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戦士の国ライガイア  作者: 染舞
新米学者リルのライガイア旅行日誌
4/9

第1話「お嬢様と草と悲鳴」

「こ、この香りはっ! まさか――!」

 少女が駆け出した。そんな少女を慌てて追いかけるのは、鋼の鎧と赤い外套を身に着けた冒険者らしき青年。

 青年がすぐに少女に追いつき、その腕を掴む。


「おい! だから……一人で勝手に行動するなって言ってるだろうがっ!」

「あ、ヴァレリオさん」

「あ、じゃねえよ。ほんと、頼むぜ……」


 青年の名はヴァレリオ=アークライト。リンドベル所属の希少なAランク冒険者だ。



挿絵(By みてみん)


 そしてそんな彼にため息をつかれてきょとんとした少女の名は――。


「まぁ。お疲れなのでしょうか、ヴァレリオさん。休憩されますか?」

「いや……はぁ。とにかく、ちょっと落ち着いてくれ、リル嬢」


 リル。

 リーリアルナ=リンドベル。……現リンドベル領主の実の孫娘だった。


「あら、わたくしとしたら、失礼しました。ごほんっ。

 ですがヴァレリオさん! この香り、分かりますかっ? あの草から香っているのですが、この草はこの地域では虫よけとして使われているもので、これを燻した煙が――」

 上品な仕草で頭を下げたリーリアルナだが、次の瞬間には途切れることなく言葉が飛び出てきて、草について説明しだす。ヴァレリオには『ただの草にしか見えない』それに対する熱意は、凄まじい。


 そんな彼女を、ヴァレリオはやはり呆れた様子で(また始まった)と見ていた。二人が旅に出て、しばらくが経つ。もはや慣れっこになっているようだった。

 リーリアルナは学院を卒業したばかり。しかしこの国――ライガイアの文化を実際に見たいと強く願った結果、護衛としてヴァレリオが選ばれ、彼女たちはこうしてライガイアの国を巡っている。


「……レイヴンさんが『くれぐれも自分のペースを保つように』って念押してた意味がわかるぜ」

「ということで、この草の栽培の歴史は古く……って、レイヴン様がどうされたのですか?」

「いや、なんでもない。それで? この草、採っていくのか?」

「そうですね。今夜の野営で使ってみましょう! 実際どれだけ効果があるのか……わたくし、検証してみたいです!」


 気品を保ちつつも、好奇心を全身から溢れ出しているリーリアルナに、ヴァレリオは肩をすくめた。彼は所詮雇われだ。強くは言えないのだろう。


「分かった。ただし、俺が採取するし、まずは俺が試すからな」

 安全か分からないものに触れさせるわけにはいかない、とヴァレリオが言いながら、例の草を採取しにいく。

 リーリアルナは不満そうにしつつも、「仕方ありません」と頷いた。彼女は自分の立場を理解してはいる。――好奇心が勝つだけで、一応理解はしているのだ。

 

「わたくしに何かあってはヴァレリオさんの立場がありませんし、ここは……涙を飲んでヴァレリオさんに『初めて』の権利を譲ります」

「いや、まぁ俺の立場はどうでもいいんだが……って、おい! 語弊がある言い方するなよ」

「? 語弊ですか?」


 何かまずいことを言ってしまっただろうかと、心底理解できないという顔でリーリアルナは唸った。腕を組んで考え込んだが、まったく何のことか分からなかった。

 ヴァレリオがそんなリーリアルナに肩を落とす。


「……もう気にするな」

「? はい、分かりました! 気にしません!」

「素直だな。そこはもうちょい気にしろ」

「えと、結局わたくしは気にするべきなのでしょうか? では、何を気にすればよいのか具体的に――ひゃっ」


 教えてほしい、と言いかけた彼女は足元を見ておらず、小さな凹みに気づかなかった。ぐらりとその体が傾く。


(倒れてしまいますっ!)

 思わずぎゅっと目を瞑ってしまったリーリアルナだが、予想した衝撃も痛みもない。代わりに冷たい金属の感触がした。

 見上げるとヴァレリオがホッとした顔をしている。


「大丈夫か? 気をつけろよ」

「まぁ、ありがとうございます、ヴァレリオさん……さすがAランク冒険者ですね! さっきまであんなに離れていたのに」

 草を採取するためにヴァレリオはリーリアルナから少し距離を置いていた。しかも背中を向けていたのだ。彼女は心から驚き、感心した。

 そして、興味が湧いた。


「今のは一体どうやって動いたのですか? 魔法でも使われたのですか? いえっ、そもそもわたくしが転んだことにはどうやって気づい」

「わっ、こらっ! 近い! 近いって! 分かった、話す! 話すから少し離れろっ。

 ほらっ草も採ってきたから!」


 身を乗り出して聞き出そうとするリーリアルナに、ヴァレリオは少し頬を染めながら離れようとするが、彼女の火のついた好奇心はそう簡単には収まらない。


 ライガイアのとある森の中で青年の悲鳴が響いたが、残念ながら助けはなかった。



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