「寄り添う音、君と」
エルフの都、ラファリア。
陽射しが柔らかく、木々の葉が優しく揺れる昼下がり。
その日、ユウトはリリィと二人で外へ出る約束をしていた。
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「遅い。十分遅刻」
腰に手を当てて睨むリリィ。
その隣には、いつもと違う少し可愛らしい民族衣装風のワンピース姿の彼女がいた。
「いや、その……イリスとレオンの様子、気になって……」
「……まあ、いいわ。今日はわたしが先導するから、着いてきなさい」
そう言って、リリィはふわりと微笑んだ。
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木の橋を渡り、小道を抜け、小川のせせらぎが聞こえる森の奥へ。
そこは、エルフ族にとっても特別な“癒しの地”。
「ここは、私の“母様”が眠ってる森。だから、小さい頃からよく来てたの」
木漏れ日が降り注ぐ中、リリィの声はどこか遠くを見つめていた。
「母様は戦争で亡くなった。でも……ここに来ると、不思議と安心するの」
「……リリィ」
「平和な時間って、脆いものよね。壊れるのは、一瞬」
「だからこそ、今を大切にしたいって思うよ」
ふたりの手が、そっと触れ合う。
木の下で休みながら、リリィが言う。
「最近、あんた……少し変わったわね。昔はもっと無鉄砲だった」
「今でも結構無鉄砲じゃない?」
「違う。“守りたいもの”ができた目をしてる。
あんたは、この世界に来て“誰かのために戦うこと”を選んだのね」
「……俺、強くなりたい。リリィを、みんなを守れるくらいに」
すると、リリィは少しだけ頬を赤らめながら、囁くように言った。
「じゃあ、これも“守るべきもの”に入る?」
そう言って、彼女はユウトの袖を小さく引いた。
その手の温もりは、確かに――“想い”だった。
帰り際、リリィが道端の草花で花冠を作る。
「……はい。あんたに、プレゼント。これ、こっちの文化だと“契約”の証」
「け、契約って……?」
「深い意味はないわよ、ばーか。でも、
“わたしはあんたの味方”って、そういう印。忘れないでよね」
恥ずかしそうにそっぽを向くリリィに、ユウトはそっと微笑んだ。
「ありがとう、リリィ。俺も……お前を信じてる」
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その夕暮れ、王国の北端――
かつて“封印の谷”と呼ばれた地の封印が、静かに解かれつつあった。
空気が震え、大地が呻く。
現れたのは、“災厄の王”と呼ばれる、かつて神々に討たれた存在。
人ではなく、魔でもない、“旧き力”の化身。
その咆哮が、世界に新たな波紋を投げかける――