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35.夢の軍勢

 ボス部屋は10階層のヘヴンズの時と同じ、1000人が隊列を組んでも全く埋まらないような、直径1キロはありそうな大広間だった。


 しかし足音が遠く反響する事から、暗がりの中のどこかに壁がある事が伺える。


「10階層の時と同じで部屋からの脱出は不可能か、ここまでは情報通りだな・・・、総員、戦闘準備に入れ、どこから敵が来るかは不明だが、隊列は極力崩さないように頼む!!」


 ツチノコは一度足を止めると部隊に指示を出した。


 そして各々が武器を抜刀し、進軍するツチノコの後を追う。


 そして部屋の中央に来た辺りにて、一人の男が待ち構えていた。



 男はヘヴンズと同じく、獣の骸骨を付けた大男であり、その風貌は黒魔道士然としたケレン味のある衣装に身を包んでいた。


 そして男は俺たちを一瞥すると、しわがれた老人のような声で俺たちに布告した。


「待っていたぞ、強きもの達よ、貴様らが先に進む資格のある者か否か、貴様らに鉄血の試練を与えよう、我が名はタルタロス・デスモナーク、この地の守護の番人なり、いざ尋常に立ち会わん。」


 タルタロスはそう言うと片手を掲げて詠唱を始めた。





 ───()は英霊の行き着く場所


 ───其は(つわもの)の墓標となる場所


 ───其は剣戟の鳴り止まぬ場所


 まだ見ぬ強敵との立ち会いを欲する者よ


 武勇の極みへの到達を欲する者よ


 己の勇名を示さんと欲する者よ


 ()にそなたらの望む死地を設けん


 集え、死食いの魂


 その剣と魂が尽き果てるまで死合え


 天在の英雄をここに


 ───────死闘(ヴァルハラ)再臨(・リバース)!!







 世界が切り替わる。


 今までは薄暗い石畳の空間の中だったのが無限に開けた荒野に切り替わり、そして紅く染まった空には、燃えるように紅い月が煌めいていた。


 転移魔法なのか幻覚なのかは分からないが、ただ、目の前に広がる光景が信じ難いものなのは確かだった。




「これは・・・、固有結界!?、世界の改竄(かいざん)、禁忌と呼ばれる魔法か!?」


「ちょっと待て、それアニメで見た事あるやつだ、じゃああの〝軍勢〟は──────────」



 俺たちは万全を期す為に最大戦力の1000人近い人数で挑んでいる。


 しかし、この何も無い荒野の対面には、それを遥かに上回る兵が整列していた────





 鋼鉄の南蛮甲冑に身を包んだ者から軽装の篭手だけを身に着けた者まで多種多様、様々な軍勢が、次々と〝召喚〟されて、眼前に並んでいく。




 ────その数、およそ10倍以上。


 

 バゼルランドの街で人斬りNPCとの戦闘を経験した多くのプレイヤーにとって、その数が張りぼてでは無い真の脅威である事は皆が理解していた。


 10階層の地獄を経験していた俺ですら目の前の光景に圧倒されて、絶望に意識を支配されそうになり変な笑いが盛れる程だったのだ。


 そしてその軍勢の先頭に立つ一人の男が更に追い打ちをかけるような一言を発した。




「我こそは宮本武蔵、日本一の剣豪なり、腕に覚えのある者よ、いざ尋常に立ち会え!!」


 宮本武蔵、二刀流の祖、生涯無敗の剣豪。


 そんな男ですらこの軍勢の中では先鋒の一人に過ぎないという圧倒的な戦力差である。


 続くように吉備津彦命や坂上田村麻呂、足利義輝と言った著名な剣豪が名乗りを上げる。


 ここには貧弱な装備をした足軽など一人も混じっていない、一人一人が兵士(サーヴァント)としての格を持つ英霊なのだ。


 そこで20階層のボスもまたクソゲーなのだと、俺たちは皆が理解し、抗い切れない大きな絶望に心をへし折られていたのである。

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