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異世界でスローキャンプ生活を始めたら、なぜか女神として崇められてました  作者: 佐藤正由
異世界キャンプ生活

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第13話 異世界で出会った“嘘みたいな本当の話

「おい、リュカだ! リュカが帰ってきたぞ!」


誰かの叫びが、村中に響き渡った。


その声に反応して、広場へ人々が集まってくる。干からびた畑の間を駆け抜け、家から飛び出してきた大人たちの顔には、驚きと安堵、そして困惑が入り混じっていた。


「無事だったのか……!」


「どこに行ってたんだ! 心配してたんだぞ!」


口々に問いかけられても、リュカはどう答えていいか分からなかった。

ただひとつ確かなのは——自分は、生きて帰ってきた、ということだけだった。



村に戻ったリュカは、村長の家に呼ばれ、事の経緯を話すよう求められた。


椅子に腰を下ろすと、村長や年長者たちの視線が一斉に注がれる。しばし沈黙ののち、リュカはゆっくりと口を開いた。


「……魔物に襲われて、仲間とはぐれて……森の奥で、人に助けられました」


「人……?」


誰かが眉をひそめる。


「“魔物の森”に、人が住んでいるっていうのか?」


「はい。小屋があって、水路もあって、ちゃんと暮らしてるんです。しかも、その人——“マキさん”は、魔物と一緒に生活していて……」


そこまで言って、リュカはためらった。けれど、隠しておく気にはなれなかった。


「……火を起こす時、赤く光る石を使ったんです。それに、猫の獣人や犬の獣人の仲間もいました」


室内がしんと静まり返る。最初に聞こえたのは、苦笑混じりの声だった。


「魔物と暮らす? 赤く光る石? ……熱に浮かされた夢でも見たんじゃないのか?」


「そうよ、きっと怖くて気が動転したのよ」


「何日も行方不明だったんだ、無理もないさ」


リュカは首を横に振った。


「違います、本当なんです! 森の中のあの場所は、今の村よりもずっと——」


「リュカ」


村長が低く名を呼び、静かに言葉を継いだ。


「お前の話を否定はせん。だが、今は水も食料も足りず、人々は疲れ切っている。確かめようのない話を広めれば、不安が増すばかりだ」


リュカは唇を噛みしめた。視界がにじみ、村長の顔がぼやける。


「……でも、あの人たちは本当に、魔物の森で穏やかに暮らしていました。森の中の方が、今の村よりも——」


言葉はそこで途切れた。誰も返事をしなかった。

部屋の空気は重く、息苦しいほどだった。



それから数日が過ぎた。


リュカの話は、やがて「森で迷って少しおかしくなった」という噂に変わっていった。

“マキ”も、“獣人の仲間”も、“赤く光る石”も、夢か幻だったのだろうと人々は口にした。


ただひとつ、確かな変化があった。


あれほど畑を荒らしていた魔物が、ぱたりと姿を見せなくなったのだ。

まるで何かに追い払われたかのように、その気配は消えていた。


それでも、誰一人として森に入ろうとはしなかった。

村長の命令で、魔物の森への立ち入りは固く禁じられている。リュカの行方不明事件は、その戒めの象徴となっていた。


「やっぱり、誰にも信じてもらえないんだな……」


リュカはひとり、小さくつぶやいた。


けれど、それでもよかった。


あの人たちに助けられたことは、本当なのだから。

魔物の森の中で——嘘みたいな、本当の話が、確かにあったのだから。


そしてこの村の中に、ほんのわずかではあるが、それを信じようとする者たちが生まれ始めていた。

次に動くのは、彼ら——“信じようとした者たち”だった。

この作品は「カクヨム」にも掲載しています。そちらでは先行公開中ですので続きが気になる方は是非ご覧ください。

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