表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

15 魔王と聖杯の正体 ③


「まあまあ、二人とも、ちょっと落ち着いて」

「ワン! ワンワン!」



突然、降って湧いたように聞こえて来た声。


先程までのうるささが嘘のように、部屋の中は水を打ったようにシーンと静まり返った。



「ユ、ユイ……!? 寝ていたんじゃなかったのか?」

「うん。寝てたけど、目が覚めちゃった」

「ワフ」


ルカリオンはひどく慌てた様子だったが、ユイと太郎はいつも通りののんびりした口調だった。


そりゃあ、あれだけうるさく怒鳴り合っていれば、すぐ隣の部屋で寝ているユイが目を覚ますのは当然だろう――シリルはそう思った。

だが、ユイが起きた原因は違ったらしい。

隣で寝ていたルカが、急に起き上がって部屋を出て行ったきり、中々戻ってこないのが心配だったようだ。


「暗い中でトイレに行って転んてたら大変でしょう? だから、これを持って追いかけたの」


ユイの右手には、ほんのりと光る水晶玉が握られている。

それは、太郎が裏庭で掘り出した水晶玉――ユイが、調光機能付きの照明器具と呼ぶ、あの水晶玉だった。

そう、ユイはこの水晶玉を懐中電灯代わりに使っていたのだ。



「ユ、ユイ。あの、その、私のこの姿を見て驚かないのか?」


「うーん、一瞬、誰かと思ってびっくりしたよ。でも、すぐにルカだってわかった。そんなことより、いつもは無口なルカが、沢山喋ってることの方が驚いたかな」


「どこから話を聞いていたんだ?」


「ルカが『ユイは聖女ではない。私の(つがい)だ』って言ったところからかな」


それを聞いたルカリオンは、ヒュッと息を飲んだ。

それではほとんど最初から聞いていたことになるな、とシリルは思った。



「ねえ、ルカ。説明してくれる?」


「せ、説明?」


「そう。私と一緒に毎日裸でお風呂に入ったり、同じベッドでくっついて眠っていたルカは、本当は子供ではなくてルカリオンという名前の魔族の王様で、そこのホルターネックのビキニにスケスケパレオを腰に巻いたナイスバディの美女が、聖杯に化けていた……ってこととかの説明」



ユイは、ほとんど息もつかずそう言い切った。

笑顔を浮かべてはいるが、よく見ると目は決して笑っていない。



「それから、私が実が聖女では無く、ルカの(つがい)? としてこの世界に呼ばれたこととか」


ルカリオンは、ユイから目をそっと逸らした。

アデライドは縋るような目でシリルの方を見る。

そんな! こっちを見られても困る、とシリルはふるふると首を振った。







――そして、その後。


ルカリオンとアデライドが語った『真実』を聞いたシリルは、今にも倒れそうなくらい動揺していた。


「ぜ、全部、嘘だったなんて……!」


ふるふると震えながら力なくそう呟くシリルに、アデライドは申し訳なさそうに、「ああ、愛しいシリル! どうか許して頂戴!」と言った。




二人が語った真実とは。


話の大前提として、『魔王が復活する』などという話自体が大嘘だったということから始まる。


魔族は人間界から遠く離れた場所に住んでいる。

そこは魔力が非常に濃く、普通の人間は魔力酔いを起こしてしまうため、そうそう足を踏み入れることができなかった。


逆に、人間の国は空気に含まれる魔力が少なすぎるため、魔力を糧に暮らす魔族にとっては非常に暮らしにくいところだ。

なので、魔族の王族や高位の貴族くらいに身に持つ魔力が多い者でないと、人間界には長く滞在することができない。

すぐに魔力が枯渇してしまうからだ。


つまり、魔族と人間はきっちり住み分けができているのだ。

だから、『魔王が復活して人間の国を襲う』などというのは、海水魚のサメが淡水魚のコイが住む湖を襲う、くらいにありえないことなのだ。


では、六年前、神殿に下された神託は一体なんだったのかというと。

ルカリオンが異世界から番を呼び寄せるための策略だった。


だがそれは、ルカリオンが一から考えた作戦と言うわけではない。

代々の魔王は、そうやって自分の(つがい)を手に入れていたのだ。


元々、人間たちは、一定の周期で聖女を異世界から呼び出していた。

毎回毎回、何故そんな話が湧いて来るのか謎なのだが。

どうやら人間という生き物は、『復活した魔王が我々人間を襲いに来る!』という強迫観念を生まれつき持っているらしい。


なので人間は、一生懸命に魔法陣を描き、せっせと聖女を異世界から呼び出していた。

腰元のお松とお犬様と呼ばれた狆も、そうやって魔法陣によって呼び寄せられたのだ。


先代魔王であるルカリオンの父と、異世界から呼び出された腰元のお松。

なんだかんだで二人は結婚し、ルカリオンが生まれた。

そんな両親の馴れ初めを聞いて育ったルカリオンは、異世界の女性に強い憧れを抱くようになった。


三百歳の誕生日を迎え、成人となったルカリオン。

これでもう、いつでも結婚できるようになったと喜んでいたが、どういうわけか、人間たちは一向に聖女召喚をする気配が無かった。


待ちきれなくなったルカリオンは、神殿に偽の神託を下ろした。

騙された人間たちは、必死に魔法陣を描き始めた。

そして五年が経ち、無事に聖女召喚の儀式が行われ、ユイと太郎がこの世界にやってきた――



ルカリオンの説明を聞いて、シリルは大変なショックを受けた。

自分達が色々と騙されていた、という事実に理解が追い付かない。

だが、シリルが一番知りたいことの説明がまだだ。

シリルは、アデライドの顔をじっと見た。


アデライドはそんなシリルの顔を見て、覚悟したように続きを話し始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ