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異世界でスローキャンプ生活を始めたら、なぜか女神として崇められてました  作者: 佐藤正由
異世界キャンプ生活 第2期

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第30話 異世界の川辺に、第二の拠点を

森の木々の合間から、風に乗って水音が聞こえてきたのは、魔物の森を歩き始めて五日目の昼だった。


「……川の音、だよね?」


私は足を止め、耳を澄ます。湿った匂いが風に混じって漂い、シエルとダイチも鼻をひくつかせていた。


「うん、間違いないと思う。けっこう大きな川かも」


「水浴びできるかなー! おれ、そろそろ汗でベタベタ~」


「魚もいそうね。たまには焼き魚もいいかも」


そうして茂みを抜けた瞬間、目の前に広がったのは、清らかで豊かな流れをたたえた大河だった。


川幅は広く、向こう岸はかすんで見えない。流れは穏やかで、陽光をキラキラと反射している。


「……ここ、いいわね」


私は、ひとりごとのようにつぶやいた。


かつて人間の文明は、多くが川のそばに築かれてきた。飲料水の確保、農業への利用、移動や交易の手段、そして豊富な食料資源——

ここには、それらすべてがそろっている。


私は足元の地形に目を落とし、川辺から少し離れた場所に流木や小石、増水の痕跡を見つけた。


「ここまでは氾濫したことがあるみたい。でも、逆に言えばこのラインより上なら安全かもしれないわね」


「またキャンプするの?」


「ええ。今回はちょっと本気で、川辺の拠点を整えておこうと思うの。できれば、水害にも耐えられるくらいにね」


* * *


まず取り組んだのは、治水と安全対策だった。


拠点予定地の周囲を調査し、過去に水が通った痕跡を頼りに、氾濫の可能性がある範囲を割り出す。


「ここと……あとはあの石のラインより下は危ないわね」


私は地面に線を引き、範囲の外側に排水用の溝を掘り始めた。川から直接水が流れ込んでも溜まらずに逃がせるよう、傾斜を調整しながら土を削っていく。


さらに、杭にした丸太を打ち込み、間に石や土嚢を積んで簡易の護岸を築いた。丸太を打ち込むたびに地面が震え、少しずつ守りの壁が形になっていく。


「これで、水があふれてもここまでなら耐えられるはず……」


「なんか……工事現場みたいだな……」とダイチ。


「ここまで本格的だと、もはやキャンプじゃないわね。完全に拠点ね」とシエル。


「うん。でも、それが目的だから」


いずれこの森をさらに奥まで探索するために、いくつかの中継地点となる拠点が必要だ。その第一号として、この川辺の場所を選んだ。


小屋の基礎も、水害を見越して少し高い位置に設定。地面を掘り、敷石で基盤を固めてから、粘土と小石で壁を築いていく。


屋根は竹を交差させながら重ねて、雨水が内部に侵入しないよう構造を工夫。屋根の傾斜も計算し、側溝へと排水されるようにした。


「水が入らないように、竹はこうやって互い違いに重ねてね……よし、これで大雨が来ても中まで濡れないはず」


家の周囲にも側溝を掘って水の逃げ道を確保。排水の最終地点には、小さな石垣を作って土の流出を防ぐ。


「やっぱマキってすげーな。もう家、住めるよコレ」


「ここ、ちょっと居心地いいかも……雨の音が屋根に当たる感じ、好き」


私は最後に、全体の排水の流れを確認し、雨水が滞留しないかを試験的に水を流してチェックした。


「うん。これで、ある程度の雨なら問題ないわね」


* * *


安全対策と基礎の整備を終えたあと、私は屋内で使うかまどの準備に取りかかった。


「まずは、火に強い石を探さないと……」


近くの川岸を歩きながら、私は石を一つひとつ手に取って調べていく。触った感触、色、叩いたときの音。火にかけても割れにくい、密度の高い石を選ぶ必要がある。


「この黒っぽいの……重くて、音も鈍い。たぶん、いける」


選んだ石をいくつか袋に詰め、拠点へと運ぶ。それだけでもかなりの重労働だった。


次に必要なのは、粘土。


「湿地帯の端にあったあの土……乾くとひび割れが出るなら、粘土質のはず」


私はスコップで泥を掘り上げ、バケツに詰める。濡れた状態の土をよく練って、石の土台に塗り込むための素材を作っていく。


しかし、すぐに使うわけにはいかない。


「乾燥させてからじゃないと、割れたり崩れたりしちゃうのよね」


私は粘土を板状に伸ばし、日当たりのいい岩場に並べて数時間ほど乾かす。風でひび割れが出ないよう、時折霧吹きで表面を湿らせながら、ゆっくりと水分を抜いていく。


「よし、そろそろいけるわね」


乾燥させた粘土を、砕いて水と混ぜてペースト状にし、石と石の隙間を埋めるように重ねていく。最下層には熱が逃げにくいよう厚みを持たせ、中央部は燃焼室、上部には調理用の鍋を乗せる平らな面を形成した。


「これで……完成」


最後に少量の薪を入れて試し焚きを行い、粘土が熱に耐えられるかをチェックする。少し煙が立ち上り、かまどの天面がほのかに赤く染まった。


「うん、いい感じ。これなら中で煮炊きしても、煙も外に逃がせそう」


私は満足げにうなずき、シエルとダイチを呼んだ。二人が不思議そうに近づいてくる。


「すごい……これ、自分で作ったの?」


「マキって、ほんと何でもできるんだな!」


ただし、室内で火を使うには注意が必要だ。


「煙、大丈夫かな?」とシエルが心配そうに眉をひそめる。


「もちろん対策はしてあるわ。ここ、見て」


私はかまどの奥に取り付けた太い筒を指さす。


「“煙突”っていうの。火をつけると、空気が温められて軽くなって、上に昇っていくでしょ? その流れに乗って煙も外に出ていくの」


「へぇ……風じゃなくて、あったかい空気が押し出すんだ」


「そう。しかも煙突が温まると、上昇気流が安定して、逆流もしにくくなるのよ。だから室内でも煙が充満しないの」


「でも最初は……?」


「そう、最初はまだ煙突が冷えてるから、小さな火からスタートして、少しずつ暖めていくの。急に大きくすると逆に危ないからね」


「なるほどね。火って、扱いにコツがいるんだな」


「うん。でも、それさえ守れば、かまどは室内でも安全に使えるわ」


私は煙突の出口に小さな庇をつけて、雨水が逆流しないように工夫も施しておいた。


これで夜や雨の日でも安定して調理や暖房ができる。安心して暮らせる“家”が、また一歩完成に近づいた気がした。


川の恵みは、まだまだ活かせそうだ——そんな予感が胸に広がっていた。

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