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戦士の国ライガイア  作者: 染舞
若き頭領ガジンのライガイア復興録
9/9

最終話「タンダの名」

 ガジン=タンダは、久しぶりに来た首都の城内を、戦場に向かうような顔つきで歩いていた。その足取りはあまりにも力強く、今にも鎧の音が聞こえてきそうだった。


 以前、彼がここに来た時は父と一緒だった。あの時は、力強いその背中を追いかけるだけで良かった。

 あの時は感じなかったその重みを、彼は今、自らの背中に感じ取っていた。


「止まれ。この先は神子様の部屋だ。何用か」

「……面会だ。あのタンダの」


 ここまでガジンを案内してきた兵士が言うと、警護たちは「ああ」と少し口元を歪めながら頷いた。首都の者たちからすれば、モンスターウェーブで甚大な被害、などという恥を世界に晒した存在がブレン。その頭領のタンダは嘲りの象徴だった。


「神子様の寛大な御心に感謝することだな」

 吐き出すような警護の言葉に、ガジンは反応しない。彼にはそんな無駄なことに労力を費やす気はない。小者の話にいちいち腹立てていては進めない。


 部屋に通される。


 ガジンは豪華な部屋には一切目もくれず、一段高い場所に座るその人影を見た。

 彼が思っていたよりも小柄だった。片手で瞬時に握りつぶせそうなほど弱く見えた。

 だが、黒い前髪から見える金の瞳に、さしものガジンも息を呑んだ。


 ライガイアが崇拝する神に等しい存在、竜人族と同じ色。


 そんな彼らと同じ色の瞳が目の前にある。それはライガイアに住む者たちにとっては、表現しがたいほどの感覚を呼び起こさせる。

 身が震え、今すぐに角を床に擦り付けたい感覚にガジンは陥りかけた。


 タンダの……ブレンの魂を背負っていなければ、今頃彼はこうして立った状態ではいられなかっただろう。


「……お、初にお目にかかります、神子様。我が名はガジン=タンダ。タンダの名を継ぎ、ブレンの頭領をしております」

「っ、う、うん」


 神子はびくりと大げさに肩を震わせ、返事をした。しかし金の瞳はガジンに固定されず、部屋のあちこちを彷徨う。


 ガジンは沈黙した。神子が何かを言いたそうにしていた。彼は何度も「あの」や「その」と話そうとしては口を閉じるを繰り返していた。

 そんな様子に、ガジンはふと気づいた。


(そう言えば神子は、弟よりも年下だったか)


 年の離れた弟の、さらに年下の子どもという事実に気づき、ガジンはふっと体から力を抜いた。頭の中では、弟からよく怒られたことを思い出していた。


『蒼角族が何だっていうんだよ! 俺は俺……タンダの一員だ!』


 そう。眼の前の鬼人族もまた、青く気高い肌と、猛々しく美しい三本の角に、どこまでも神聖な輝きの金の瞳を持っていても、一人の鬼人族であることに変わりはなかった。


 そうしてガジンが気持ちを緩めたからか。神子もほっと息を吐き出し、口を開いた。


「僕は――リュウガ、だ」


 震える声で神子……リュウガは名乗った。


 家名は名乗らなかったが、当然だ。唯一無二の存在なのだ。家名など不要。


 ガジンは……唖然とした。まさか神子に名乗られるとは思わなかったのだ。ライガイアの者にとって、限りなく神に近しい存在の神子が名乗る。それは対等な立場での話し合いを求めているということだ。


「僕は、最近ようやく知った。10年前に何が起きて、そして……今もお前たちが苦しんでることを、とある人達から聞いた」


(人達? 一体誰がそんな事を神子に言ったんだ? いや、それよりも今、眼の前で何が起きている? 神子が――名乗った?)


 ガジンはまだ混乱の中にいた。その混乱は10年前の父を失った時と変わらぬほどに大きかった。


「……ガジン?」


 しかし、不安そうに揺れる金色の瞳が、あの日の弟の青い瞳と重なって、我に返った。


「失礼しました。私でよければなんなりとお答えいたします。……我等のことを知ろうとしてくださったこと、感謝いたします」


 ガジンは少し微笑みながら、自然と礼をした。それは格式張ったものではなく、心からの感謝の礼だった。


「い、いやっ僕は何も……出来なくて。でもっ、知ることが大事だって聞いたから……」


 感謝の言葉を聞いたリュウガは、青い肌を紫に染めた。照れて恥ずかしがる姿は、やはりただの少年にしか見えない。ガジンはさらに笑みを浮かべた。


「それで、リュウガ様。何からお話しましょうか」

「っ!」


 何気なく声をかけたガジンに、リュウガは驚き、動きを止めた。やがて、金色の瞳がまるで太陽のように輝く。


 ガジンは知らない。ただ名前を呼ばれた。それだけのことが、少年の心をどれだけ温めたのかを。


「うん! いろいろっ、色々聞きたいんだ! ガジンのこと、ブレンのこと、この国のこと……僕に……出来ること」

 自身に出来ること、のところでリュウガは小声になったが、また息を吸い込んで、言い切る。


「色々教えてくれ、ガジン!」


 ガジンは何も知らぬまま「はい、リュウガ様」と力強く頷いた。

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