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異世界でスローキャンプ生活を始めたら、なぜか女神として崇められてました  作者: 佐藤正由
異世界キャンプ生活

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第10話 異世界にも、人間がいた

アクセスしていただきありがとうございます。

1章が書き終わりましたので第29話まで毎日1話ずつ公開していきますのでよろしくお願いします。

魔石を使えるようになってから、私たちの生活は格段に便利になった。

赤は火、青は水――。

現代で言えば、まるでマッチや水道のような存在だ。

それが手軽に使えるようになってから、暮らしの効率は飛躍的に上がった。

おかげで時間にも、少しだけ余裕が生まれていた。


その日、私はシエルとダイチを連れて、食料調達のために森の奥へ入っていた。

湿った足跡、踏み荒らされた草、裂けた樹皮。

何気ない違和感の積み重ねが、妙な胸騒ぎを引き起こす。


「この先、なにかいる」


私がそう呟いたのと、ダイチが低く唸ったのは、ほぼ同時だった。


次の瞬間、茂みの奥からバキバキと枝が折れる音がした。

そして、かすかなうめき声。


私はすぐに身を低くして、指を鳴らし、シエルとダイチに合図を送った。


「行くよ。慎重にね」


私の声に、シエルは鋭い目で頷き、ダイチは小さく吠えて応じた。

慎重に藪をかき分け、私は“それ”を視界にとらえた。


そこには、一人の少年がいた。

まだ幼さの残る顔立ちで、痩せた体。

足を引きずりながら、何かに追われるように必死で逃げていた。

その背後には、明らかに魔物と思われる生き物の影。


「危ない!」


反射的に声が出た。


シエルとダイチがすぐに動く。

猫のような俊敏さと、犬のような突進力で、魔物に飛びかかる。

見事な連携でそれを撃退してみせた。


「大丈夫!?」


私は少年に駆け寄った。

肩を震わせながら、こちらを警戒するように見上げてくる。

そして、背後にいるシエルとダイチに目をやった瞬間、顔色がさっと青ざめた。


「ま、魔族……? な、なんで……?」


「違うよ。大丈夫。彼らは私の仲間。人を襲ったりなんてしない」


できるだけ穏やかな声で伝える。

けれど、すぐには信用されないのも無理はなかった。


私はゆっくりしゃがみ、目線を合わせる。

焦らず、静かに――。


「歩けそう?」


少年はうなずこうとしたが、足を少し動かしただけで顔をしかめた。


「無理しないで。応急処置だけでもさせて」


止血と簡易的な添え木の処置をし、彼の体を背負って拠点に戻る。

軽い体重に、緊張の残る気配が伝わってきた。


拠点に戻った私は、手当てを始めた。

シエルとダイチは、少し離れた場所で様子をうかがっている。

少年の視線が向くと、二人ともどこか気まずそうに視線をそらした。


とくにダイチは落ち着かず、じっと見ていたかと思えば、ふいにそっぽを向き、シエルの後ろに隠れたりする。


「怖がらせちゃったかな……」


私がぽつりと漏らすと、意外にも少年の方が返事をしてきた。


「普通は、驚くよ。今でも信じられないけど……悪い人じゃないってことは、分かる気がする」


私は苦笑しながら、水の入ったカップを差し出した。


「私は真希。あの猫耳の女の子がシエル、犬耳の男の子がダイチ。あなたの名前は?」


「……僕は、リュカ」


カップを受け取った彼は、じっと私を見つめながら、ぽつりと尋ねた。


「ありがとう……でも、あの、あなた……人間ですよね?」


その瞳には、戸惑いと興味が入り混じっていた。


私は一瞬、言葉に詰まった。

確かに人間ではある。けれど、この世界の“人間”と同じかと聞かれると、自信がない。


「うん、自分ではそう思ってる。でも、君こそ……なんでこんな森の奥に?」


リュカは、少し間をおいて話し始めた。


森の外にあるベルデ村から来たこと。

村では最近、魔物が畑を荒らすようになり、その調査に仲間と来ていたこと。

けれど途中ではぐれて、深く入り込んでしまったこと――。


「ここ、“魔物の森”って呼ばれてるんだ。誰も近づかないのに……まさか、こんな奥で人が暮らしてるなんて」


彼の目には驚きが浮かんでいる。

焚き火跡、簡易の小屋、整った水源――この生活が、現実だと信じがたいのだろう。


「ここは……今の村より、いい暮らしかもしれない」


思わず漏れたその言葉に、私はふっと笑ってしまった。


「こっちも、けっこう苦労したよ。何もないところから、試行錯誤でここまで来たんだ」


そのとき、シエルがそっと近づいてきた。

手に持っていたのは、湯気の立つカップ。


「これ、飲む? あったかいよ」


シエルは少し緊張しながら、それでも優しくカップを差し出した。

リュカは一瞬迷った末に、そっと受け取った。


それを見て、なぜかダイチが誇らしげに胸を張っている。


彼らの優しさは、きっと言葉よりもずっと強く伝わる。


この出会いが、なにかを変えていく――。

そんな予感が、胸の奥に静かに芽生えていた。

この作品は「カクヨム」にも掲載しています。そちらでは先行公開中ですので続きが気になる方は是非ご覧ください。

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