38.決死の特攻
「みんな!!、聞いてくれ!!、このままでは僕たちは物量に押し潰されて不毛な消耗戦をするしか無い!!、数で圧倒的に負けてるんだ、後ろで守りを固めていても包囲されて消耗は避けられない、故に──────これより、一斉攻撃を開始する!!、各個撃破の一点突破、それによりボスへの道を切り開き短期決戦を狙う、付いてきたい者だけ付いてきてくれ、以上だ、みんな、【聖女】に続け!!」
オルトは自身の部隊にそう指示を出した。
それは声を拡散させる魔道具によって周囲に拡散されるが、オルトは効果範囲を絞っている為に、それを傍聴した敵の数は多くなく、この作戦がボスまで漏れる事は無いだろう。
多くの兵士たちはその唐突な指示に混乱していたが、しかし現在の状況の閉塞感、窒息感から、先の見えない防衛戦よりも一矢報いる特攻の方がマシだと誰もが思った事だろう。
そしてその指示と同時にオルトは馬を召喚して、一人で包囲網へと突撃して包囲網を打ち破った。
馬は競馬場の隣に牧場があり、そこで購入する事ができるもので、能力値最低の馬でも500万、ヘイボンモブみたいな普通のウマで1000万する高級品だったが、召喚アイテムに登録すれば牧場から召喚して呼び出せるという使い勝手のよさから、俺も購入していたものだった。
俺も契約したヘイボンモブを呼び出し、背中にモモを乗せてオルトの作りだした突破口を追走する。
モモとの距離が離れればチートバフの範囲外となる、それを恐れて他のプレイヤー達もなし崩し的に俺たちの後ろに追従するしかない。
平野における地の利は数の多い敵軍に今まであった訳だが、この馬を召喚した事によりオルトと俺は〝機動力〟という武器を手に入れて、戦場を外から俯瞰出来るという有利をここで手にした。
足を止めて戦えば敵の苛烈な突撃を一方的に受け続けるしかない。
だが戦場を駆ける事によって敵の突撃を回避し、そして敵を一点突破で蹂躙する事が出来るようになる。
この戦略が孫子の兵法にあるのかは知らないが、戦争に於いては基本になるような戦術だろう、そんな戦術を持ってして、俺たちはこの不毛な消耗戦の挽回の一手を繰り出したのである。
「見えた、隙の糸!!、みんな!!、一気にボスを仕留めにいに行くぞ!!、一斉攻撃だ、遅れるな!!、死にそうになったら武器を捨てて逃げればいい、だから、死にそうになるまで、突撃ィイイイイイイイイイイ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
ペインキラーの団員達はオルトの号令によって雄叫びを上げて敵に突撃する。
「こんな所で死んでたまるかよ、死に晒せ、亡霊ども!!!」
「人間を舐めるなNPC!!!」
「きええええええええええ!!!」
30分間の過酷な戦闘は、団員達の勇猛さと底力を引き上げていた。
それにより当初であれば一筋縄ではいかないような英霊の壁も、修羅に入り死兵となった団員達にとっては最早強大な壁では無かった。
そして包囲網を突破して敵の本拠地に一点突破する事によって、後方支援部隊である『RotPrincess』から援護を十全に受ける事が出来るようになり、チートバフの効果も相まって、突撃をする兵士たちは破竹の勢いで敵兵を退けていく。
その突撃の勢いは完全に後ろを振り返らない決死であるが故の突破力であり、逃げようとしても背後からは前に進む味方が壁となり、そして力尽きたものは味方に踏まれ、残った者は味方の屍を踏み越えて、味方の無念を刃に宿して突き進んだ。
・・・最初からこの戦術を取っていれば、おそらく被害は最小限で済んだだろう。
しかし、敵がどんなボスかは不明で、そしていきなり数万の英霊が目の前に現れる中で決死の特攻なんて出来る訳も無い。
つまり、ここにいる半数以上は正気では無かった。
包囲される中での不毛な消耗戦で味方が一人、また一人と死んでいく中で死の恐怖に心を支配されたからこそ、その恐怖から逃れる為にこの特攻という唯一の安楽死に縋れる事が出来たのだ。
無心で雄叫びを上げながら振るう刃だからこそ、迷いなく敵を切り伏せる事が出来たのだ。
俺はそんな命が凄まじい速度で消費されていくような、徒花を咲かせるような特攻を見て、人の抗う力、人間の生きる意思、運命という泥沼にもがく美しさを、感じてしまった。
こんな事は誰でも当たり前だと思うが、俺は、神風特攻隊が嫌いだ。
神風特攻隊が誕生したのは大本営が無能で防衛戦よりも攻略戦を優先し、その結果として物量差をひっくり返す為の〝効率〟が求められたから。
俺が司令官なら200%使用しないし、使うにしても使い所はもっと戦略的に効果的な場面で使う。
だから神風特攻隊を美化する風潮が大嫌いだし、これを賞賛する人間は自分が特攻する可能性を排除してるだけのただのバカだとしか、俺は思えない。
こういうドライな考えは俺が未だに厨二病を卒業出来てないからなのか、愛国心や信仰心が希薄な現代っ子だからなのか、色々と客観的に思い当たる節はあるが、とにかく俺は〝特攻〟や〝自己犠牲〟みたいな言葉を美化するのが大嫌いなのだ。
王は生贄にならないし、総司令官は腹を切らないし、社長は更迭されない。
その厳然とした上下の区分の食物連鎖を、命のバトンタッチみたいな表現で美化するのは俺からすれば100%の欺瞞で虚仮にしか思えない、だから理解は出来ても大嫌いなのだ。
でも、死ぬと分かってて特攻するのも、死ぬかもしれないと突撃するのも、〝上〟から命じてる人間からすれば同じものなのかもしれないと、俺はここで思ってしまったのだ。
だから俺は神風特攻隊の事を認められないが、神風特攻隊を命じた人間とは同レベルの畜生なのだと、この時にふと気付いてしまったのだった。




