42.ファイヤ・ウォー
「はぁはぁ・・・、あ、キリヲさん!!、残ってたんですか・・・!、みんな!!、諦めるな!!、ここにはキリヲさんとノワさんがいる!!、MVPギルドの人達だ、二人がいれば殺人鬼なんて怖くない、だから諦めるな!!」
「ゼンイツ・・・」
ゼンイツはまるで地獄で仏に遭ったような、そんな心からの笑みで、絶体絶命の状況に険相を浮かべる仲間たちを鼓舞した。
知らない奴らならば殺しても心が痛まないと思っていた俺は、そこにゼンイツにいる事に運命の神様の残酷さを感じ、背筋が凍った。
───────俺に、俺を慕ってくれているゼンイツを蹴落とす事が出来るだろうか。
一週間パーティで行動し、交友を深めた仲間である男を、容赦なくここで殺す事が出来るだろうか。
そんな事が出来る人間など畜生にも劣るような、本物の殺人鬼だけだろう。
普通の人間なら、この場でゼンイツの敵になるなんて出来ないだろう。
そして俺が迷いを見せた事でラスコは俺を訝しみ、背後からナイフを俺の首にあてがった。
「あらら、どうやら知り合いがいたみたいだねェ、嫌いな奴を殺すのは気持ちいいと言ってたし、彼は見逃した方がいいのかなァ、でも、彼を見逃したら、君の寝返りは破綻するよねェ」
恐らく、俺がここで寝返り残り者たちを蜂起させる可能性を恐れて、釘を刺す目的だろう、ラスコは俺が下手を打たないように近くで監視してきた。
元々はこいつらをちゃんと殺す予定だったが、俺はそこでプランの修正をこの僅かな合間に、必死で知恵を絞って思考した。
もしかしたらそれは、ゼンイツを救う可能性を模索したという免罪符の為の思考だったのかもしれない、だが、俺のそこそこに優秀な頭脳は、この窮地においてここ一番の能力を発揮して、ゼンイツを救える可能性を閃いてしまったのである。
「キリヲさん・・・?、え、後ろにいるのって・・・、まさか・・・」
ゼンイツはラスコと近い距離にいる俺を見て、疑いの眼差しを向ける。
人を疑う判断が遅いといいたいくらいだが、ゼンイツもまた、疑いようのないくらい善人で、そして世間知らずだった。
だから恐らく、ゼンイツが年下だという俺の直感は当たっていると思いつつ、俺はゼンイツに無心で告げた。
「ゼンイツ・・・話がある、ちょっと来い」
俺はラスコを自分から引き離すと、ゼンイツと二人で密談をした。
「・・・この状況、俺たちが助かる方法はたった一つだけだ、だからお前は、これを使ってここからみんなでここから脱出しろ」
そう言って俺は、10階層で手に入れた八面体の水晶をゼンイツに手渡した。
「・・・これは?」
ゼンイツは訝しんでいたが、俺は時間が無い風を装って、アイテムの名前だけ表示させて、詳細の説明を省いた。
「見ての通り現実帰還水晶だ、ここでのMVP報酬だな、これを使って、お前たちはみんなでここから脱出するんだ、それ以外にお前らが生き残る術は無い、だからお前は、それを受け取った事を周りにバレないようにして、俺が合図したら皆を集めてそれを使え、分かったか?」
俺は真剣さを伝える為に、普段の温厚な態度を全て拭いさって、脅しをかけるような態度でゼンイツにそう指示をした。
ゼンイツは驚いた様子だが必死にそれを抑えて、俺を信じきった顔で頷いた。
そして俺はそんなゼンイツを、周りに見える風に正面から顔面を思い切りぶん殴って叫んだ。
「テメェ!!、今まで俺が良くしてやった恩を忘れてそっち側につくっていうのかよ!!、ちっ、じゃあおめェも処刑してやるよ!!、あっち行け!!」
そう言って俺はゼンイツの首根っこを掴んで残り物たちの輪に投げ入れた。
ゼンイツも俺の意図を理解してか、無言で何があったのかを悟らせないように努めており、そして俺は計画の第2段階に取り掛かった。
「なぁラスコ、お前はこの憐れな子羊達を、どう料理するのが面白いと思う?」
俺はキレて興奮した様子のまま、大声と普通の中間くらいで、敢えて周りに聞こえるギリギリの声量を絞り出して、軽薄な態度でラスコに話しかけた。
普通のギルドなら隊長に舐めた口を聞くことなど許されないものだが、殺人ギルドにそんな上下のしきたりは無いのか、俺の無礼は誰からも咎められず、そしてラスコも気にしない風に答えた。
「そうだねェ、仲間同士で殺し合わせたり、裏切った人間だけを救うと甘い言葉で誘い出すのも面白そうだねェ」
確かにそれも面白そうだと俺は相槌を打った後に、俺はラスコに告げた。
「でも、人類の処刑方法で一番人気のあるのは────火刑だ、人は焼き肉やバーベキューが好きだし、同じ様に人が焼ける様を見るのも大好きなんだよ」
ギロチンが開発されたのもこれまでの処刑が残虐過ぎたから、そしてギロチンが開発される前の時代にもっともポピュラーな処刑方法が火刑であり、人類が原始的に火刑が好きなのは、火を見るより明らかな歴史の事実だろう。
「・・・でも、ここにはそんな火力のあるものなんて無いよねェ、火が燃えるには薪が必要だ、確かに人間キャンプファイヤーなんて面白そうだけど、ここだとそれは無理なんじゃないかなァ」
「いや──────ある、俺はよく燃える燃焼剤を持っている、これを囲んで投げつければ、連鎖的に爆発し、一気に連中を燃え上がらせる事が出来る筈だ、そして、そのための仕込みを俺はしている」
オウエモンの自爆作戦でも使った魔法爆弾などの魔道具、それはレベル1プレイヤーである俺にとっては重要な火力ソースであり、常に携帯している物だった。
「あァ、さっきの、そういえば連中も何やら密集してるみたいだねェ、これなら確かに、よく燃えそうだァ」
ラスコは俺の提案が実現すると思ったのか、実に愉快そうな顔で、俺の提案を承認し、取り囲む部下たちに俺の持っていた火薬を配布していく。
携行火力の最大値は5000ダメージ、プレイヤーのHPがレベル1で50、防御力による減衰を加味しても、50人を殺し切るには十分だろう、俺はこの展開が予定調和されていたようなそんな運命を確かに感じつつ、この非情な作戦を遂行した。
そして準備が整ったのを確認して俺は合図を出した。
「今だ!!、叩きつけろ!!」
俺がそう言って爆薬を投げつけると、それと連鎖するように他の殺人鬼達もアイテムを次々に投擲し、そしてゼンイツはプレイヤーの中心から、地面に水晶を投げつけた。
水晶が砕ける、それと同時にゼンイツは思い切り叫んだ。
「皆さあああああああああああああああん!!!、僕の周りに集まってくださいいいいいいい!!、僕達は、今から現実にワープします!!!」
ゼンイツがそう言うのと同時に、砕けた水晶から魔法陣が展開されて、燃え上がる爆薬より更に激しい音と光が周囲を照らす。
そして僅かな時間の内に光は収まり。
────────後には燃え上がる、ゼンイツ以外のプレイヤーが残されたのであった。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「熱い熱い熱い熱いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
「嫌だ、死にたくない、助けてくれええええええええええええええ!!!」
プレイヤー達は灼熱の炎に焼かれてながらそのHPを減らしていき、外側のプレイヤーから徐々に、消し炭となって炎上していく。
そしてそれを見たラスコは、まるで最高の喜劇でも鑑賞するかの様子で、拍手でその様を称えていた。
「あはははははははははははははははは最高!最高だねェ!!、人間が燃え上がる様がこんなに面白いなんて知らなかったよォ!!、燃やせ燃やせ!!、もっと、もっと見せてくれよォ!!!」
人が焼ける様がそんなに面白いのか、他の殺人鬼達も声を上げて、まるで宴会をしているかのような様子で、爆薬を投擲していく。
汚い花火だった、プレイヤーの断末魔が絶え間なく反響し、殺人鬼達はその様子みて嗜虐心が満たされていくのか、汚い笑い声と悲鳴は絶えず止むことはなく、惨劇は轟々と繰り広げられた。
しかしそんな灼熱の処刑ショーは一人の剣士によって中断される。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
包囲する殺人鬼たちに大声で切り掛るその男は、さっきまで10数人の殺人鬼たちと一人で戦っていた二刀流の剣士、つまりノワだった。
ノワは対人相手でも容赦なく刃を震えるタイプの人間のようであり、まるでキリトのように勇猛果敢に、殺人鬼たちを斬り裂いていく。
それは獣の剣だった、敵の攻撃を縦横に素早く掻い潜り、突進するように獲物に噛み付いていくような、そんな勇猛で獰猛な刃は、瞬く間に手練であるはずの殺人鬼たちを両断し、なで斬りにしていく。
・・・もしかしたらノワなら、一億の名刀を持っているノワならば、俺のヒールを受ける事によって100人相手でも単騎で戦える可能性はあったのかもしれない。
そんな可能性があると、雑兵相手に無双するノワを見て確かに感じたが、しかし単騎だと俺の背負うリスクが高過ぎるし、敵も馬鹿じゃないので、敵わないと知ったタイミングで撤退するから結局一人でヘイトを買って暗殺に怯えるハメになる、それは得とは言えないような話だ。
だから〝戦に勝つ事〟と〝自分が利益を得る事〟はイコールにならないし、徹頭徹尾伏兵タイプを目指している俺からすれば、それは最初から除外される選択肢だろう。
でも、ゼンイツ達をちゃんと救えたなら、その方がよかったと、そんな胸の痛みと後悔だけは、その光景を見てしかと感じていたのだ。
しかし、その俺の葛藤はすぐに打ち砕かれる。
「オイオイ、おめェの相手は俺だろう?、ククク、雑魚相手に粋がってんじゃねぇよ、ガキ」
「クッ・・・」
最初にツチノコ達に絡んでいた男、そいつもまた二刀流使いのようであり、分厚い包丁を二刀で構えて、驚くべき事にノワと互角に戦っていた。
「・・・あの包丁、輝きからして、オウエモンの作品か」
オウエモン、鹿金剣寿郎、包帯の男、彼は【名匠】になり切れなかった敗北者だが、彼の作る無銘の刀は紛うことなき一級品であり、それらは市販では包丁や斧として利用されているらしいが、その内の一つだろう。
つまり、名刀や魔剣に劣るものの、それでも現状では最高クラスの武器と言える業物であり、ノワと死合うだけの風格を男は確かに持っていたのだ。
既に1時間以上戦っているノワには疲労や消耗もあるだろう、しかし、それでも剣のキレは全く衰える事無く、常人ならば反応不可能なレベルで研ぎ澄まされているが、それは男の方も同じようで、両者は凄まじい速度で刃の応酬を交わし、そこに入り込めるだけの余地は誰にも無かった。
「・・・殺人ギルドにこんな強い奴がいるなんてな、ノワと互角なら、普通のプレイヤーなら勝ち目は無い、か」
〝攻略組〟にノワとレイン以外にタイマンで勝負出来る人間などいないだろう、奴を敵に回す事は、この世界を生き残る上では最も避けるべき事だと俺は思った。
「止めないのかい?、君の大事なお友達、死んじゃうかもしれないよォ」
ラスコは俺の肩に手を置いてそう催促してくるが、俺はその手を払い除けて言ってやった。
「格付けは必要な事だろう、これから仲間になるんだとしてもどっちが〝上〟かははっきりさせるべきだ、対等な関係には、〝交渉〟なんてそもそも要らないんだからな」
「アハァ、いいねェ・・・君は僕の好みの〝食えない側〟の人間だねェ、だったらお友達が負けたら、君は僕の奴隷になって貰おうカナぁ・・・」
そう言ってラスコは再び俺の手に肩を置いた。
それは獲物を掴む捕食者の手であり、相当の高レベルなのか、払い除けられないレベルの握力だった。
俺は最悪の殺人鬼に目をつけられた自覚に苛まれつつ、ノワと男の決闘を静かに観戦した。




