第16話 異世界の村で初めてのお泊まりしてきた
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1章が書き終わりましたので第29話まで毎日1話ずつ公開していきますのでよろしくお願いします。
翌朝、鳥のさえずりと薪の燃える匂いで目を覚ました。
——ここは、村か。
久々に誰かと屋根の下で寝たせいか、不思議と心は落ち着いていた。
「……おはようございます」
小声であいさつすると、台所からサーシャさんがにこやかに顔を出した。
「おはよう、よく眠れたかしら?」
「はい、おかげさまで……」
昨夜、あれだけ感情を揺さぶられたのに、サーシャさんはいつも通りで、なんだかほっとした。
シエルとダイチはすでに起きていて、外でリュカと一緒に薪割りの手伝いをしていた。あの二人、最近よくリュカと行動を共にしている。
私も何か手伝おうと腰を上げた、そのとき。
「ねえ、真希さん」
サーシャさんが、小声で話しかけてきた。
「……あなたたち、これからどうするの?」
唐突な問いだったが、その表情にはただの興味ではない、母親としての“危機感”のようなものがにじんでいた。
「……森に戻るつもりです。あそこが、私たちの生活の拠点なので」
「そう。……でも、村があなたたちのことを放っておくとは思えないの」
「それは……覚悟しています」
私の答えに、サーシャさんはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いてうなずいた。
「なら、せめて無理はしないでね。あなたたちのこと……もう、他人事だなんて思えないから」
その言葉に、胸がぎゅっとなった。
“他人事じゃない”って、こんなにあたたかい響きだったんだ。
◆
朝食は、野菜のスープと焼きたてのパン、そして保存していた燻製肉。
シンプルだけど、どれも丁寧に作られていて、噛みしめるたびに体が喜んでいるのがわかる。
「これ、サーシャさんが?」
「ええ、リュカが戻ってきたから、久しぶりにちゃんとした朝食にしたのよ」
「……すごく、おいしいです」
私が素直にそう言うと、サーシャさんは照れくさそうに笑った。
「ふふ、ありがとう」
その間も、シエルとダイチは静かに食べていたが、ダイチのしっぽは嬉しそうにぱたぱたと揺れ、シエルはスープを飲んで「作り方が知りたい…」とぼそっと呟いていた。
食後、ヨラムさんが静かに言った。
「……村のこと、そろそろ話すべきかもしれないな」
サーシャさんも、頷く。
「実は、最近、干ばつで畑が全然ダメなの。それに、森の外れまで魔物が出てくることが増えて……もう持ちこたえられそうにない家も出てきてるわ」
「村長はなんて?」
「……表では『落ち着いて行動しよう』って言ってるけど、本当は限界が近いの。リュカが森での暮らしを話しても、最初は誰も信じなかった。でも昨日、あなたたちと一緒に戻ってきて……空気が変わったのよ」
村が、私たちの存在を“希望”として見始めているのがわかった。
それは……正直、重い。
けれど、目の前のこの家族や、リュカのような子たちが苦しむのは、もっと嫌だった。
「……私にできることがあれば、協力します。ただし、魔法とかじゃなくて、“知識”とか“工夫”だけですけど」
「それで十分です」ヨラムさんが静かに言った。「村には、そういう知恵が必要なんだ」
リュカがまっすぐ私を見た。
「僕、手伝います。だから、また一緒に村に来てくれませんか?」
私は少し考え、そしてうなずいた。
「……わかった。でも、まずは森に戻って、準備を整えないとね」
「はい!」
朝の光が差し込む中、温かさと緊張感が入り混じる会話だった。
——この村は、まだ何とかなる。きっと。
でもそれは、私たちが“関わる”という選択をしたからだ。
今度こそ、巻き込まれただけじゃない。自分で決めて、一歩踏み出した。
胸の奥で、小さな灯が確かに灯っていくのを感じていた。




