表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

1 犬の散歩中、異世界に飛ばされました ①

誤字報告ありがとうございます! 本当に助かりました(^^)


「ねえ、太郎…………ここってどこだと思う……?」

「クゥーン……」



リードを強く握りしめ、愛犬の柴犬、太郎にそう話しかけたユイは、不安そうに辺りを見回した。



いつもの公園で、顔なじみの女子高生とその愛犬と、のんびり立ち話をしていたはず。

だが、今、ユイと太郎が立っているのは、見覚えのない深い森の中だ。



突然、足元に現れた光る魔法陣。

次の瞬間、目が眩むような強い光に包まれ――

気が付けば、太郎ともどもここに立っていた。


不思議なことに、手に持っていたはずの散歩グッズが入ったバッグが無い。

その代わり、左手に見覚えのない銀色のコップのようなものを握りしめていた。



(ゴブレットって言うんだっけ、こういうの。映画で見たことがあるやつだ)



脚が付いて倒れにくそうな(さかずき)

ピカピカ光る銀色で、結構な重さがある。

無意識に、ダンベルのように上げ下げしてしまったが、今はそんなことをしている場合では無い。


こんなところにいても、埒が明かない。

グズグズしていると日が暮れてしまう。

沈みかかった太陽を見て焦ったユイは、とりあえずその場から歩き出した。


あちこちに引っかかって煩わしくなったので、太郎のリードは外してある。

一瞬、はぐれたら困るなと思ったが、賢い太郎なら勝手にどこかに行ってしまうことはないだろう。


幸いにも、それほど歩かないうちに古びた一軒家を見つけた。

こんな森の中によく建てたものだと思うくらいには立派だが、街中にあったら貧相だと思えるくらいの平屋だった。

辺りは大分暗くなっていたが、灯りは点いておらず、人が住んでいる気配はなかった。



「こんばんはー! ひええ!」



予想外に響いた自分の声に怯えてしまったユイは、続いて小声で「誰かいませんかー」と呟いた。


が、返事は無かった。

どうやらここは空き家のようだ。

非常事態なので仕方が無いと、ユイは太郎を連れて不法侵入を試みた。



「誰もいないな……」



だが、暗闇に目が慣れてくると、キッチンの床に、何かがうずくまっているのがわかった。



「え? 子供……?」

「クゥーン……?」



恐る恐る近づいてみると、それは小さな子供だった。

暗がりの中でもわかるくらいに薄汚れた服を着た、ひどく瘦せ細った5歳くらいの――多分、男の子が身体を丸めて床にしゃがみ込んでいた。

手入れされていない黒髪の、長い前髪の下からルビーのように赤い瞳が覗いている。

その目は驚くほど虚ろで、ユイは一瞬、言葉に詰まってしまった。



(どうしてこんなに小さな子供が、こんなところにいるの……!?)



「あの、どうしてこんなところにいるの?」



怖がらせないようにしゃがみ込んで目線を合わせてみる。

だが、ユイの問いかけに、男の子は何も答えなかった。

ただじっと、ユイの目を暗い瞳で見つめ返すだけ。



「一人ってことはないよね? もしかして迷子になっちゃったのかな? まさかここに一人で住んでるなんてことは…………ハッ、まさか()



捨て子、と言いかけて、慌てて口を閉じる。

そんな言葉、絶対に子供に聞かせてはならない。

ユイは慌てて笑顔を作った。



「す、す、素敵な家だから、入ってみたくなっちゃったのかな?」

「ワフ……」



我ながら苦しい言い訳だと思ったし、隣の太郎から絶妙なタイミングで相槌を打たれて、ユイは力なく項垂(うなだ)れた。


すると、すっくと立ちあがった男の子が、トコトコ近寄ってきてユイの肩に手をポンと乗せた。

ドンマイ――そう言われているかのような仕草。


こんな小さな子供に気を遣わせてしまうとは。大人のくせになんて情けない。

そう思ったユイは、なんとか大人としての名誉を挽回すべく、再び笑顔で明るく話しかけた。



「どうしてこんなところにいるの?」

「………………」


「他に誰かいるの?」

「………………」


「どこから来たの?」

「………………」



何を聞いてもうんともすんとも言わない男の子を前に、ユイは今更ながら、あることに気付いた。


「もしかして言葉が通じない……? 日本語じゃ駄目ってこと……?」


だがそれはユイの思い過ごしだったようだ。



「英語で話しかけてみようかな?……って言っても、私の英語力じゃ名前くらいしか聞けないし……」

「……ルカ」

「え?」

「ルカ」



男の子はユイの目をじっと見つめながらそう繰り返した。

ややあって、それの意味するところに気付いたユイは、ポンと手を叩いた。



「ああ、名前ね? ルカっていうのね?」


男の子はこくりと頷いた。


「良かった、日本語通じるんだ!」



ホッと胸を撫でおろしたユイだったが。

それ以上の会話は成り立たなかった。

ルカと名乗る男の子は何を聞いても無言で、名前以外の情報はついぞ引き出せなかったのだ。



「いやもう本当にこれ、どうしたらいいの…………?」

「クゥーン…………」



途方に暮れるユイ。……と、太郎。

それをじっと見つめる小さな男の子、ルカ。


とんでもなく前途多難で不穏な幕開けだったが。

なにはともあれ、こうしてユイと太郎の異世界転移生活がスタートした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ