「聖女の使者と銀の視線」
リファリエル王国の穏やかな朝。
そんな静寂を破るように、一つの来訪があった。
「神聖ノルフェリア帝国よりの使者、到着されました」
報せを受けて、王城の謁見の間に並ぶエルフたち。
そしてその中央に、銀の髪を持つ若き男が、堂々とした足取りで現れた。
「はじめまして。“創造の者”がこちらに滞在中と聞き、拝謁を願い参上いたしました。
神聖帝国・聖女セラ直属の従者――レオン=アルヴェスと申します」
その口調は丁寧だったが、瞳には明らかな警戒の色が宿っていた。
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【対面:レオンとユウト】
「君が、“創造の者”と呼ばれている……ユウト=シノハラくん、で間違いないかな?」
「ああ、俺だ。そう呼ばれてるらしいな」
対峙する二人。
だが、レオンはすぐには信じようとしない。
「確かに転移者という点では一致する。だが“創造”という力……君のそれが、本物かどうかは見極める必要がある」
「試したいってことか?」
「失礼ながら、その通り。聖女様は、“奇跡”を騙る偽者を忌み嫌われる方ですので」
ピリついた空気の中、リリィが間に入る。
「レオン殿。ユウトの力は本物よ。先日も、私たちは彼の“創造した盾”で命を救われたわ」
「……確かにあなたは信頼できる人物でしょう。ですが、王族の情に流されてはなりません」
その冷静な言葉に、リリィも言葉を詰まらせる。
「まぁいいさ。なら、見せてやるよ。俺の力を」
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数分後、訓練場。
ユウトは手をかざし、小声で呟く。
「《創造:精鋼の剣》」
――シュウゥン!
空中から銀の光が集まり、見事な剣が形を成す。まるで鍛冶神の作ったかのような、美しい造形。
レオンが目を細める。
「……成る程。だが、これは単なる“物質生成”の域を出ていない」
「は?」
「本当の“創造の者”ならば、“物の理”すら覆す――“存在しない概念”を具現化するはずだ。たとえば……永遠に錆びぬ剣、重さのない鎧、血を流さぬ命。そういった、神をも恐れさせる力」
「……」
ユウトは黙り込む。
確かに、自分の“創造”はまだそこまでには至っていない気がした。
「よって、私は報告を保留します。“創造の者の疑いあり”。その程度の記録で、帝国に戻るつもりです」
「……ずいぶん冷たい言い方だな」
「聖女様は“選びます”。奇跡の価値を。……私の務めは、そのふるい役です」
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その夜。
レオンは一人、森の小道を歩いていた。
その視線の先に――ひとり、ぼんやりと浮かぶ光の少女がいた。
「……?」
それは、ユウトが何気なく“創造”した光球から、かすかに生まれた“存在”。
銀色の髪、無表情で、しかしどこか優しい気配をまとっていた。
「あなた……何者だ?」
その問いに、少女は首をかしげるだけ。
――この時、まだ誰も知らなかった。
この少女が、後にユウトの側に並ぶことになる“無垢の奇跡”であることを。