「森の休日と風のささやき」
ルナとの死闘、そして世界情勢の重み――
怒涛の日々から一転して、今日は静かな朝だった。
「今日は予定、なにもないから……ちょっと森を案内してあげる」
そう言って、リリィが俺をエルフの里の外れへと連れ出してくれた。
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リファリエルの森は、ただ美しいだけじゃない。
木々は生きていて、風は囁き、草花が歌うように揺れる。
人間の世界とはまるで違う、“精霊と共にある世界”。
「ここが《風の泉》。子供のころ、よくここで母と遊んだの」
小さな泉のほとりで、リリィがしゃがみ込む。
陽光を浴びて、その金髪がまるで葉に舞う光のようにきらめいていた。
「エルフって、こういう自然の中で生きてるんだな。なんか……羨ましいよ」
「そう? ユウトの世界は、自然が少ないの?」
「うん。ビルだらけで、空もあんまり見えない。夜になっても明るくて……星なんて、忘れてた」
そう言うと、リリィは少し悲しそうに微笑んだ。
「でも、ユウトは星を創れるんでしょう?」
「……ああ。今なら、できるかもしれないな」
そう言って、手を空に掲げた。
「《創造:光珠星》」
ふわり、と。小さな星々のような光球が空に浮かび、森の木々の間をゆらゆらと泳ぎはじめる。
「わぁ……!」
リリィが目を輝かせる。
その笑顔に、少しだけ、心があたたかくなった。
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その後も、森の果樹園で果実を摘んだり、弓の稽古をつけてもらったり、ゆるやかな時間が過ぎていく。
「……そういえば、ユウトって女の子、苦手?」
「いや、全然。むしろ好きだけど……なんで?」
「なーんでも」
リリィがクスッと笑って、風の中へ駆け出す。
「ま、王族だし、モテるんじゃないか? リリィって」
「……どうかしら。でも、あなただけは……ちょっと特別、かも」
その言葉は、風の中に溶けていった――けれど、俺の胸にだけ、確かに届いていた。
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その夜。
リリィは城の塔で、一人つぶやいた。
「ねえ……ユウト。
このまま、もしずっと一緒にいられたらって……少しだけ、思っちゃったの。馬鹿みたいよね」
けれどその想いは、まだ胸の中にしまっておく。
なぜなら、彼もまたこの世界にとって“特別すぎる存在”だから。
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一方その頃――
帝国の首都の聖堂に、白銀の聖女が静かに目を開く。
「――ついに、動き始めましたね。創造の者……ふふ、楽しみです」
彼女の名は、セラ・オルフェン。
神の名を借りる、美しき“神の器”。