43.イカレ戦争屋
男は奴隷だった。
最低の貧国に生まれ、生まれた時に親から捨てられ、物心ついた頃には窃盗や暗殺を生業とするような、そんな最低の国の、最底辺の奴隷として生まれついた。
しかし、周りがその境遇に疑問を抱かない中で、男は常に疑問に思っていた。
何故外国人は裕福で平和なのに、自国は貧しくて内紛に満ち溢れているのか、子供ながらにそんな社会への疑問や興味を持っていた。
そして奴隷だった男は、常に売り買いされる商品であり、成長するにつれて高値が付けられた自分の価値に、再び疑問を持つようになった。
目の前の醜い老父よりも、自分の方が遥かに価値があるのに、どうして自分は一生飼われる立場なのだろうかと。
その疑問にある奴隷の男の言った言葉がこれだ。
「世の中は知識に価値が付けられている、学校に行って得られる知識、外国に行って得られる知識、そんな他人の持ってない知識が最も重要で、最も価値のある宝だからだ、だから学校にすら行ってない俺たちの価値はそこらへんの野良犬と変わらないし、野良犬と変わらないからゴミみたいに扱われる、これはどうしようもない事だ」
どうしようも無い事、それは確かにそうなのかもしれない。
この国に蔓延する貧困と戦争と衰退は、どうしようとも覆る事の無いものだ。
そして、戸籍を持っていない自分には人権も無ければ外国に逃げる権利も無い。
世の中は不条理で理不尽だ、だからどうしようもないものなのだ。
ここから救い出される糸口なんて無いことを、男は子供の時分には既に理解し、人生に絶望していた。
─────そして男は、今度は臓器売買シンジゲートに、〝臓器〟として出荷される事になった。
選ばれた理由は、職務の怠慢などの落ち度があった訳では無い、ただ男の血液が移植先の人間と最適合した、それだけの事であり、つまりは偶然だ。
そんな偶然で男は死ぬ、泣いても暴れても、男を救い出す人間など誰もいなかった。
しかし男の運命は変わった。
軍事政権のクーデター、その内乱により男は自身の周囲にいる人間の全てを、戦火によって焼き払われた。
その結果によって男は救われ、そして、今までどれだけ望んでも得られなかった戸籍────人権を手に入れた。
死んだ人間の戸籍を利用する事で男はビザを手に入れて、難民登録して海外に脱出する事が出来たのである。
そして男はある日本人の家に拾われて、そこで研究助手としての仕事をこなしながら、社会に対する知識を深めて言った。
今現在の貧困や紛争が、100年、200年前からの歴史と地続きである事、裕福な国が裕福なのは、途上国からの過剰な搾取によって蓄えられた物があるからという事、自分の国で行われていた紛争の原因が、先進国同士の代理戦争である事、そんな、本当に救いの無い現実を、そこで男は知ってしまった。
だから男はそこで自分の使命に気付いたのだ。
偽りの平和を謳う世界に、自分さえ良ければいいという考えで成り立つ社会に。
その理屈の通りに、自分のエゴのまま、この世を戦争に溢れた世界に変える事を。
戦争だけが男の救いであり、そして、戦争だけがこの世の理や、歴史に紐づいたしきたりを破壊出来る薬だ。
だから男は戦争を誰よりも肯定していたし、戦争に救われた者として、戦争で世の中を変えるという情熱に、心を支配されたのである。




