お嬢様、ものすごく怪しいのですが。暗殺の練習でも始めたのですか?」

「違うわよ!」


鞄の中から取り出した一冊の本をコルトに渡す。


「『サルでも分かる探偵のなりかた』?……なんですかこの本は」

「反論する練習はいい感じに上達してきたじゃない?でも、あっちが不利になる証拠も必要かなと思ったの。だからここでホシが来るのを待っているのよ!」

「そうですか……。だから頭に葉っぱをつけているのですね」


コルトが手を伸ばして私の頭についていた葉っぱを取る。

そしてその流れで私の手を引き馬車へと連行された。


「ちょっと、まだ途中だったんだけど?」

「探偵なら、俺の方で手配しておきますので。素人のお嬢様がやったところでいつかバレますよ」

「そう……?じゃあ、お願いしようかしら。よろしくね」

「はい」




またその数か月後。


「……ラミアお嬢様、今度は何を」


ため息交じりに聞かれ、私は動きを止めてテーブルの上の本をコルトに差し出した。


「『サルでも分かるシャドーボクシング』……前から思っていたのですが、お嬢様はサルなのですか?」

「なっ、違うわよ失礼ね!!これは、相手が物理攻撃してきた時に対抗できるようにしているのよ!」

「殴っては駄目なのでは……?」


コルトは机の上に本を戻し、私の両肩をぐっと掴んだ。

突然のことに驚いていると、コルトは少し屈んで私と目線を合わせた。


「シャドーボクシングではこのように掴まれたら抵抗できません。俺が護身術をお教えしますよ」

「護身術……」

「まあ俺が近くにいれば覚える必要はありませんが。それでも四六時中一緒というわけにはいきませんし、覚えていて損はないはずです」


パッとコルトの体が離れる。

コルトとは何年にもわたる付き合いだが、こんなにも至近距離で彼の顔を見たのは初めてだった。


脳内で婚約破棄の場を想像する。

確かに、いざという時に必要なのは相手を攻撃する力ではなく、いなす力のように思えた。


「そうね……!お願い、教えて!」

「はい。本を書いて差し上げたほうがよろしいでしょうか?『サルでも分かる護身術』」

「ええ、お願いできる?」

「……え?まじですか、冗談で言ったのに」




そして、その時は来た。


時は流れ、三年の卒業パーティー。

ここ最近のアルバ様はこそこそと怪しい行動をしていたので、この卒業パーティーに婚約破棄を告げられるのだとすぐに分かった。

迎え撃つ私は準備万端。

この日のために約二年、努力をしてきたのだ。いつでも来いという心持ちだ。

私と一緒に準備をしてきたコルトは、華やかな場で婚約破棄を告げるという行為が信じられないみたいだ。

お嬢様の勘違いではないですか?と、最後まで疑いながらもパーティーの給仕係に紛れ込んだ。



「ラミア!お前との婚約を破棄する!!」


テンプレなセリフを言いながら、アルバ様がびしりと私を指差す。

衝撃的な言葉に、楽しく談笑する声で溢れていたフロアがしんと静まり返った。

皆が不安げな、または興味津々な瞳で私たちを見る。

アルバ様の後ろには、彼に引っ付くようにして私を怯えたように見る一人のご令嬢。

間違いない。裏庭でアルバ様と口づけをしていた彼女だ。


「お前が、アニスを虐げていることは分かっている。そんな下劣な女と結婚はできない!」


あまりにもテンプレすぎる言葉に、思わずにやけてしまいそうになる。

もう何回もイメージトレーニングしてきたのだ。やっと本番。

まるで千秋楽の舞台に立っているかのような気分だった。


「まあ。私、何もしていません。一体何をしたというのでしょうか?」

「しらばっくれるな。アニスの教科書をびりびりに破いたのはお前だと分かっている!」

「証拠は?」

「アニスがそう言っている!」


思わず吹き出しそうになった。

弱すぎる証拠。私たちのイメージの中のほうがちゃんとした証拠を提示してきたくらい。

そんなんで勝負には勝てない。


私は近くにあった料理が乗ったテーブルを、バンと叩いた。

乗っていた皿がカタカタと音を立てて揺れる。

少し先でコルトが頭を抱えているのが見えたが、気にせずに大きな声で言う。


「意義あり!それでは証拠とは言えません!」


私の言動に、アルバ様と後ろの彼女が目を丸くする。

いや、二人だけでない。私たちの動向を見守っていた皆が驚いていた。

固まってしまったアルバ様に、畳みかけるようにこちらの主張を続ける。


「彼女が私を陥れようと嘘をついてる可能性だってあるのです。きちんとした証拠をお願いいたします。破られた教科書に私の指紋が付いていたのでしょうか?他に目撃者は?それに私は常にどなたかと一緒に行動していました。破られた日付と時間は分かりますか?その時私が、どこで誰と何をしていたか、証人を集めますので教えてください」


私の言葉に声を上げたのは、ずっとアルバ様の後ろに隠れていたアニス様だった。

先ほどまで怯えていたような顔をしていたのに、怒ったように声を荒げた。


「そんなっ、日付なんて覚えてないです!それに、移動教室から戻ったら教科書が破れていたんです!そしたらクラスメイトの方がラミア様がやったのだと教えてくれて……!」

「そうなのですね、その方のお名前は?私はやっていませんので、その方が見間違えたのか、もしかしたら犯人なのかもしれません」

「それは……っ、わ、忘れました!」

「三年間持ち上がりなのにクラスメイトの名前を忘れてしまったのですね。……よろしければ、犯人探しに協力いたしますわ。詳細をゆっくりでいいので思い出してくださいませんか?」

「け、結構です……!」


アニス様が慌てたように身を引く。

その様子からして、教科書が破られてというのは狂言なのだろう。

私の言葉とアニス様の様子に、周りにいる生徒たちもそれに気が付いたようで、いたるところでひそひそと小声で会話する声がした。

手ごたえを感じながらも、彼らが再び喧嘩を持ち掛けてくる様子がないので、次のステップに進む。


「アルバ様、婚約破棄は反対しませんので進めていただいて結構です。ただ、そちらの過失ということになりますが」


この言葉に、驚いて口をパクパクさせているだけだったアルバ様が突っかかる。


「な、なんでだ!」

「だってお二人は恋人同士なのでしょう?婚約者がいながら深い仲だとか……」

「た、確かに俺とアニスは想い合ってはいるが……、でもそれだけだ!恋人らしいことはしていない!」

「本当にそうでしょうか?」

「……なっ」


コルトに目で合図すると、大量の紙を生徒一人一人に配り始めた。

それを見た生徒たちがざわめきだす。

そして最後に動揺するアルバ様に残った紙を渡した。

紙には、ここ二年間のアルバ様とアニス様の逢瀬の様子が事細かに書かれていた。

何日にどこで手を繋いでいたとか、口づけをしていたとか、変装して宿に泊まったといったことさえ。

紙を持つアルバ様の手が震える。顔は怒りか羞恥か、真っ赤に染まっていた。


「ラミア、お前……!」


紙を放り投げ、アルバ様が私に拳をあげる。

殴られる。そう思うも恐怖はない。

これも何度もイメージトレーニングした一つ。きたきた!といった感じだ。

脳内でコルトと練習した護身術を思い浮かべながら、両手を前に出し、殴りかかってくる手を躱しアルバ様を突き飛ばす。

予想していなかったであろう反撃に、アルバ様はバランスを崩し尻もちをついた。

アルバ様は目を丸くしていたが、すぐに悔しそうに私を指差した。


「これは状況証拠にすぎないだろ!嘘に決まっている!」


今度は私が目を丸くする番だった。

さっきアニスがそう言ったことが証拠だ、とか言っていたのに状況証拠という言葉をご存知だったのですね。

けれどこれ以上の証拠……。

探偵業はコルトに任せっきりだったのでちらりと彼を見ると、頼もしく頷かれた。


「はい。証人がいます。お願いいたします」


そう言ってコルトが連れてきた人物に、会場が更にざわつく。

かという私も、驚いてしまった。

そこにいたのは、公爵様。つまり、


「ち、父上……」


アルバ様のお父様だ。




「終わった終わったー!」


あの後、アルバ様とアニス様は公爵様にこってり怒られ、私には謝ってくれた。

婚約は後に書類手続き等をしたら無事に解消だ。

公爵様が問題の二人を会場から引っ張り出したことで、卒業パーティーはぎこちなくだが再開し、私は祝杯のオレンジジュースをがぶ飲みしてたらふくご飯を食べた。

満腹になったお腹をさすりながらバルコニーで夜風を浴びていると、給仕服を脱いでいつものスーツに戻ったコルトが隣に並んだ。


「お疲れさまでした」

「ありがとう、コルトもね」

「ありがとうございます。……まさか本当に婚約破棄を突き付けられるとは思いませんでした」

「……その割には公爵様まで呼んでたじゃない?私聞いてなかったんだけど?」

「はい、言ってなかったので」

「もう!!」


少しの間、二人で星を眺める。

これからのことを考えると、婚約破棄や新しい婚約やらで大変なことになるだろう。

けれど今は、達成感と安堵感でいっぱいだった。


「ねえ、走って帰らない?」


いい事思いついた、と私は満面の笑みでコルトに提案した。

けれどそんな私とは対照的にコルトはとても嫌そうな顔をした。


「ええ~……そんなドレスでなんで走ろうなんて思うんですか」

「いいじゃない。ほら、練習したことほとんど実践できたでしょ?なら、走るのも実践したいなって!ドレスで走る練習もしたから大丈夫よ!」


ぐいぐいと腕を引っ張ると、コルトは大きな大きなため息をついた。


「しょうがないですね。転ばないでくださいよ?」

「もし転んだらコルトに抱えてもらうから大丈夫よ~!」

「何が大丈夫かまったく分からない……」


ブツブツ文句を言いながらも、コルトはいつも私に付き合ってくれる。

星明りの下、パーティードレスの令嬢とスーツを着た従者が約10キロの道のりを走っていた。



happy end



☆★☆★☆★☆★


ラミア・ジベルニー(18) 後にコルトに告白されるも、「私も好きよ!」と無邪気に返す鈍感破天荒ガール。

コルト・リール(23) お嬢様の婚約がなくなって嬉しい。ラミアの父に新しい婚約者を決めるのを待ってもらいアタックの許可もとっているが、肝心のお嬢様が鈍感すぎて辛い。

いつか続きを書きたいです。

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ラミアがおもれー令嬢だ。
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