第2話「お嬢様とへそくりと金の瞳」
ライガイアの鬼人たちは、主に三部族。
紅角族。
玄角族。
翠角族。
そしてそんな部族どこからでも突然生まれるのが蒼角族で、彼らは他の種族より格が高いとされ、存在しているだけで敬われる。
だが、蒼角族よりもさらに上の存在がいる。それが――
「三本角の鬼人族なんです」
「三本、ね。伝説だろ?」
ヴァレリオは、目を輝かせて鬼人族について語りだしたリーリアルナに、淡々と返す。
しかしリーリアルナは「ふふん。甘いですよ! ギルバートおじ様のへそくりを隠す場所並みに甘いです!」と、腰に手を当てた。
「なんでも最近、三本角の鬼人族が生まれたそうですよ!」
「へそくり……」
ヴァレリオは、冒険者ギルドのトップに立つ男と『へそくり』と言う言葉が、頭の中でどうにも結びつかなかったらしい。変な顔をした。
それから首を振った。――尊敬している男の情けない話は、聞かなかったことにしたようだ。
「ってか、なんでそんなことをリル嬢が知ってるんだ? どこから聞いたんだよ」
「鬼人族の中にも知識を求める方もいますから。私が通った学校の同級生の鬼人の方から聞きました。……あ、ちなみに彼女は二本角の方ですね」
リーリアルナは、そこで一旦言葉を切り、残念そうな顔をする。
「わたくし、まだちゃんと一本角の方とお話したことないんです。だから一本角と二本角で才能の方向性や性格の偏りが生まれやすいという俗説についてまだ検証が――」
「リル嬢、話がそれてるぞ」
「あら、いけない」
まぁっと驚いて両手を口元に置くリーリアルナ。そういう仕草は『ちゃんと』お嬢様だ。
「それでその三本角の方なのですが、なんと! なんとなんと! 蒼角族の方なんですって」
「……は? 蒼角族?」
「そうなんですよ! 三本角、蒼角族。どちらかだけでも凄いのに両方です! それはもう国を上げての賑わいだったそうですよ」
リーリアルナが無邪気に手を叩いて言うのに対し、ヴァレリオは片手を口元に当て、「そんなこと、あいつは何も……」と何かを言いかけた。
彼の赤い瞳が炎のように揺らめく。
「ヴァレリオさん?」
「あ、いや。悪い。なんでもない」
彼女は一瞬首を傾げたが、ヴァレリオが「それで?」と先を促すと、また笑顔になって話し始めた。
「最近、とは聞いたのですが鬼人族の方は私たちよりも長命でいらっしゃいますからねぇ。個体差が大きいようですが、記録上一番の長寿の方は589歳だったそうです!」
「それまた……エルフほどじゃなくても、俺らには途方もないな」
「すごいですよね! 結界樹……及びリンドベルの歴史が600年と考えると、もしかしたらその方は結界樹がもっと小さい時を知っているかもしれませんね。まぁ、実際エルフの方は、小さい結界樹を知ってるそうですが」
リーリアルナの興味はころころと変わる。だが口に出すことで彼女なりの考えをまとめているのだと、しばらく共に過ごしてヴァレリオは理解していた。
そのため、ある程度はその一人喋りを放置する。
「それで平均的には250から……長くても500年と言われてます。そんな方々の言う『最近』ですからね。
下手をすると、もう成人されてるかもしれません」
「成人か……どっかで働いてんのか?」
「いえ、たぶん国の奥地で大切に『保護』されているのかと思います。蒼角族で三本角ですし」
それまで意気揚々と話していたリーリアルナがふと黙り込む。保護、と口にしたものの、それが本当に保護なのか。鎖なのか、彼女には判断がつかない。
何よりも彼女は理解している。彼女の立場もまた、彼と同じようになっていた可能性がある、と。自由な気風のリンドベルだからこそ、リーリアルナは自由な行動をとれているが、それが当然の権利でないことを、ちゃんと彼女は理解している。
ヴァレリオは黙り込んだリーリアルナの頭を撫でた。
「……それで?
三本角ってのは、他に特徴ないのか? なんで敬われるとか、そういうのあるのか?」
質問されると、「ありますよ!」とリーリアルナは再びきらきらと目を輝かせ、ヴァレリオは彼女に気づかれぬようにホッと胸を撫で下ろす。
「そもそも蒼角族の方が敬われるのは、国の創設者が蒼角族で、国の危機に活躍した人の中に蒼角族が多いからと言われてます」
「なるほど。たしかにそりゃ尊敬もされるか」
「ですです!
対して三本角の方は……竜人族の血を引いていると言われていて、その理由は――」
リーリアルナはそこで一度言葉を切って、言った。
「竜と同じ……金の瞳を持つと言われてるからです!」




