表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

「語られぬ記憶」

エルフの王国――静かな陽射しの下、穏やかな時間が流れていた。


激動の対話を終え、しばしの休息を得たユウトたち。

だが、その裏で、語られぬ想いが、二人の心に渦巻いていた。



---


「ユウト、今日は何をすればいい?」


 イリスは朝からそわそわしていた。


「んー、今日は王国の仕事もないし、のんびりしてていいよ」


「……のんびり、ってどうするの?」


「散歩でもしてこいよ。せっかくだし、エルフの街でも見て回れば?」


 そう促され、イリスは一人で街へ出ることにした。


しかしその表情はどこか曇っていた。


「“生きてる”って……こういうこと、なのかな」



---


 一方、レオンは王国の鍛冶場を訪れていた。


「鉄の扱いが甘いな。熱が均一じゃない」


 周囲の職人たちが感心する中、レオンは真剣な表情でハンマーを振るう。


 彼は元・神聖帝国の騎士。

 だが今は、自らの意志で剣を置き、“守るため”の力を磨いていた。


 そんな彼の元に、ふらりとイリスが現れる。



「レオン、すごい……火を怖がらないの?」


「ゴーレムが“怖い”って感情を覚えるとはな。人間らしくなったもんだ」


「……よく、言われる。でも、よくわからない。

 怖いって何? 悲しいって何? わたし、“生きてる”のかな……?」


 イリスの問いに、レオンはハンマーを置き、じっと彼女を見つめた。


「お前は、自分でそう思うのか? “生きてる”って」


「わからない。わたしは創られた。でも、今は……ユウトが笑ってくれると、うれしい。

 それが、ほんとに“わたし”の気持ちなのか、作られた感情なのか……自信がないの」



 レオンは少し黙り、口を開いた。


「……昔、私には“救えなかった少女”がいた。

 病気で、なにもできず、私はただ“神に祈ることしかできなかった”」


「……」


「けどある時、その子は言ったんだ。

 “生きてるって、少しでも何かを感じることだよ”って。

 喜びでも、怒りでも、悲しみでも、誰かを思う気持ちがあるなら、それはもう“命”だって」


「……それ、ほんと?」


「ああ。その言葉は、今でも私の中に生きてる。

 そして今、イリス。お前が迷ってるってことは――すでに“生きてる”ってことなんじゃないか」



 イリスの瞳に、ぽたりと涙が浮かぶ。


 “涙”という感情の現れに、彼女は戸惑いながらも、自らの胸に手を当てた。


「……ありがとう、レオン。わたし、少しだけ……自分を信じてみたい」


 その笑顔は、不器用で、でも確かに“自分のもの”だった。



---



 その夜、ユウトはイリスの報告を聞きながら、ぽつりとつぶやいた。


「レオンって……やっぱ、ただの脳筋じゃないんだな」


「ユウト、脳筋って何?」


「……気にしなくていい。

 でも――お前が自分の気持ちで笑ったなら、それが“生きてる証”だよ、イリス」


「うん!」


それを聞いて安心そうに、少女は人間と変わらぬ笑顔で頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ