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ポンコツ君と友人②

 ブルーにライトアップされた勝島橋を雄二の愛車、カローラレビンで渡っていく。夜の十一時を過ぎていることもあって車通りが少なく、絢爛(けんらん)な景色の割には人の影を感じにくかった。

 

「カローラレビンってハチロクだよね? 『頭文字(イニシャル)D』に憧れてんの」

「だから、何回その話をするんだよ。しつこいぞ」


 雄二は笑いながら言った。

 毎回、雄二の車を乗せてもらうたびにその話を持ちかける。実際、『頭文字D』の主人公が乗っている車はスプリンタートレノで、同じハチロクでも車の顔つきがまったく違う。それは、素人の孝之でも分かることであった。


「冗談だよ。冗談」

「ったく、勘弁してくれよ。俺は『頭文字D』を知る前からハチロクが好きなんだから」

「でも、ほんとはトレノに乗りたかったろ?」

「俺は昔からレビンが好きだ。じゃなきゃ、毎月十万以上もこの車に払えないって、給料の半分だぞ」

「それもそうか。俺は将来レビンに乗るって、毎朝学校に来るたびになぜか俺に誓ってたもんな」

「覚えてんじゃん」

「そりゃね、あんだけ毎朝言われば……懐かしいな」


 孝之はドリンクホルダーからペットボトルのミルクティーを取り、一口飲んだ。


「そういえばさ、雄二は俺と友達になった時のこと覚えてる」

「もちろん、俺がしつこく孝之に紙飛行機投げて、孝之は俺の紙飛行機を破った」

「あの時さ、なんで俺が機嫌悪くなったか分かる?」

「俺が孝之にしつこくしたからだろ」

「それが違うんだな」

「じゃあ、なんで」

「俺さ、折り紙が苦手なんだよね」

「えっ、どういうこと」


 雄二は運転しながらこちらの顔を一瞬見た。


「恐怖症に近いというか、幼稚園で嫌な思いをしてから折り紙が怖いんだよ。見るのも、触るのも」


 雄二は吹き出した。声を荒げて大笑いしながら運転している雄二を見ると、バイトですさんでいた気持ちが和んでいく気がした。


「おいおい、そんな笑うんじゃない」

「いやー、だってさ。俺、あの時、超真剣に謝ったからね。もう終わったかと思ってさ、孝之に嫌われたって。そしたら、折り紙が怖いから怒ってたって、こんなん爆笑でしょ」

「投げてきたのは間違いなく不快だったけどね。恐怖の対象が勢いよくこっちに飛んでくるんだから」

「あの時はさ、ペ・ヨンジュン好きの妹に言われて孝之と友達になろうと思ったんだよ。だけど、どうやって接していいか分かんなくて、あんなちょっかいをかけるしか、できなかったんだよな」

「ん? ちょっと引っかかるな。妹のためだったの?」

「そうだよ。孝之ってさ、結構イケメンなんだよね、ペ・ヨンジュンに似てて。それがもう、妹にドストライクでさ。ぜひ、お近づきになりたいってな」

「なんか、嬉しいようで嬉しくないな」

「ま、妹は一ヶ月ぐらいで孝之に飽きてたけどな」

「それもそれでショックだよ」

「お、もうそろ着くぞ」


 雄二は大井ふ頭中央海浜公園の駐車場に車を駐めた。

 車を降り、自販機で缶のホットコーヒーを買ってベンチに座る。やはり、春の夜にしては少し寒いが、我慢できない寒さでもなかった。

 孝之は缶コーヒーを開け、すするように一口飲む。

 雄二は一口飲んだ缶コーヒーをベンチに置き、ポケットからハイライトメンソールの箱を取り出した。煙草にライターで火をつけ咥えると、煙を肺に溜め込んだ。


「煙草は二十歳になってからだぞ」

「孝之、硬いこと言うなよ。大学生と違って働いてれば色々あるんだよ」

「ふぅーん」

「そういえばさ」雄二は携帯灰皿で煙草の火を消した。「さっきの話の続きだけど、きっかけは妹だったかもしれないけど、俺は孝之と友達になれてよかったよ。たぶん、世界中どこ探したってこんなに優しいやつはいないんじゃないか。孝之が一番だよ」

「さすがにそこまで言われると照れるよ」

「それは京も同じこと思ってんじゃないか。あいつは特にお前に恩を感じてると思うぞ」

「京か、懐かしいな。今何してんの」


 雄二はしまったという顔をして口に手を当てた。


「あー、あいつ? うーん、なんて言ったらいいんだろうな。うーん、今、行方不明」

「はぁ? なんて」

「だから、行方不明」

「どういうこと」

「うーん、まぁ、孝之だから言うけど。親と絶縁して、女性との間に子供を作ったあげく姿をくらませました」

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