44.正義と悪の結末
「はぁはぁ、なんで、なんであんたは、それだけの腕がありながら、プレイヤーキルなんてするんだ、それだけの腕があれば、攻略組でも活躍出来ただろうに!!」
「ハァハァ、随分と熱い考えを持ってるんだなぁガキ、理由なんて簡単だ、それは俺が人殺しが好きだからだ、特に、何不自由なく暮らして、幸せな将来が約束されてる奴を見てると無性に殺したくなる、なぜなら、幸せな奴を殺した分だけ、幸せになれる〝椅子〟が空く訳だからなァ、自分が幸せじゃないなら、だったら椅子取りゲームの世界で、その椅子を奪う為に努力するのは道理って話だよなァ!!」
「くっ、・・・ふざけるなァッ!!自分が幸せじゃないからって他人の幸せを壊すだと、そんなの間違っているッ!!、自分が幸せじゃなくても、自分の人生に救いなんて無くても、それでも生きていくのが人間だろうが!!、信じていれば救われるとか、努力は報われるとか言うつもりは無い、世の中が理不尽と死にたくなるような絶望でいっぱいなのも───オレは分かる!!、でも、みんな必死に生きてるのに、自分だけが不幸だなんて理屈で他人の幸せを壊すなんて間違っている!!、オレは絶対認めない!!」
「だからさァ、椅子取りゲームなんだよ世界は、暖かい食事も、屋根のついた家も、綺麗な水も何もかも、全部有限のリソースで、このゲームに於いても同じだろうが、人間は分け合える生き物じゃないし、分け合えるだけの豊富な資源がある訳でも無い、だからリソースを自分の所に集約させて、自分の勢力を育てて、自分の軍隊を強くする、ゲームと同じ搾取と育成の仕組みが必要って話だろうがァ!!、ガキ、てめぇはこの国の、温室育ちで直ぐに引きこもるようなクソガキの、そんな甘ったれた青臭さがクソほど臭ってくるぜ、鼻が曲がりそうだ、殺した分だけ強くなるゲームなら、沢山殺して何が悪いってんだ!!」
「くうううううう!!」
口喧嘩で劣勢になったせいか、ノワは次第に押され気味となり、男が口数と共に手数も加速していく。
「それに、殺しが〝悪〟っていうのも権力者が自分を守る為に定めた事だろう、戦争でならそんなルールは簡単に覆るし、俺たちは戦争をやってんだよ!!、人を殺すのが悪だっていうのならば、人に人権を与えないのは悪じゃないのか?、人を搾取するのは悪じゃないのか?、他国に戦争を幇助する行為は悪じゃないのか?、そんな事をけしかける奴らの作ったルールに、一体どこに〝正義〟があるって言うんだよォ!!」
「ぐあああああああっ!!」
男の激情の込められた一撃を食らったノワは吹っ飛ばされる。
・・・まずい、ノワは小卒も怪しいレベルの義務教育の敗北者だ。
ゲーム以外の常識に疎いし、真面目に受験勉強して進学校にいる俺とは違い、レスバは圧倒的に不利だ。
俺はこのままではノワが負けると思い、レスバに加勢する事にした。
吹っ飛ばされたノワを庇うように俺は両手を広げて二人の間に割り込む。
「この世に唯一絶対の正義や、万人を幸せにする法律なんて無い、それは確かに真実で正しいだろう!!、だから俺はお前の殺人を否定しないし、お前の言葉に道理がある事は認める、だが!!」
「なんだテメェ、雑魚は引っ込んでろ、俺はそこのガキの相手しているんだよ!!」
男はタツノコを即死させたような必殺の斬撃を俺に放った。
「よせっ、団長!!、団長に敵う相手じゃない!!」
モーションは一瞬、レベル差的に考えてもガードは不可能だろう、だが、割り込んだ時点で、俺はここでこの一撃を受け止める責任があった。
俺は意識を、思考を、バラバラに躍動するそれらのうねりを一統させて、魂の座標を超越させる。
「くっ──────────約束された勝利の視覚!!」
──────────バチン
覚醒のレバーが下ろされて、俺は超越者的な視覚から男の一撃を見切って、オウエモンの一撃を回避した時をトレースするような動きで回避する。
ブゥン
額を掠めた斬撃は亜音速で迸っているのか、そんな残響が聞こえるが、俺は気にせずに屈むのと同時に男に足払いをかけて男を転ばせる。
「──────────な!?」
俺のその一連の攻防に周囲から感嘆と賞賛が聞こえてくるが、俺は男が反撃する前にレスバを再開させた。
「だが!!、人を殺す事に喜びを見つける人間がいるならば、人を救う事に喜びを見つける人間がいる、これもまた真実だ!!世の中は善か悪かの二色で無ければ、人殺しは善でも無ければ悪でも無い、各人の正義で行えばいい!!、殺す相手を間違えるな!!、あんたが殺したいのは、こんなゲームだけが取り柄で、小学校で不登校になって友達もおらず、親からは穀潰し扱いされて毎日息を潜めるように生活しながらネトゲにログインしてるような何の生産性も社会的地位も価値も無い憐れな中学生か?、違うだろ!!、こんな憐れなガキ相手にレスバで勝って調子に乗ってんじゃねぇよ!!、あんた大人だろ?、ガキ相手にレスバで勝って、あんたはそれで本当に嬉しいのかよ!!」
俺がそう叫ぶと、他の殺人鬼達も、小学校で不登校になったノワを不憫に思ったのか、同情の目を向けた。
「・・・え、あいつ本当に中学生なのか?」
「でも確かに、中学生とかが好きそうな格好とセンスだし、そんな感じはするよな」
「じゃあ死にたくなるような絶望ってつまり・・・ご愁傷さまだぜ」
「小学校で不登校って、人生お先真っ暗じゃん、えぇ・・・、流石にそんな可哀想な奴殺すのは、俺も気が引けるな」
「だ、団長・・・、何言ってんだよ、オレは、別に憐れで可哀想な奴なんかじゃ・・・、うっ・・・」
そこでノワは、殺人鬼達から向けられた憐れみの視線に気付いたのだろう、しんと静まり返った空間に、大勢の人間がノワを可哀想なものを見る目で見つめ、ノワから視線を向けられるとさっと目を逸す。
そんな晒し者にされた事でノワは沸騰するように赤面し、涙目になって俯いた。
「お、オレ、は・・・、可哀想な奴なんかじゃあ・・・、うぅっ・・・」
かっこよくヒーロームーヴで人助けをしていたにも関わらず、レスバで負けた挙句に自身の恥ずかしいリアルを暴露されたのは流石にキツかったらしく、ノワは震えながら二刀を握り締めて羞恥に耐えているがそこで感情が決壊したのか、床には涙が滴った、それを見た男は怒りを露わにして俺に詰め寄った。
「ちっ、いい所だったのに水差しやがって、おい兄ちゃん、この落とし前は、お前がつけてくれるって事でいいんだよなァッ!?」
「──────────くっ」
ズキン
男が一撃を放つのと同時に、俺の頭に鋭い頭痛が走って意識が飛ぶ。
脳がひび割れるような、そんな強烈で鋭い痛みに、俺は体の主導権を無くし、男の一撃に反応できずにいた。
(まずい、死──────────)
男の包丁は、俺の眼前で止められた。
包丁は二本の指で挟まれていて、それによって静止した訳である。
「もう終わりさァ、キリヲ君は僕たちの仲間だからねェ、ウチは同士討ちは禁止してないけど、ボス戦でボロボロに弱ってるキリヲ君たちをいじめるのは流石に看過出来ないよネェ」
ギリギリと、包丁を指で掴むラスコと男は筋力による力相撲をしているようだっだが、ラスコは指2本で男を完封しているようだった。
男は舌打ちして力を緩めると、ラスコも包丁を手放した。
「ちっ、興が醒めた、もういい、久々にあの野郎以外の骨のある奴と戦えると思ったのに、ガキが相手じゃあな、もういい、俺は行く」
そう言うと男は踵を返してトンネルの方へと一人で歩いていく。
そして俺は今度はじんじんとした鈍い頭痛と目眩で頭を抑えながら、ラスコに礼を言った。
「・・・えっと、助けてくれてありがとうございました」
「気にしなくていいよ、バグルの攻撃を避けて反撃した君の動きには僕が目を見張るだけの物があった、これは君への適切な報酬さァ、それに君は今から、僕の獲物、だからねェ・・・」
「痛っ・・・」
ギリギリと、ラスコは俺の肩に置いた手に力を込めていく。
・・・指二本でさっきの男、バグルの一撃を受け止めるなんて恐らくノワにもレインにも不可能な芸当だろう。
俺は、この男がどれだけの高レベルなのか、その片鱗を目の当たりにして、ラスコの底知れない強さに恐怖したのであった。




