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第5話 異世界でも、仕事は丁寧に

アクセスしていただきありがとうございます。

1章が書き終わりましたので第29話まで毎日1話ずつ公開していきますのでよろしくお願いします。


朝日が差し込む森の中、私は鍬を片手に、落とし穴のあった場所へと向かう。


昨日、シエルとダイチと共に仕留めた魔物――あの大きさの解体には、それ相応の覚悟がいる。


現代の動画コンテンツで、猟師が言っていた。

「ジビエは処理が大切。血抜きと内臓の処理が的確であれば、良質な肉となる」と。


落とし穴の縁には、まだわずかに血が残っていた。

竹槍の当たり所がよかったのか、中が空洞だったからかはわからないが、自然と血抜きされていたようだ。


私が思わず眉をしかめると、鼻をつく強烈な臭気に、ダイチが悶絶するように顔をしかめた。


「しまった、内臓をやっちゃってたか……」


「うわっ……く、くさい……!」


涙目になりながら、ダイチはシエルの背後に回り、彼女を前に押し出す。


「無理よ。私だって限界。……やめてよ! 犬の嗅覚ほどじゃなくても、猫だってそれなりに鼻は効くんだから!」


シエルが苛立ち混じりに抗議しながらも、一歩下がる。そのしっぽはぴんと逆立ち、怒っているのが一目でわかる。


私はタオルで鼻を押さえ、手早く傷んだ部位を除去しながら、食用になりそうな部位を選別していく。


「シエル、ダイチ。大量の水が必要になる。用意してもらえる?」


「りょ、了解! うちにあるバケツ、ぜんぶ持ってくる!」


シエルは言うが早いか、ものすごい勢いでその場を立ち去った。

――正直、ただ単に早くこの場を離れたかっただけかもしれない。


私は血を洗い流しながら、慎重に内臓を避けて作業を進めていく。

皮を剥ぎ、使える部位を切り分け、骨と脂肪、筋肉を分類していく。冷静さと集中力が求められる作業だ。


そして、肉の処理がひと段落したその時だった。


私は内臓の周辺、特に胃の裏あたりを慎重に探っていた。すると、そこに異様に硬く、なめらかな感触の球体が指先に触れた。


「……ん?」


慎重に取り出すと、それは赤く輝く小さな宝石のような物体だった。

光を反射するたびに、まるで火のような赤がゆらめく。


「これ……何かの鉱石?」


私はそれを掌に乗せ、じっと見つめた。

美しく透き通ったその球体は、わずかに体温のような温もりを感じさせる。無機物とは思えない、不思議な存在感だった。


「とりあえず、綺麗だし……持ち帰っておこう」


私はそれを柔らかな布にくるみ、道具袋の奥にしまい込んだ。


肉の保存には、昨日作った塩が役に立った。

スライスした肉に塩をすり込み、干し網に丁寧に並べていく。香草と組み合わせた風味づけも試してみた。


骨は道具や針に使える可能性があるし、脂はランプの燃料にもなるかもしれない。


「……保存用、食料用、素材用。よし、これで大体分け終わり」


私は手を止め、深く息を吐いた。

鼻に残る匂いはまだ強烈だったが、それでも、この作業を最後までやりきれた自分を少しだけ誇らしく思えた。


ふと顔を上げて周囲を見渡すと、シエルが干し肉用の網をチェックし、ダイチが落とし穴の埋め戻しをしていた。

ふたりとも、文句を言いながらも、しっかり動いてくれている。


「……ありがとう。助かったよ、ふたりとも」


私が声をかけると、シエルはしっぽをふわりと揺らして振り返り、にやりと笑った。


「当然よ。猫は狩りが得意なんだから。まかせておいてよ」


ダイチもにこっと笑いながら、土まみれの手で額の汗を拭った。


「みんなでやると、違うんだね」


私は思わず笑みをこぼす。


現実世界では、何でもひとりでやってきた。

人に任せるくらいなら自分でやった方が早いし、期待しても裏切られるだけだと思っていた。


でも今は――


協力することの意味を、少しだけ知れた気がする。


森を抜ける風が頬を撫でる中、私は静かに、またひとつ異世界での「生活」を実感していた。

この作品は「カクヨム」にも掲載しています。そちらでは先行公開中ですので続きが気になる方は是非ご覧ください。

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