「ツンデレエルフ姫リリィ、爆誕」
「私はリリィ・フレイア。エルフの王族にして、第四王女……」
自己紹介を始めたエルフ少女は、プイっとそっぽを向いた。
「……さっきのは命の恩人として一時的に礼を言っただけよ。別に、あなたに心を許したわけじゃないんだからね!」
……出た、テンプレ中のテンプレ。ツンデレ姫である。
オーガを撃退してから数十分。リリィはとりあえず俺の創造した「簡易回復ポーション」で怪我を癒し、少しは落ち着いた様子だった。
「それで、君はなんであんな森の中で襲われてたわけ?」
「……私の部隊が魔族の急襲を受けて、ひとり逃げ延びてきたの。ここはもう安全圏のはずだったのに……」
ふむ、戦争中ってことか。
「それならどこかの街に戻った方が……」
「だめよ。今、王都に連絡を入れたら、私が“敗走した”ってことになって、政治的に色々と面倒なことになるの。だから……しばらく身を隠したいの」
この子、ただの姫じゃなくてかなり政治にも巻き込まれてるタイプか。
リリィは少し沈んだ目をしながら、チラッとこちらを見る。
「……あなたのその能力、“創造”とかいうの。もう一度見せてくれない?」
「え、どれでも?」
「できるなら」
「……じゃあ、見てろよ」
俺は軽く指を鳴らす。
「《創造:お風呂》」
すると、地面に半露天風呂のようなものが出現し、魔力で常時温かい湯が張られた。近くにはタオルやアメニティまで揃ってる。
リリィは目を見開いた。
「こ、これは……!?」
「異世界の女の子は風呂に弱い説、あると思います」
「……っ! ば、ばか! いきなりこんなもの創るなんて、はしたないっ! で、でも、その……入っていいの?」
「どぞ」
数分後。
「ん……ふぅ……なんなのこれ……最高じゃない……?」
俺は背中を向けながら、リリィが湯に浸かる音を聞いていた。
その表情は、戦場にいたとは思えないほど無防備で――
どこか、安心したような微笑みだった。
「なあ、リリィ」
「なによ」
「……俺、この世界に来たばかりで、右も左も分からない。でも、君を助けたのは偶然じゃないと思うんだ」
「…………バカ。そんなの……言われたら、期待しちゃうじゃない……」
そのときだった。
風が一瞬止まり、木々がざわめく。リリィが湯から身を乗り出し、顔をしかめる。
「……魔族の気配! 数は――三体!」
俺は立ち上がり、右手を掲げる。
「《創造:対魔剣・ファントムブレード》」
風のように出現した銀の剣を握りしめ、俺は言った。
「守るって決めたからな。君だけじゃない。この世界も――俺が全部守る」
「っ……なにカッコつけてんのよ、バカ……! でも……頼りにしてるから!」
――次の瞬間、森の奥から、異形の魔族たちが飛び出してきた。
だが、俺はもう迷わない。
この世界で生きると決めた。なら――戦うだけだ。