18 答え合わせの時間です ②
そもそも、何故、異世界から召喚された聖女たちは、人間の国に呼ばれるのか。
魔王の番になるのなら、魔族の国に呼び落とせばいいのでは?
ユイは不思議そうな顔でルカリオンにそう問いかけた。
そう思うのも無理はない。
それに対して、ルカリオンはこう答えた。
人間は、魔族の国では暮らしていけないからなのだ、と。
そのため、召喚された聖女には、しばらく人間の国で過ごしてもらう必要があった。
そこでガイアの実を食べつつ体質改善をはかり、無事に魔族の国に行けるようにするのだ。
この森の中の一軒家は、そのために用意されたものだった。
代々の魔王たちは、ここで聖女たち――つまり自分の番と過ごしていた。
大抵の番は、突然異世界に連れて来られてパニックになっている。
その状態の番に、いきなり自分と一緒に魔族の国に来て欲しいだなんて言っても、拒否されて嫌われるのがオチだ。
下手したら、泣き喚いて近寄れない状態になるかもしれない。
そこで、この『森の中の一軒家で一緒に暮らす作戦』なのである。
過去の魔王たちの経験から編み出された、番に気に入られるための工夫の数々。
そのうちの一つに、『小さい子供の姿でいれば、番から警戒されない』というのがあった。
ちなみに、これはルカリオンの曾祖父がやって大成功だった技である。
なのでルカリオンもやってみたのだが――結果、大成功だった。
ユイはルカリオンを『ルカ』と呼び、一緒に入浴したり、同じベッドで眠るほど気を許してくれた。
あまりペラペラと喋って、子供ではないことがバレないように、ほとんど口を開かなかった。
おかげでユイは、ルカリオンのことを何らかのトラウマを抱えた無口な子供だと思いこんだようだ。
本来のルカリオンはおしゃべりな方なので、これは地味にストレスだったが、ユイに気に入ってもらうためだからと必死に喋るのを我慢した。
ちなみに、これは余談なのだが。
家の裏の露天風呂は、ルカリオンの父親である先王ダンダリオンが、特別に手ずから作り上げたものだ。
お風呂大好きなお松が、故郷の風呂をひどく懐かしがったため、急遽作ったらしい。
出来上がった露天風呂を見て、お松は大喜びで小躍りし始めた。
挙句の果ては、その時に着ていた筒型の衣服を脱ぐ際に、『この帯の端をしっかりと握って、思い切り引っ張ってご覧なさいませ』と言い出した。
どう言うことかと怪訝な顔で、言われたとおりに帯の端を持って思い切り引っ張ったダンダリオン。
帯が解けるにつれ、あーれー♪と楽しげな声をあげて、コマのようにくるくると回るお松。
それを見て、キャンキャンキャン! と意味もなく騒ぐ狆のお犬様。
驚いて目を丸くしたダンダリオンにお松は言った。
『ダンダリオン殿。かような時は、ちょっと悪い人のような顔で、よいではないかよいではないか! と言うのが御作法でございまする』
いやいくらなんでもそれはちょっと、と照れながらも、これ以後二人はこの『殿と女中ごっこ』楽しんだらしい。
まあ、そんなことはどうでもよい。
どうでもよいし、ユイやアデライドに知られると冷ややかな目を向けられそうなので、ルカリオンはその話はあえて口にしなかった。
まあ何はともあれ、ルカリオンは、一年間ユイと楽しく暮らしていたわけだ。
迂闊にも、聖杯が従姉のアデライドだとは気づいていなかったのだが。
ユイが、このままガイアの実を食べ続け、魔族と同じように魔力酔いをしなくなった頃を見計らって、実はユイは私の番なのだと告白する予定だった。なのに。
「お前がいきなりバラすから!」
ルカリオンは涙目でアデライドに文句を言った。
「自分から、きちんと説明するつもりだったのに。お前のせいで台無しだ!」
「うるさいわね! あんたが一年もグズグズしてたのが悪いんでしょう!? それともあれか? 子供じゃないってばれたら、一緒にお風呂に入って貰えなくなっちゃうから言わなかったんじゃないの?」
「ち、違う! 黙れサキュバス!」
「失礼な! 二度とサキュバスって言うなって言ったでしょう!?」
またしても口喧嘩勃発。
実は、アデライドとルカリオンは、年が近いせいか小さい時からこんな感じだった。
年が近いと言っても、アデライドの方が二百歳ほど年上なだけなのだが。
ちなみに、魔族にとっての二百歳差というのは、人間でいうと二歳差くらいの感覚だ。
そんな二人を眺めながら、ユイがふふっと笑う。
「ルカとアデライドさんは、仲良しなのね」
「「断じて違う!」」
声を揃えてそう答えてしまったがために、ほんのちょっぴり仲良し感を醸し出してしまった二人は、物凄く嫌そうな顔になった。
そんな二人に、ユイがさらににっこりと笑顔になった。
「やっぱり仲良しじゃないの。ねえ、ルカ。こんなに仲良しなのに、アデライドさんを番にしようとは思わなかったの?」
「…………!?」
ルカリオンは、あまりのことに息が出来なくなった。
愛しい番から、そんなひどい言葉を浴びせられてしまったのだから、無理もないことだった。
情けないことだが、じわりと涙が滲んできた。
魔族の王ともあろう者が情けない。
そう思うが、どうにも堪えることができなかった。
そんなルカリオンの様子を見ていたユイは、慌てて駆け寄り、ルカリオンの頭を背伸びして撫でた。
「ごめんなさい、ルカ。泣かせようと思って言ったわけじゃないの。ただ、本当に不思議に思っただけなの。どうして、私なんだろうって。他にも仲良くしている人がいるだろうにって思ったから」
「クゥーン……」
太郎もルカリオンの足元に座って、心配そうな様子で見上げている。
ユイと太郎に気遣われて、ルカリオンはようやく泣き止んだ。
幸福論
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