「聖女セラ、動く」
神聖帝国・聖都ファーリス――
高き鐘楼が夜の空に鳴り響き、聖なる書が静かにめくられていた。
その中心に立つ者。
金糸の髪と純白の礼装を纏う少女――聖女セラ・リュミエール。
人々は彼女を「神の声を聞く者」と崇めるが、彼女の瞳には“確かな知性”と“冷徹な意志”が宿っていた。
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「カイゼルが、敗北を?」
セラの声は怒りも驚きもなかった。
それどころか――わずかに笑みさえ浮かんでいた。
「……ついに、目覚めたのですね。“創造の力”が」
神官が震える声で続ける。
「レオンもまた、創造の者に与したままです。このままでは……」
「恐れることはありません。むしろ、歓迎すべき変化です。
神の領域を侵犯した者の力……それが、どこまで“本物”なのか。
この目で、見極める時が来ただけです」
翌朝、聖女セラは神殿の中心で布告を発した。
「私はエルフの国へ向かいます」
その場にいたすべての神官が騒然とする。
「セラ様! 直々に現地へ赴かれるなど――!」
「私は“神の真理”を知りたいのです。
もしあの少年が、創造主の代行者であるならば……神の意志に近い存在。
もし冒涜者なら、私自らの手で断罪します」
誰も、彼女を止めることはできなかった。
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一方、エルフの王国。
王宮には聖女自らが来るという情報が早くも伝わっていた。
「いよいよ、彼女が動いたのね……」
リリィが苦々しくつぶやく。
「どんな奴なんだ? セラって」
ユウトの問いに、リリィは答える。
「聖女セラは、神聖帝国そのものの象徴。
だけど……彼女は“狂信者”ではない。むしろ、知の探求者よ。
真理のためなら、神にさえ疑問をぶつける……“危険な天才”。」
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その夜。
イリスは王宮の庭で空を見上げながら、ユウトに寄り添っていた。
「セラって人が来たら……また、わたしのこと“消す”って言うのかな」
「大丈夫。今度は、俺が話す。全部、俺の言葉で」
「ユウトは……こわくないの?」
ユウトは少しだけ考えて、笑った。
「怖いさ。だって、相手はこの世界のトップレベルの存在だ。
でも、逃げてばっかじゃ――俺、この世界に来た意味がない」
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数日後――
聖女セラが率いる小規模な護衛隊が、静かにエルフの森へと足を踏み入れた。
光を纏うような美しさと威圧感。
まるで空気が変わったかのような存在感が、王都を包み込む。
「はじめまして、“創造の者”ユウト。
あなたに、“神の真意”を問いに来ました」
その瞳は冷たくも暖かくもない。
ただ、深く――すべてを見透かすような、知の光を湛えていた。