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異世界でスローキャンプ生活を始めたら、なぜか女神として崇められてました  作者: 佐藤正由
異世界キャンプ生活

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第14話 異世界でまた迷惑が来た予感しかしない

「……また、森に入ったやつがいるらしい」


村の井戸端で、そんな声を耳にしたのは、夕暮れのことだった。


リュカは持っていた桶の水をこぼしそうになりながら、その言葉の主に近寄った。


「今、何て?」


「いや、だからよ。アイツらだよ、あの三人組の。いっつも威勢だけはいいくせに、村長の言いつけなんてどこ吹く風って感じでさ」


三人組。村でも有名な“過激派”の若者たちだ。


干ばつで食料は尽き、畑はひび割れ、村人の顔には疲れと諦めが色濃くにじんでいた。

そんな中、彼らは誰よりも不満を口にし、声を荒げ、行動に移そうとしていた。


「……もしかして、僕の話を……?」


リュカは唇をかみしめた。


——“魔物の森に、人がいた”

——“水も、食べ物も、火も、魔法で何でもある世界だった”


信じてもらえなかったはずの言葉に、ほんの少しでも希望を抱いた者がいたのかもしれない。

だけど、それは間違った“希望の選び方”だった。



「どうするの?」


そう問いかけてきたのは、メイリアだった。リュカの幼馴染で、村長の娘。


彼女の目は、不安に揺れていた。


「……行くよ。マキさんに、伝えなきゃ」


「でも、また魔物の森に入るつもりなの? 一度、あんな目に遭ったのに?」


リュカは、首を縦に振った。


「アイツらが行ったら、たどり着けるはずがない。道もわからないし、魔物に襲われるだけだ。……きっと、迷惑をかけることになる」


「だからって、またあなたまで行って……!」


「僕は……今度はちゃんと、自分の意思で行くんだ」


そう言い残し、リュカは村を後にした。



森の入り口は、かつてと変わらぬ沈黙に包まれていた。


だが、今回は違った。


目を凝らすと、低い木の幹に刻まれた小さな傷跡——誰かがナイフか何かで残した“目印”が続いている。


「やっぱり……」


三人組は、森の中に目印をつけながら進んでいたらしい。


一歩、また一歩と踏み込むたびに、空気が変わっていく。


温度が下がり、風の流れが読めなくなり、野生の気配が濃くなっていく。


「これ……真希さんたちの拠点とは全然違う……」


リュカは歩きながら、時折振り返り、周囲を警戒し続けた。


真希たちの暮らす拠点は、魔物の森の“奥”にある。

あの安全な空間へ辿り着けたのは、偶然じゃない。

あの猫耳と犬耳の二人に護られ、導かれてきたからこそ、だ。


「お願いだ……もう一度、助けて……!」


その瞬間——


ザッ、と茂みが揺れた。


低く、獣の唸り声のような音が、背後から聞こえる。


息をのむ間もなく、足元の影が跳ねた。巨大な牙と爪を持つ、四足の魔物。


「っく——!」


リュカが逃げ出すよりも早く、それは地面を蹴って飛びかかってきた。


「リュカ!」


——ズガッ!!


重たい音とともに、魔物が弾き飛ばされた。


見覚えのある細身の弓。白い耳と尻尾を揺らす影。

そして、唸りながら魔物の前に立ちはだかった、たくましい犬のような後ろ姿。


「間に合ったわね」


「ったく、またお前かよ……でも、無事でよかった」


マキ、シエル、そしてダイチ——


再び、命を救ってくれた三人の姿が、そこにあった。



魔物を倒したあと、三人はその遺骸から、緑色の光を放つ石を取り出した。


「これ……何の石ですか?」


「ふふん、まあ色々使えるのよ」シエルが得意げにしっぽを揺らす。


「そうね……詳しいことは、また後で試してみましょう」真希は軽く頷き、石を袋にしまった。


「しかしさっきの魔物の勢い、普通じゃなかったね」


「シエルの援護がなかったら危なかったよな」


「えっ、あれって……何かしたんですか?」


「ちょっとしたコツよ」シエルはにやりと笑った。


真希は魔石をしまい終えると、リュカに視線を向けた。


「で、今回はどんな理由で来たの? ただ森で遊んでたわけじゃないんでしょ?」


リュカは、ばつの悪そうな顔で頭を下げた。


「……ごめんなさい。僕の話を信じた若者たちが、今こっちに向かってるんです。たぶん、今ごろ魔物の森に……」


「なるほどね」


真希は、少しだけ肩をすくめて笑った。


「どこにでも、そういうヤツっているのよね。信じて動いたって言えば聞こえはいいけど、周りのことを考えずに突っ走るタイプ」


「本当に……すみません」


「まあいいわ。とりあえず、その子たちが魔物にやられてないか、見回りに行きましょう」


その言葉に、リュカの胸に熱く小さな光がともるのを感じた。

彼女はきっと、また危険に巻き込まれる。

それでも僕たちのために、迷わず森へ踏み込もうとしてくれている。


「……ありがとう、ございます」


「別に感謝されるほどのことじゃないわ。迷惑の芽は、早めに摘んでおくべきでしょ? 問題解決の基本よ」


真希は風に揺れる髪を指で押さえながら、森の奥へと視線を向けた。


——また、何かが始まる気がした。

そしてそれは、たぶん“迷惑”に違いない。

でも、なぜだろう。

その“また”が、どうしようもなく嬉しかった。

この作品は「カクヨム」にも掲載しています。そちらでは先行公開中ですので続きが気になる方は是非ご覧ください。

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