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ポンコツ君と初彼女①

「孝之くんとかイケメンだと思うよ。鼻も高いし」


 高校に入学して、まだ一ヶ月しか経っていない頃だった。水筒のお茶を飲んでいた孝之は驚きのあまりむせた。

 声の(ぬし)である遠野(とおの)ゆうこは窓側列の前から三番目の席で、女子4人組グループの中心になって話をしていた。クラスの中で誰がイケメンかを議論でもしていたのだろう。

 孝之はポケットからティッシュを取り出して机にこぼしたお茶を拭きながら、まるで何も聞いていなかったかのように平然を装う。


「何してんの」

「いや、お茶こぼしちゃって」


 机から視線を左斜め上に移した先には、ゆうこの顔があった。丸顔にショートボブで目が一重とタイプではなかったが、ニコニコの笑顔は愛嬌があって可愛らしいと孝之は思った。


「今日、家帰ったあと電話していい?」


 耳元でそうささやかれた。


「へぇ?」


 自分でもビックリするくらいマヌケな声が出た。


「数学、分かんないところがあるから、教えてほしいんだけど。ほら、孝之くん、授業で発言とかよくしてるから得意だと思って」

「……うん、いいよ」

「やった! じゃあ、家に帰ったら電話するね」



 家に着いて、孝之はベッドのソファにもたれかかった。


「疲れたぁ」


 息つく暇もなくスマホが振動した。

 今から電話できる? ゆうこからのメッセージだった。孝之は部屋に移動して、勉強机に数学の教科書とノートを置いて、ゆうこに電話をかけた。


〈もしもし〉

「もしもし、こっちは準備できてるからいつでも始められるよ」

〈うん、勉強の前に少し話さない?〉

「分かった」


 孝之は持っていたシャーペンを机に置いた。


〈なんかさ、今クラスでカップルが四組くらい誕生してるらしいよ。知ってた?〉

「え、そうなの? まったく分かんなかった」

〈孝之くん、周りをよく見なさいよ。みんな知ってるよ。たぶん、知らないの孝之くんだけだよ〉

「俺、鈍感だからなそういうの。マジ分からん」

〈鈍感だよ。孝之くんを好きな子とかほんとに大変だと思うよ〉

「そんな人いないよ。今まで付き合ったことないし」

〈分かんないよ?〉


 心臓の音が聞こえる。何者かに優しく撫でられているかのように胸の奥がむず痒い。頭がおかしくなりそうだ。


〈好きな人いないの〉

「えっ?」

〈だから、いないの? 好きな人〉

「いない……かな」

〈本当は?〉

「え、あっ、え、ゆう」

〈え、聞こえない〉

「……ゆうこさんが好きです。付き合ってください」

〈へへっ、ありがと。私も好き〉


 そこから先はどうやって会話が終わったのか覚えていない。気がづけば、数学の勉強など一切せずに通話が終わっていた。

 夕食後、風呂場で自分が映っている鏡を眺めながら、「俺に彼女ができた」を連呼しながら反芻(はんすう)していく。


「これは現実なんだ」


 そう頭の中で整理できた途端、気分が高揚した。

 初めてのデートはやっぱり遊園地かな、どうせなら水族館があるところにしよう。そんなことを一晩中考えながら、孝之は朝まで彼女ができた余韻に浸り続けた。

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