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異世界でスローキャンプ生活を始めたら、なぜか女神として崇められてました  作者: 佐藤正由
異世界キャンプ生活

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第24話 異世界で、“知恵を持って抗う”と決めた夜

アクセスしていただきありがとうございます。

1章が書き終わりましたので第29話まで毎日1話ずつ公開していきますのでよろしくお願いします。

「来年からの税は倍だ。文句があるなら娘を寄こせ。逆らうなら、軍を動かす!」


バルドのあの言葉は、今も村の広場に澱のように残っていた。


翌日、村長セムの家の奥座敷に、村の若者たちと信頼できる大人たちが集まった。私もシエル、ダイチと共に加わる。


室内の空気は重かった。しかし、誰の目にも恐怖だけでなく、強い決意の色が宿っている。


「——戦いは避けられません。しかし、我々にできることは何でしょうか」

村長の言葉に、私は深く息を吸って答えた。


「1つ、条件があります。誰も死なせないこと。それが前提です」


一瞬、室内が静まり返る。


「そんなことが……」

誰かが不安げに漏らす。


「だからこそ、村の全員の力が必要なんです。準備をして抗うか、あの領主の言いなりになるか——選べる道は2つだけです」



その後、夜更けまで話し合いは続いた。

地形、風の流れ、森の構造、水の位置、領主軍の動き。

村人たちは真剣に聞き、時にうなずき、時に質問を重ねる。


「……真希さん、あんたは本当に女神かもしれねぇな」


「やめてください。私はただ、違う環境で必死に生きてきただけです」


くすくすと笑いが広がった。その笑いには、もう逃げ腰の色はなかった。



翌朝、村の広場に全員が集まった。


「作戦は、村の誰一人として傍観者でいないことが条件です」

私の言葉に、セム村長は深く頷いた。


「わしらが、村を守る。今度こそ……この手で」


恐怖が、覚悟へと変わる瞬間だった。



夜明け前の村は、濃い霧に覆われていた。霧は家々の屋根をなめるように漂い、足元に溜まってはゆっくりと形を変える。冷気が肌を刺し、吐く息が白く揺れるたび、周囲の静けさがいっそう際立った。どこかで小さく木の軋む音や、足音を殺して動く影の気配がある。


男たちは竹を担ぎ、女たちは薬草の袋を抱え、子どもたちは泥にまみれた布を運ぶ。その目は一様に引き締まり、「覚悟」が確かに宿っていた。


森の奥では、シエルと弓の手ほどきを受けた10人の村人が監視位置につく。

村からの補給は「駅伝作戦」。5kmごとに8班を配置し、物資と伝令を中継する。険しい道のりのため40kmの距離を2日かけて移動するが、5kmだけを早く移動するなら2時間あれば可能なので班を繋げれば最短8時間で谷と村を結べる。


数日後、領主バルドの軍が谷へ現れた。総勢100。武装歩兵20、後方には補給部隊。


「……来たわね」

シエルが弓を構える。


「2班、そろそろだ、準備して!」

ダイチも前を見据える。その表情に迷いはない。


谷間は両側を高い岩壁に挟まれ、湿った土の匂いが漂っていた。鳥の声は消え、わずかな風が草を揺らす音だけが耳に届く。


その静寂を破ったのは、参謀ガルシア=ヴェルンの声だった。

「止まれ! 伏せろ! 散開しろッ!」


次の瞬間、火矢が補給車を炎に包んだ。干し肉や水樽など、ほとんどの補給物資が焼失する。炎の熱気と焦げた匂いが谷全体に充満し、兵たちの顔を赤く染めた。


負傷者は少なかったが、補給は壊滅的だった。


「水も食料も失いました。撤退を……」

ガルシアの進言にも、バルドは耳を貸さない。


そこへ、晴天にもかかわらず黒い雨が降り始める。

第2班が散布した漆の樹液だ。風に乗せて全軍に広がり、服や鎧の隙間から肌にしみ込む。シエルは魔石をそっと握り、風を強めた。


「うぐっ……熱い……!」

兵たちは鎧を脱ぎ、かきむしる。さらに虫を引き寄せる香りの液体も加えられ、かぶれた肌に虫が群がった。


ようやく谷を抜けたときには、出口が岩で塞がれていた。

兵は岩をどけるのに時間を費やし、脱出できた頃には日が沈み、冷えた夜気が全身を包んだ。焚き火を起こす音があちこちで響き、疲弊した兵たちはその場で1夜を明かすことを余儀なくされた。


——だが、これはまだ序章にすぎなかった。

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