表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でスローキャンプ生活を始めたら、なぜか女神として崇められてました  作者: 佐藤正由
異世界キャンプ生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/104

第22話 異世界で女神と呼ばれそうになったので嘘をついた

アクセスしていただきありがとうございます。

1章が書き終わりましたので第29話まで毎日1話ずつ公開していきますのでよろしくお願いします。

「女神様だ……」

「聖獣を従えてる……」

「村に実りをもたらした、豊穣の女神さまだ……」


最初は冗談だと思っていた。

けれど、日を追うごとに村の空気は確かに変わっていった。


水が引かれ、畑が息を吹き返し、保存食が貯まり、子どもたちが笑う。

朝、東の空がわずかに赤く染まる頃、井戸端では木桶に水を汲み上げる音が響き、子どもたちは水をこぼさぬよう必死に運ぶ。

水路沿いでは女たちが野菜を洗い、飛び散るしぶきに陽の光がきらめく。

男たちは鍬を担いで畑へ向かい、土を返すたびに湿った匂いが立ち上った。


軒先では刈り取った豆を編んだ網に並べ、昼下がりには薬草を裏返す手が忙しく動く。

干し場の隅では子どもたちが小さな籠を抱えて虫取りをし、捕まえたバッタを誇らしげに見せ合っていた。

以前は干ばつと飢えで曇っていた瞳が、今は「明日のために何をしようか」という輝きに変わっている。


そして——そのきっかけを与えたのが私たちだということは、誰の目にも明らかだったのだろう。


「真希、また言われてるよ」

シエルが耳をひくひくさせ、口元に小さな笑みを浮かべる。

「“女神様”、だってさ。お供の“聖獣”が二匹、って」


「ちがう。私はただのキャンパー。君たちは犬と猫」


「聖獣って言われるの、ちょっと悪くない気がする」


「僕は……まあ、確かにマキはそれだけのことしてるよ」


二人の反応に苦笑しながらも、私は内心でため息をついた。

——これは、明らかにまずい方向に進んでいる。



事態が決定的になったのは、村の小さな祈りの祭壇が作られた時だった。

「女神真希様に感謝を」と刻まれた石板の前で、子どもたちが花を供えている。

摘みたての花から甘い香りが漂い、祭壇の上には川で磨かれた白い石が並べられていた。


私はついに決断した。


「——私は女神じゃない」

集まった村人たちに向かって、はっきりと言い切った。

「知識は、誰でも身につけられるもの。私はただ、それを少し知っていただけなんです」


沈黙。誰も否定しない。

代わりに、小さな手が挙がった。


「でも、ルナリア様があなたに知恵を授けてくださったんですよね?」


「……え?」


「ほら、真希さんがたまに言ってたじゃない。“ルナリアの知恵”って」


……やってしまった。

何気なく使っていた言葉が、こんなふうに神格化されるとは。


少しの沈黙の後、私は静かに言った。


「……そう。私はルナリア様の導きに従っているだけ。ですから、皆さんを救ったのはルナリア様です」


村人たちの表情がほっと緩む。

「ルナリア様……ありがたい女神様だ」

「真希さんは女神じゃなくて、“ルナリア様の使徒”か」

「それなら納得だな!」


セム村長もサーシャも、静かに頷いていた。

きっと、私の嘘に気づいている。

それでも、誰も咎めなかった。



数日後、私は森へ戻ることを決めた。

このまま村にいれば、本当に“神”になってしまう。

それは村にとっても、私にとっても良くない。


「……帰るの?」

リュカが寂しそうに聞く。


「また来るよ。でも、私はここに住むわけじゃない。君たちが自分の力で生きられるようにならなきゃ。それに……まだ、教え足りないこともあるしね」


最後の夜、私はリュカにだけ特別なことを伝えた。


「この地図、覚えておいて。森の中を通る安全な時間帯とルート。魔物の活動時間を避ければ、ここから私の拠点まで行ける」

「……ありがとう、真希さん」


「覚えたら燃やしてね。困ったらすぐ来て。でも、それまでは——君たちが自分で答えを出す番だよ」


月明かりの下、私はリュカの頭をそっと撫でた。

まるで、我が子を見送る母親のように。


——私は、神じゃない。

けれど、この手に“知恵”があるのなら、それを届けることはできる。

そして、それで十分だと、私は思っている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ