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40.崩壊の日

「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」


 離脱者が歩いていった入り口の方から、そんな悲鳴が反響した。

 俺は何事かと思い入り口に目を向けると、そこには信じ難いような光景が広がっていた。





「な、なんだよお前ら、一体何しにここに来たんだよ!!」


「・・・・・・」


 およそ、100人くらいだろうか、仮面を付けて顔を隠したプレイヤーが100人程、入り口からここに入ってきた。


 その先頭に立つ男の持つ短刀は血に濡れており、今狩り殺した男の『生命の種』を貪っているのか、くちゃくちゃと不快な咀嚼音を立てて道化のように冷徹な微笑を浮かべていた。


 そしてその集団の先頭に立つ男は、今なお戦闘の余韻と消耗からへたりこんでいる一人の男の前に立つと、男に尋ねた。


「なァ兄ちゃん、兄ちゃんは殺し合いは、好きかァ?」


「へ・・・?」


 突如投げられたそんな質問に男が呆けると、仮面の男は舌打ちして男に告げた。


「あーダメだお前、不合格、死んでいいや」


 ザクリ。


 仮面の男は目の前の男に短刀を突き刺し、たったそれだけの事で座り込んでいた男はHPを全損し消滅した。

 そして仮面の男は床に落ちた『生命の種』を拾うとそれを口にいれてくちゃくちゃと音を立てて、再び別の男へと同じ質問を投げかける。


 そして再び同じ惨劇が繰り返された。


 人生最大の障害と呼べるような激戦の後に繰り広げられるまるで悪夢のような惨劇に、誰もが恐怖し、戦慄し、動けずにいた。

 背筋が凍るようだった、だって目の前にいるのは、ゲームのNPCでも、アニメの悪役でも無く、正真正銘、本物の殺人鬼(あくま)なのだから。


 俺はそんな極限状況の中で急いでそろばんを弾いて、目の前にいるモモ、そして遠くにいるノワとレインの居場所を確認する。


 フィールドが広いせいもあって、俺たちはまだ合流出来ていないし、そしてHPとMPに関しても万全とは言い難い状況だ、他の皆も同じだろう、ここで殺人鬼たちと殺し合いをするだけの余裕は無いし、みんなボロボロだ、交戦すれば更に大きな被害が出るのは間違いない。


 まるで銀行強盗の現場に遭遇したような心地であり、俺は息を潜めながら、なんとか逃げる隙を伺う事に神経を集中させる。


 時間を稼げば稼いだ分だけポーションによってボス戦で消耗したHPとMP、そしてスタミナなどのステータスも回復する、だからこの場では時間を稼ぐのが最適解になるだろうか、そう考えていたら─────────




「お前ら、殺人ギルドか!?、だとして1000人いる〝攻略組〟に喧嘩を売るとはいい度胸だな、お前らに人権は無い、悪人として遠慮なく処刑させて貰うがいいか!!」




 この部隊のリーダーであるツチノコが自身の仲間を引き連れてリーダー格の男に詰め寄る。

 最前線で戦ってたツチノコの部隊はそれだけ損耗も激しかったのか、仲間の数は半分近くの30人ほどに減っていたが、それでもリーダーが生き残っているのは貢献TOP3に入ったツチノコの実力の高さを物語っていた。


 ツチノコは悪人は許さないと言った口調で、武器を手に持って仮面の男の狼藉を阻止するが。




「てめぇがこの部隊のリーダーか?、ククク、随分と仲間を()()にしたみたいだが、大層立派なリーダーだなぁ、こんなに沢山殺せるなんて、俺なんかよりよっぽど極悪人じゃないか、なァ?」


 男は嘲笑するようにツチノコを見下すと、そんな態度にツチノコの部下の一人がキレて男に斬りかかった。


「てめぇ、戦ってもない癖に馬鹿にするんじゃねぇ!!、ボスは、ボスはなぁ、誰よりも先頭で戦ったんだぞぉ!!、それなのにっ!!、何も知らないお前が、ボスを馬鹿にするなァッーーーー!!!」


 一瞬の出来事だった。


 キレたツチノコの部下は、まるで糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ち、振り上げた刃が振り下ろされる事は無かった。


 同時に、首と胴体は分離されて、次の瞬間には呆気なく消滅する。


「カッシー!!?、てめぇ、よくも俺の仲間を!!」


「おいおい、先に手を出したのはそっちだろ?、雑魚が出しゃばるからだ、それで隊長さん、あんたも俺とやるかい?、今ので実力の差は理解出来ただろうに、あんたは俺の一撃、まるで見えてなかったよなァ?」


 確かに今の一撃は反則的なまでに速かった、斬撃モーションの平均速度がゲームの20フレーム、約0.33秒のこのゲームに於いて、今のは10フレームを完全に切っているような、人間の反射速度では対応不可能なレベルのイカレた攻撃だったし、それがソードスキルでは無く素の攻撃なのだとしたらそれだけで男はかなりの高レベルである事が伺える。


 如何に〝攻略組〟と言えどもレベルアップ手段がプレイヤーの命と引き換えの『生命の種』に限られる以上、本物の殺人鬼相手にレベルでは絶対に敵わない。

 そしてリーダーのツチノコと言えどもレベルがまだ一桁なのは間違いなく、殺人鬼からすれば赤ん坊の手を捻るような話だろう。

 その一瞬の示威行為(デモンストレーション)はプレイヤーの目に焼き付いて、ボス戦の恐怖を上書きする恐怖を植え付けたのだ。


 それはツチノコも例外ではなく、見るからに威勢を無くして冷や汗をかいていた。


「・・・っ、貴様らが、俺たちを殺しに来たんだとしたら、俺たちは貴様らに抗うだけだ、殺人鬼め、俺は貴様らに屈したりはしない・・・!!」


 ツチノコは必死で強がって見せるが、男は完全に格下を見下すような態度で嘲笑を浮かべながら、子供をあやすようにツチノコの肩に手を置いた。


「殺人鬼?、勘違いしないでくれよ、俺たちはただ交渉しに来ただけだ、ボス戦を頑張ってくれたお前らをいたぶるなんて、そんな酷い趣味はしてないからなぁ、ククク」


 男の下卑た笑みに取り巻きの男達も同調し微笑を浮かべる。

 ただ笑って立っているだけだが、それが殺人鬼の集団というだけでも、目の前にしたツチノコはとてつもない恐怖に苛まれている事だろう。

 ツチノコの配下も含めて怯えているのが伝わった。


「交渉だと?、一体何を交渉すると言うんだ、こんな所で、何が目的だって言うんだよ」


 必死に喉を震わせるツチノコの声は裏返っていて、完全に男に飲まれていた。

 そして男は怯えるツチノコに最悪の要求を叩きつけたのだ。


「ここにいる全ての人間の金と装備を置いていけ、それで命だけは見逃してやる、どうだ?、いい条件だろう、命の対価としたら安いくらいだ、どうせお前にここにいる連中を引き連れて俺に歯向かうだけの力は無いし、首を横に振るなら次の瞬間にはお前の首は飛ぶぜ?、どうだ、悪くない取引だろう」


 そこで男は初めて友好的な表情を浮かべる。

 断ったら殺すと、そんな圧力をかけた上で楽な方に誘導するような笑みだ、ツチノコが男に屈するのは自然な流れに思えた。


「・・・こんなの、ただの脅迫じゃないかっ、・・・はぁはぁ、クソっ・・・カッシー、ミッキー、マラゴン・・・、みんな・・・」


 ここで殺人鬼に屈したツチノコを責める人間はいない、誰もがそう思い、ツチノコを囮にして逃走するべしと、そんな風に機会を伺っていたが──────────





「──────────俺は、お前らに屈しない、ここで死んだ仲間たちの無念を晴らす為にも、お前らなんかの言いなりになってたまるか!!、たとえ一人になっても、俺は戦う、それが、俺の〝覚悟〟だっ!!!」




 ツチノコは(おとこ)だった。


 そして疑いようの無いくらい善人だった。


 だから悪人を前にして、引き下がる事はしなかったのだ。


「よく言ったボス、それでこそこ漢の中の漢や!」


「こっちは1000人いるんだ、たった100人に負ける訳無いだろ!」


「カッシーの仇、取らせて貰うぜ!」


 そんなツチノコの選択をツチノコの仲間たちは口々に肯定し、ツチノコの勇気を賞賛した。




「・・・へっ、馬鹿なヤツらだ、だが、そんな愚かで無謀なお前らの選択の代償は、その身で支払ってもらうぜ」


 仮面の男は嬉しそうに短刀を構えると、ツチノコ達も全員で武器を構えて応対する。

 ツチノコのギルドは団結が固くそんなリーダーの茨の選択を皆で肯定したかと思われた、しかし。


 グサリ


 ツチノコは背後からの一撃に困惑し、何が起こったのか分からないと言っ風に振り返る。


「な・・・!?、タツノコ、お前、なん、で・・・」


 ツチノコは背後からの致命傷により絶命し、そこで消滅する。

 そしてタツノコと呼ばれた男はツチノコの『生命の種』を拾いあげると、献上するように仮面の男に差し出した。


「はぁはぁ、くっ、僕は、もう誰とも戦いません、降伏しますっ、だから、見逃してください・・・っ!!」


 タツノコはつま先から髪の毛の先まで恐怖に支配されていた。

 せっかく仲間が大勢死ぬボス戦を奇跡的に生還したのに、ここで無意味な戦いをして死ぬなんて許せる筈も無かった。

 それなのにツチノコは自分達に相談もせずに戦う選択をしたのだから、そんなの受け入れられる訳も無かったのだ。


 だからタツノコは土下座して男に許しを乞う。


 それを見た男はゴミを見るような目でタツノコに告げた。


「おめェバカか?、降伏っていうのはまだ戦える奴がこれ以上戦うのは損だからと〝交渉〟するのが降伏なんだよ、リーダーを殺したお前を生かすメリットが無い以上、俺がお前を生かす理由も無いんだよ、雑魚の癖に出しゃばりやがって、死んどけ」


「そんな───────」


 タツノコは男の短刀によって絶命し、リーダーと裏切り者の両者を失ったツチノコの仲間たちはそこで思考停止し、誰も動けずにいた。


 ツチノコの失敗とは、部下の統率が満足に取れない状況で交戦を選択した事だろう、軍隊とは厳格な規律なくして成り立たないものだし、死を前にして人が正常な判断が出来るのも稀なものだ、だからツチノコは優しすぎた、それが死んだ一番の原因なのだと、俺はそこで思ったのだ。


 そんなツチノコの呆気ない幕切れに仮面の男は白けた風に、更に残酷な条件を俺たちに突きつけた。


「ちっ、雑魚のせいで白けちまったぜ、おいお前ら、余興をしてやるよ、俺たちに『生命の種』を献上しろ、それが出来た奴は生かしてやる、出来ない奴は・・・まぁ分かるよな、制限時間は5分だ、早く持ってこい」


 パンッ


 男が柏手(かしわで)を鳴らすと同時に、多くの人間が床に散らばっていた『生命の種』を、我先にと拾って男に献上する。


 俺は今がチャンスと思って近くに落ちていた『生命の種』をこっそり拾いつつ、モモの手を引いてトンネルの方に向けて走り出す。

 同じ考えをしていた人間も多かったようで、そこでトンネルは渋滞となって多くの人間でひしめくが、追い討ちをかけるように仮面の男たちの部下がトンネルを封鎖しようと追撃をかけてきた。


 ・・・恐らく、男たちにとっても〝攻略組〟1000人を相手に出来るだけの余裕は無かった為に、〝頭〟を潰して部隊を瓦解させて脱走者を量産し、元々数を減らしてから狩る目的だったのだろうとそこで気づくが、今気づいても後の祭りだった。


 どの道、ツチノコ以外の人間にこの烏合の衆の統率を取れない以上、ここで戦うのは分が悪いとしか言えないし、ここで降伏する奴もボス戦に心を折られた軟弱な低レベルプレイヤーが多数だろう、故に、見捨てても損失は大きく無いのだ。


 諸々計算した結果俺は迅速な判断によりこの危機的状況を回避したと、その安心感を感じつつ、殺人ギルドの連中の事は21階層に到達してから策を練るかと今は深く考えずに生き残る事を優先させようと、モモの手を引きながら精一杯走った。


 先ずはここを脱出する事、それが出来れば対処方法はいくらでもある、そう考えてトンネルを抜けようと駆け出したのだが。


「きゃっ、痛っ・・・」


 視界に、たまたま目についたその光景に、俺は体が思わず後ろ髪引かれる。

 ・・・クソっ、こんな事したら、ノワに、レインに、モモに、二度と勝手な事するななんて言えなくなるのに、俺はなんでこんな非合理的な事しようとしてんだろうか。

 なんて疑問を超越して、俺の体と口は、先に行動に入った。


「・・・ちっ、モモ、先に行け、いいか、振り返らずに街に行って、直ぐに宿に引き篭れよ、スイーツ探索とかは明日にしろよ、いいな!!」


 俺はモモの手を離して聖剣を抜いて押し寄せる人波を逆行する。

 モモが何かを叫んだが、モモは人波に飲まれて俺から離れていった。


 本来、こういうヒーロームーヴなど、俺の柄じゃないし、する必要の無い事だろう。


 きっと、エンジョイ勢のノワの影響だ、悪い友達の影響でタバコや夜遊びを始めるように、俺はノワの影響で主人公ムーヴを覚えてしまったのだ。






 逃げる人波に揉まれて転んだ少女、今回の【聖女】だった少女を仮面の男の集団が取り囲む。


「お、珍しい、女じゃん、こいつは()()()かなぁ」


「ネカマの断末魔は汚いからなぁ、せいぜい綺麗な声で鳴いてくれよ、姉ちゃん」


「あ、うあぁ・・・」


 少女は本日2度目の生と死の修羅場に、人生最大の不幸を感じて涙を流した。

 今日は厄日だ、一日に二度もこんな不幸に見舞われるなんて神様が私を殺そうとしてるとしか思えない、こんな酷い目に二度も遭わせるなんて、運命の神様は残酷に過ぎる。

 いらない対抗心から〝攻略組〟に入り、聖女に志願した報いと言えばそうだが、しかし、私は元々()()でこのゲームをしていただけなのに、それでこんなデスゲームで酷い目に遭うのは理不尽な不幸としか言えないだろう。


 二度目の悲鳴は出なかった、目の前で死ぬ人達の姿をもう何度も見せつけられたからだ、そしてあの時、()()私の栄冠を簒奪(さんだつ)された時に、私の中でささくれ立っていた対抗心、生きる執着のような物は完全に折れてしまったのだから。


 ──────────だから


 再び奇跡が起こる事など、私は信じていなかったのに。

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