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19 答え合わせの時間です ③


ルカリオンは膝立ちになると、ユイの腰に(すが)りつくように両腕をまわした。

そうすると、ユイが見上げたところにあった頭が、いつもの子供の姿の時と同じくらいの高さになった。



「ルカ……」


ユイは名前を呼びながら、ルカリオンの頭を撫でた。

子供の姿の時とは違う大きな角。

背中の真ん中まで伸びた黒髪。

そんな恐ろしくも見える姿でいたとしても、これは確かにルカだ。



「ねえ、ルカ。私ね、どうしてもわからないの。何故、聖女……ううん、(つがい)に選ばれたのが私だったのか」



ひどく暗い声でユイは言った。

いつものんびりと達観した様子のユイが、初めて見せた感情。



「最初に魔法陣が現れたのは、私の足元じゃなかったの。隣にいたとても可愛い女の子と、綺麗なワンちゃんの方だったのよ」



そう。あの時、魔法陣は確かにサーシャちゃんとルドルフくんの足元に現れた。

なのに、何故か私と太郎の方に移動してきたのだ。



考えても答えがでないので、考えるのを止めてはいたけれど、忘れたわけではないのだ。


ユイはいつだってそうだった。

考えて考えて考え尽くして、それでも答えが出ない時は、考えるのを止める。


どんなに考えても答えの出ない問いを、それでも考え続けるという事は、ひどく疲れることだった。


いや、疲れるだけでは済まない。

自分でも気づかないうちに心がどんどん壊れていき、取り返しのつかないところまで追い込まれてしまう。


だからユイは、そうなる前に考えるのを止める。

だって、ユイは生きて行かなければならない。

そのためには、自分を壊す疑問など見えるところには置かず、心の奥底に沈めてしまうしかない。


だがそれは、決して、すっかり忘れ去ってしまうということではない。


そして今、その答えが得られるかもしれないのだ。

ユイはこの機会を逃すつもりは無い。



「どうしてなのか、教えて、ルカ」



いつの間にか、ユイの顔からは笑顔が消えていた。

ガラス玉のように虚ろな瞳が、ルカを静かに見下ろしている。



「何故、私が選ばれたの?」



なんて答えたら良いのだろう、とルカは必死に考えた。


上手くは言えないが、今が正念場な気がする。

ここで答えを間違えると、ユイは一生自分に心を開いてくれなくなるかもしれない。



「アデライドさんが聖杯に化けてた時、『聖杯の番人』を選ぶ時の条件に『天涯孤独であること』ってあったじゃない? それって。自分だけを見てほしいからそういう人を選ぶってことよね? だったら……」



ゆっくりとルカリオンの頭を撫でていたユイの手が、不意に止まった。



「番を選ぶ時の条件も、『天涯孤独であること』なのかなって思ったのよね。でね、ちょっと変なことが頭に浮かんじゃったのよね」



ユイは一旦そこで、言葉を切った。

そして、息を深く吸い込んでから、少し早口で話し出した。



「もしかして。私が番になることはもうずっと前から運命で決まっていて…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



ユイの声が微かに震えた。



「だとしたら、私は…………」



お願いだ。頼むからもう、それ以上は言わないでくれ。

ルカリオンはそう思って口を開きかけた。

だが、そこで。



「あはっ、違うわよ! あなたが()()()()ルカリオンの好みのタイプだっただけよ! 全くもう、随分とおかしなことを思いついたわねぇ」



場違いなくらい明るい声で、アデライドが言った。

呆れたような面白がるような、そんな微笑みを顔に張りつけて。



「……好みのタイプ? 私が?」


「ええ、そうよ。私、ルカリオンの従姉で小さい頃からあの子を見てきたけど、ずーっと一貫して黒髪黒目のロングヘアが良いって言い続けてるわ。多分だけど、母親の影響ね。意外とマザコンなのよ」


そんなことを言われてしまって恥ずかしいのか、ルカリオンはユイのお腹にぐいぐいと頭をくっつけてしまい、顔を見せないようにしている。



「ねえ、私、あの時、聖杯の姿で魔法陣の上に乗っかってたじゃない?」


あの時。聖女召喚の儀式が行われた時。

アデライドは聖杯の姿で魔法陣の真ん中に置かれていた。


なので魔法使い達が魔力を陣に流し込み、魔法陣が起動すると同時に、アデライドにもその一部が流れ込んできた。

その結果、一時的にアデライドと魔法陣は繋がった。



「だからね、私、魔法陣が何をしようとしたかわかったの。あの時、魔法陣はたしかにあなたの隣の女の子のところに発現した。でも、ほら、あの子ってちょっと髪の毛が茶色っぽかったし、目も真っ黒ではなかったでしょう?」



たしかにそうだ。

サーシャちゃんは、天然の茶髪に色素の薄い緑色がかった瞳だった。



「でね、魔法陣は隣にいたあなたを見て、あれ? こっちの子の方が魔王の好みにピッタリじゃん! って思ったみたい。だから、あなたの方に近寄って行ったのよ」



アデライド曰く。

そもそも聖女召喚の儀式のための魔法陣は、人間が一から考えたものではない。

正体を偽って神のふりをした魔王が、神託の形を借りて人間達に与えた図面を基に描かれるのだと言う。


そして、なんと、その図面の中には『魔王の好みのタイプの娘を連れてくるように』という命令が折り込まれているのだそうだ。



「ええっ! そうだったんですか〜!? 確かに、代々伝わる魔法陣だって聞きましたけど〜」



魔王の復活を阻止するために聖女を召喚する。

そのための魔法陣なのだ。なのに。

実際は、魔王が自分の好みのタイプの女性を呼び寄せるための魔法陣だったなんて!


シリルは信じられない思いでアデライドとルカリオンを見た。



「だからね、別にそんな深い意味なんてないのよ! ()()、あの女の子の下に魔法陣が現れて、()()()()あなたを見つけて近寄って行った。ただそれだけのことなのよ。そう、()()()()()()()()のよ!」


「偶然……」


「そう、偶然」


アデライドが力強く頷いた。


そんなアデライドを見て。ユイが笑い出した。

可笑しくてたまらないとでも言うように。



「ふふっ、本当かな? 私はルカの好きなタイプなの? あー、でもサーシャちゃんて黒髪黒目ではないけどすっごい美少女なんだよ? ルカも会ったら好きになってたと思うけどなー」


「そんなことは絶対にない! 私はユイが良いんだ! ユイ、私はユイが好きだ! ユイがいいんだ! だから、ユイ……どうか、どうか私の花嫁になってくれ!」



顔を上げたルカリオンが見たものは。

潤んだ目で自分を見つめ、こくりと頷くユイの笑顔だった。






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