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9 聖杯の番人 ①

シリルは思った。

やっと、やっと報われた、と。




――聖女召喚の儀式の後、シリルは神官長からこう言われた。



『よいかシリル。そなたは聖杯の番人。他の者よりも遥かに聖杯と馴れ親しんでおるそなたであれば、きっと聖杯の行方を見つけ出すことができるであろう』


そんな無茶な。

シリルは真っ青になり、ふるふると首を振った。

だが、そんなシリルにおかまいなく、神官長は言い放った。



『おそらく聖杯の側には聖女も居られるだろう。よいかシリル、一刻も早く聖女と聖杯を見つけ出すのだ!』



そして。

それからすぐに、シリルは聖杯と聖女探しの旅に出た。



最初のうちは良かった。

数人の神殿所属の魔法使いとともに、騎士団から派遣されてきた護衛に守られながらの安全な旅だったから。

だが、時が経つにつれ、一行の中には不満の声が上がって来た。



『もうすでに旅に出てから一年近くが経つ。神託で予言された魔王の復活の日はとうに過ぎたのに、何故何も起きないのだ!』

『何も起きないのは喜ばしいことではないか。だが、確かにおかしいな。何故、魔王は復活しないのだ』

『それこそが聖女様のお陰なのだろう。聖女召喚は確かに成功したということだ』

『では、もう聖女様を探す必要はないのではないか?』   



何の成果も得られない長旅を続けるうちに、魔法使いも護衛達も、自分達が何のために聖女を探しているのかという目的意識が曖昧になってきたようだ。


何も起きていないのだから、このままで良いのでは?

そもそも、神託は本当に正しかったのか? 魔王復活など、嘘だったのではないか?

そんな声も聞かれるようになり、一行はひどく(まと)まりを欠いた。


このままではいけない。

シリルと共に、護衛としてこの旅を続けていた騎士の一人――彼は騎士団長の三番目の息子で、一行の中ではかなりの発言権があった――は、そう思い、ある提案をしてきた。



『このままでは、勝手に王都に帰る者も出始めるだろう。そうなれば、その者は職務放棄の罪を負うこととなる。ここまで必死に職務をこなしてきた者達に、そんな罪を負わせるのは不憫だ。ここは一旦、王都に戻り、上からの指示を仰ごうではないか』


誰もがその提案に喜んだ。もちろん、シリルもである。

家族から離れた終わりの見えない長旅は、彼らの心をひどく蝕んでいた。

天涯孤独の孤児であるシリルでさえ、そうだった。



『それでは、早速、王都に戻りましょうか~』

『いや、待てシリル。お前はこのまま旅を続けるのだ』

『……は?』


意味がわからなかった。

シリルはポカンと口を開けたまま固まってしまった。

そんなシリルに向かって、騎士団長の三男はこう言い放った。


『お前は聖杯の番人だろう? このまま聖杯探しの旅を続けなくてどうするのだ。お前の大事な聖杯が、早く迎えに来てくれと待っているに違いない。……王都に戻り次第、すぐに次の人員を出すように上に掛け合うから』


その言葉を言っている時、騎士団長の三男はシリルからすっと目を逸らした。

その仕草でシリルは気づいた。

自分は、彼らから見捨てられたのだと。



終わりの見えない長旅で疲弊した彼らは、なんとしてでも王都に帰りたい。

だが、全員で帰ったら、神官長や王からどんな叱責を受けるかわからない。

だから、シリルを置いていくのだ。

シリルに旅を続けさせることで、聖女と聖杯の探索は続いているのだと言うために。

自分たちは少しばかり体調を崩したため、一旦帰って来たが、聖杯の番人であるシリルは依然として探索を続けている。なので問題ないだろうと言うために。



そして、去り行く彼らの背中を見送りながら、シリルは思った。

結局自分は、またしても置いて行かれたのだと。



シリルは捨て子だった。


ある寒い雪の日。

裕福な商人の家の玄関前に、籠に入れられ置き去りにされた赤ん坊がいた。

その商人夫婦には子供がいなかったため、夫婦はその赤ん坊を引き取って自分達で育てることにした。

赤ん坊はシリルと名付けられ、すくすくと育っていった。


だが、シリルが3歳になった年、夫婦の間に息子が生まれた。

夫婦は悩んだ末に、シリルを神殿に預けることにした。

幸いにも、シリルには魔力があり、魔法使いになれる素質があったのだ。


『只の商人になるよりは、神殿に行って魔法使いになる方が余程名誉なことなのだ』


養い親達からそう言われたシリルは、黙ってこくりと頷いた。

幼いシリルにはその言葉の意味を理解することは難しかった。

それでもシリルは黙って頷いた。

本当の子供が生まれたからには、自分が厄介者になったことを悟ったからだ。



そしてシリルは神殿に預けられた。

神殿には神官と魔法使いがいる。


魔力がない者は神官として神に奉仕する毎日を送り、魔力がある者は魔法使いとして神にその力を捧げる。

シリルには人と比べて潤沢な魔力があったため、一時は魔法使いの塔に送られそうになった。

魔法使いの塔とは、多くの魔力を保有した者が大魔法使いとして修業する場所だ。


だが、シリルが魔法使いの塔に行かされることはなかった。


何故なら、シリルは聖杯に選ばれたからだ。







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