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ポンコツ君と友人③

 六時半に目覚ましが鳴った。孝之は枕元に置いてあったスマホを取りアラームを止める。

 朝になっても、昨日聞いた話で頭がいっぱいだった。

 中学を卒業後、家の電気屋を継いだ京はそこで二年間働いたあと、何を思ったのか、退職代行を利用して、家の仕事を辞めた。詳しい理由は最後まで連絡をとっていた雄二にも分からない。しかし、たまにLINEで、家に帰っても仕事のダメ出しを親にされていてしんどいと京はぼやいていたらしい。

 京が仕事を辞めて半年後、雄二はどうにか京と会う約束を取り付けて、チェーン店のよくある安いカフェで待っていた。だが、京は来なかった。かわりに、子供ができたからもう会えないとメッセージが届き、それ以来返信をしても、電話をしてもまったく反応がないのだという。


 何かできることはないのだろうか。せめて、京の安否だけでも分かれば……電話でもしてみるのはどうか。いや、親友ともいえる雄二の電話に出ないのだ。親友の域にも達していない自分が電話をしたところで、出てくれる保障なんてない。

 

「恩か……」


 ため息と共に言葉が漏れる。雄二は昨日、自分に一番恩を感じているのは京じゃないか、と言っていた。あれはどういう意味なのだろう。過去の記憶を遡っても、京に恩を着せた覚えはない。やってあげたことといえば、せいぜい教科書を貸したことぐらいだろうか。

 そもそも、二人だけで遊ぶほど仲が良かったとは言いにくい。雄二がいて京がいる。リアルで遊ぶ時はいつもそうだった。そうリアルでは……。

 いや、あった。二人だけでオンラインゲームをしていた。京は無類のゲーム好きだったが、雄二はゲームが好きではなかった。だから、一緒に二人きりでゲームをしていたんだ。その環境が当たり前すぎて、今は記憶にホコリを被せてしまっていた。

 京はもしかしたら、今も一人でゲームをやっているのかもしれない。どんな状況でもゲームをやらなくなるなんてことは考えにくい。大好きな女子に振られた時も、先生に人権侵害とも受け取れるほどの暴言を言われた時も、京はクソ野郎っと叫びながら戦争ゲームで人を殺していた。大虐殺をしていた。下手すぎて二秒で死んでいく俺をカバーしながら、人を殺し続けていた。それほど、京はゲームが好きなんだ。

 孝之はゲーム機を起動させ、ログインをしてオンラインになった。フレンド一覧を確認する。KYO348のアカウントを見つけた。青い丸のマークが京の生存を知らせるかのように光っている。京もオンラインだ。


≪混ぜて≫


 すぐさま京にチャットを送る。チャットに一人称を入れるとやかましいとキレられるので、俺もという一人称はもちろん外した。

 30秒ほどでチャットにFPS(一人称視点)の戦争ゲームの招待状が届いた。そこからゲームに入る。メニュー画面が表示されると天の声が聞こえてきた。


〈孝之ちゃーん、久しぶりじゃーん。珍しいね〉


 ボイスチャットを使って京が話しかけてきた。中学の頃と変わらない雰囲気にどこかホッとする


≪久しぶり、一戦かましたくてきた≫

〈おー、言うね。その意気込みだと十秒は持ちそうだな〉

≪まかせろ≫

〈楽しみだな。じゃあ行くぞ。武器は大丈夫か〉


 装備は中学生の頃に使っていたAK-47(アサルトライフル)とトカレフTT-33(ハンドガン)で変わっていなかった。準備万端だ。


≪準備OK≫

〈よっしゃ、いざ戦場へ〉


 画面が切り替わり、戦場に放り込まれる。廃墟と化した建物の中からゲームが始まった。前方から赤色のマークが印された敵兵がこちらに向かって歩いてくる。すぐさまAK-47を構え、発砲した。しかし、当たることはなく、逆に敵兵の発砲した銃弾が操作している兵士の頭部を貫いた。視点が真っ暗になり、京の操作している兵士の画面に切り替わった。


≪すまん≫

〈え? さっきの意気込みはどうした〉

≪銃弾に砕かれた≫

〈ぷっははははは〉


 京は爆笑した。


〈やっぱ孝之ちゃーん、最高だわ。まぁ、見てなって俺の腕を〉


 京は銃を構え、映画で見るような凄腕の殺し屋かのように、華麗に、確実に、敵兵を抹殺していく。


〈死ね、こら。死ね。死ね。死ね〉

〈てめぇ、こらふざけんな。ぶっ殺すぞ〉

〈なんだこのクソ野郎。ふざけんな〉

〈へい、ざまぁー〉


 銃の発砲音と息をするかのように吐かれていく暴言は、重なりあってどこか美しいメロディのようにも聞こえる。暴力の音だけでそこまで思わせてしまうのは、もはや天才だ。そんな大会があったらきっと優勝できるだろう。

 敵兵を殺し続けて十分、戦争が終わった。

 戦績の発表が終わったあと、メニュー画面に戻った。


〈いやーおもろかった。孝之ちゃんいるとやっぱり違うわ。ありがとな〉

〈ゲームはこれで最後にするよ。俺には幸せにしなくちゃいけない存在がいるからな。最後に孝之ちゃんと一戦やれてよかった〉

≪いつか、リアルでまた会えるかな≫

 

 しばらく京は沈黙していた。言葉を選んでいるのだろう。


〈おう……そん時は、そん時は、幸せになった姿見せつけてやるからな〉


 ボイスチャット越しでも涙声になっているのが分かった。


≪俺も楽しみにしてる≫

〈俺もがやかましいわ〉

≪ごめん≫

〈はははは……はぁ、楽しかった。じゃあな〉


 それはまるで自分の中にある子供心にさようならを告げているようでもあった。


≪おう≫


 京はオフラインに戻った。

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