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33.好きとか嫌いじゃなくて

「なぁ団長、オレの事、好きか・・・?」


「ほへっ・・・?」


 ボス戦の決戦前夜、宿の相部屋で寝る前に装備やストレージの確認しながら歯磨きをしていた俺はノワから唐突にそんな質問を投げかけられ、俺は思わず歯磨き粉ごと唾を飲み込んだ。

 オウエモンを俺が討伐して以来ここ最近元気のなかったノワから急にそんな質問をされた俺は不意をつかれて、思わず唾を飲みこもうとしたからだ。

 現実なら咳き込むような場面だが、現実では無いここでは喉を刺激物が通過しても喉元過ぎればなんとやらという奴であり胃もたれみたいな症状が出る事も無い、なので俺は動揺も一緒に飲み込んで真顔で質問に応えた。


 ちなみに本来は歯磨き自体も不要な行為だが、習慣的にしないと気が済まないのでやっている。


「・・・それは、お前が俺を好きって前提での話か?、それによって答えは変わるんだが・・・」


 正直、ノワの中身が女子であるとか関係無しに、キリトならBLでもいけるかもー、なんて思い始めていた俺だったので、ここでキリトとユージオみたいな男同士の熱い展開をしても悪くないかななんて、そんなふざけた期待込みでの返答だったのだが、発言したノワは思いのほか真剣らしく、そう言った俺に迷うこと無く即答した。


「ああ、オレは、団長の事が・・・好きだと思う、リサちゃんのお兄ちゃんだし、リサちゃんの面影とか、〝お兄ちゃん〟を感じるような面倒見の良さを見せられる度に、どんどん団長の事が好きになっていってるんだと・・・思う」


「そうか・・・、じゃあ俺は・・・」


 それはキリトを演じているノワからしたら余分な感情なのだろうと、俺は思った。


 ノワはキリトに憧れた英雄ヒーロー正義の味方主人公ムーヴを優先するエンジョイ勢であり、根っこがソロ体質で他人に対してもドライな関係を保っていて一歩引いた印象を受けていた。


 そんなノワが〝キリトである事〟以外に執着を持ったんだとしたら、それは大きな変化なのだと俺は思い、そしてエンジョイ勢で暴走気味なキリトムーヴというノワの欠点を克服するいいチャンスなのだと思って、俺はノワの質問に正面から向き合った。


「俺は・・・ノワの事が、好き・・・?、かもしれない、正直に言えば、嫌いじゃないし、一緒にいて楽しいし、気楽に付き合える友達だと感じてる、でもたまにするキリトムーヴははっきり言って迷惑だし、俺はもっと俺に従順で服従してくれる奴の方が好きだし、だから一面的には好きだけど、全体的には嫌いよりはちょっと好き、くらいの好き、かな」


 ・・・人間不信で陰キャコミュ障の俺からすれば、そもそも好きになる人間自体が激レアさんなので、ノワの存在自体もかけがえの無い友人みたいには思っているのだが、しかし言葉にするとそういうレベルの好きでしかないというのも事実だ。

 いや、ここ数日ほぼ二人三脚で寝食を共にして、他愛の無い会話で駄弁りまくり、まるで家族のような距離感まで心を開いた俺にとっては、それは家族よりもかけがえのない存在なのかもしれないが、根本的に人間不信の俺からすれば、奇跡の存在であるモモ以上にのめり込める相手など、いるはずはないのだ。

 だから多分、一緒にいていい権利は認めても、モモのように「一緒に地獄に落ちる権利」まではノワに認める事は無いと、俺は冷静にそう思った。

 まぁ「一緒に地獄に落ちる権利」は俺の一方通行な片思いではあるのだが・・・モモならそれでもついて来てくれると・・・信じてる。


 俺の答えにノワは、「それって好きじゃないって事じゃん・・・」と俯いて落胆した。


 他意を匂わせない為に敢えて回りくどい言い回しをした訳だが、それでノワの事を全く好意がないかと言われればそれはノーなので、俺はノワを慰める目的で補足するように付け加えた。


「・・・まぁ、俺は元々人間も人間社会もそんなに好きじゃないからな、だってそうだろう、人間は人種差別とか貧困や格差とか、そういうどうにもならない問題でいっぱいで、学校に行けば嫌でも社会の縮図を痛感させられて、金持ちの嫌な奴とか、貧乏の救いの無い奴とか、見たくないもんいっぱい見せられる訳だからな。




 ・・・こんな事言ったら頭がおかしい奴と思われるから隠していたけど、実は俺、親が死のうが同級生や日本人の9割が戦争で凄惨な殺され方で死のうが一切感情が動かないと自信を持って言える、だからこのデスゲームでも自分以外の誰を殺しても全く心が痛まないと断言出来る、でも、俺は俺の仲間だけは死んでも死んで欲しくないし、仮に裏切られても追放されても、恨まずに受け入れる、だから俺の仲間になった時点で、お前は俺にとっては他の誰にも代われないヴェルタースオリジナルよりも特別な存在だし、好きとか嫌いとかじゃなくて、一緒にいてくれないと困る俺の仲間なんだが・・・



 ─────お前は、好きじゃないと一緒にいられないと思うか?」


「・・・好きじゃなくても?」


 多分、こんな風に考えてしまう俺は、根本的にアリサの同族であり、愛をまだ本質で理解出来ていない欠陥品の人間なのだろう。

 一緒にいる理由なんて、利害でも、必要性でも、利用価値でも、なんでも構わない、好き嫌いなんて不確かな価値だし、簡単に裏返るような信用出来ないものだからだ。


 人間なんて嘘だらけの生き物だ。


 聖人ぶった人間の本質が悪党だったり、悪党として憎まれている人間の本質がとてつもない善意で構成されていたりなんて逸話は、紀元前から現代において、至る所で繰り広げられるくらいには繰り返された人類の欺瞞だ。

 それを俺は家族で目の当たりにして、見事に人間不信を発症した。


 そんな俺が人間を心から信じられる訳もなければ、安易な好き嫌いという価値観で人を判断する事も無いのだから。


 だから俺は、好きで無くても構わない、俺を嫌っていようが、俺が嫌っていようが構わない。


 裏切らないと保証出来るだけの利害と、互いに損をさせない程度の利用価値だけがあれば、俺の仲間としてはそれだけで十分なのだから。


 でもきっと、こんな人格破綻者のような、リアリストを超越した合理主義なんて聞かされても、頭のおかしい奴としか思われないだろうと、それくらいの分別くらい俺にも分かっている。


 だから俺はノワの求める答え、それが何かを思考して、ノワの心に寄り添う言葉だけを求めて、言葉を繋げた。


「・・・なぁ、ノワ、お前がアリサの友達だっていうならば、不世出にして悲劇の天才、霧雨逢離裂の唯一の友達だって言うのなら、そのアリサを殺した俺の事が、憎いんじゃないのか、本当は嫌いなんじゃないのか、もしノワがアリサの仇をとりたいっていうなら、俺が許す、いつでも俺の背後を狙っていいぞ」


 ノワがアリサの代わりを求めているのならば、それを果たす義務が俺にはあるのかもしれない。

 だから俺はノワがアリサの代替品として俺を見る事を認める、そんな自分に対する侮辱的で冒涜的な執着でも構わない。

 結局、俺は自分の命だってそこまで執着していないから、俺が認めた人間にならば殺される事もまた一興、程度には自分の人生を軽く見ていた。


 だがこんな俺の内面なんて天才以外の存在には理解出来ないものだろうから、ノワは不可解そうに俺に聞き返した。


「・・・それなんだけど、なんで団長は・・・マリヲさんは、リサちゃんを殺したの、リサちゃんはあんなに、マリヲさんの事が好きだったのに・・・」


 以前俺は三人に身の上話をした訳だが、その時はアリサの殺害については家の窓から勢いよく突き飛ばしたとしか言っていない。

 その時の記憶は俺自身も曖昧であり、アリサがどのように死んだのかは覚えていないが、あの瞬間の状況と感触だけは今も脳に鮮明にこびり付いていた。


「・・・そんなの簡単だ、俺はアリサの事が大嫌いだったからだ、親のいいつけで「妹には優しくしろ」と教わったから俺は自分を犠牲にしてアリサに尽くしていた、友達のいないアリサの遊び相手になり、ゲームではいつも接待し、持っていたおもちゃや人間関係の全てをアリサに捧げて、アリサの作る薬物や発明品の実験台になってな、そして・・・未完成の『天才製造機』の実験の後遺症で俺は大怪我を負ったんだ、その時にはもうアリサへの肉親の情なんて、欠片も残っていなかった、だって自己犠牲を肯定出来るほど俺は自分の価値を毀損(きそん)していなかったからだ、そしてアリサは俺の初恋のお姉さんをナイフで突き刺して重傷を負わせた、そこで俺はアリサを危険な存在だと見切りをつけて


 ─────排除する事にしたんだ」


 今思い返しても、アリサを好きになれる要素なんて一つも無い。

 俺とアリサの人生を最初からやり直して、一からアリサを構成する思想を再構築する以外に更生の余地は無いだろうと思えるくらいに、アリサは人間としての道徳心を欠如してしまったと、俺は思っている。

 だから俺が、俺の身内から大罪人を出さない為にアリサを排除した事は、今でも当然の帰結で自然な反応だったとそう思っているのだ。


 家族でも愛せない人間がいる。


 それは俺という人間を構成する思想に於いて最も根源的な要素であり、それがこびりついている以上、俺には家族と他人の境界線なんて無い。

 その上で俺は親からも裏切りを受けて人間不信を発症したのだ、だから俺の価値観の中には、人間とは損得でしか測れない存在でしか無かった。


 きっと、この告白している俺はとてつもなく冷たい表情をしているのだろう、こんな告白を聞かされて俺を好きになる人間なんている訳無いと知りつつ、俺はノワに再び問いかけた。


「・・・結局俺は、好き嫌いじゃなくて損得でしか人間を見れない欠陥品の人間って事なんだ、なぁ、ノワ、お前こんな俺でも、こんなイカれてる俺でも変わらずに好きって言えるのかよ、好き嫌いで人と付き合うっていうのは、それくらいに危うくてあやふやな価値観なんだよ、だから好き嫌いなんて無視しても構わない、そうだろう?」


 俺はきっと氷のように冷たい眼差しを向けているだろう。

 冷徹で陰険で酷薄な、血も涙もないような鉄仮面で、年下の少女に脅迫するように是非を問いているのだろう。

 こんな事が出来てしまう俺はどうしようも無いくらいアリサの同族であり、アリサを批判する資格の無い人でなしだ。


 いや、たった一人でも友人がいる分だけ、アリサの方が何倍もマシな人格者と言えるのかもしれない。

 本当は家族を見限った俺の方が何倍も救い難くて手遅れな非人間なのかもしれない。

 でも俺は、そんな俺である事に対して何一つ疑問を持っていない。

 だからモモの時と同じように非情で冷酷な決断を遂行する事が出来る。

 それは俺にとってはただの〝処世術〟であり、生き残る為に必要な資質なのだから、誰に批判されたとしても、自分だけは理解し、肯定するべきものなのだと受け入れていた。

 だから俺は好きとか嫌いみたいな感情では無く、どうしようもなく破綻した血も涙もない理屈で、ノワに是非を問いかけた。


 嫌いなら嫌いでいい、いつでも俺の背後を刺していいから、利害が一致している間だけは側にいて欲しい、それが俺の結論だった。


 こんな結論に達した俺をノワは軽蔑するだろうか、人でなしと思って距離を取るだろうか、でもどちらにせよ、この結論の上ではノワは利害の上で俺の味方だ。

 俺がデスゲームの中で知らない場所で無様に死ぬよりも、一蓮托生して生殺与奪を握った方がノワにとっての利害は得になるから。


 そんな、あらゆる感情を排除したような、最低で無慈悲な着地点だった。


 しかしノワは、そんな俺の発言に対して──────微笑んだのだ。





「・・・何がおかしいんだ?、普通なら軽蔑して、呆れるような場面じゃないのか?」


 不可解な表情だった。


 破綻した人間の破綻した論理に対して、ノワは何か腑に落ちたように嬉しそうな表情で、包み込むように優しく微笑んでいたのだから。


「・・・ああ、きっと、普通なら、団長・・・マリヲさんの事を、意味不明だとか、何言ってるんだこの人って、思うんだと、オレ・・・私も思います、でも、私は、黒馬羽乃は霧雨逢離裂を知っているから、そんなマリヲさんの言葉にも、リサちゃんのお兄ちゃんの言葉なんだって受け止められて、だからそんなマリヲさんだから────好きなんだって、そう思ったんです」


「は・・・、なんで、だよ、俺は確かにアリサと似ているかもしれないが、でも、だからってアリサを殺した俺を許す理由にはならないだろ、お前は俺を憎むべきだし、殺す理由と権利を持っておくべきなんだよ、そんな俺を好きって・・・おかしいだろ!」


 俺とアリサが通底している事、それは俺がアリサを理解しようとする中で自然と周囲から逸脱した大人の思想に染まったせいだから自覚はあるが、それでノワが俺を好きになるのは、モモが俺を好きになる以上に不可解な事だった。


 だがノワは、初めて見せるような照れてはにかんだ表情で、俺に微笑んだのだ。


「・・・確かに、マリヲさんはどうしようも無くてダメ人です、きっと世界中を敵に回さないと生きていけないような、そんな危険な思想に染まっている、誰からも理解されなくて、誰からも愛されない、そんなかわいそうな人なんです」


「・・・唐突に悪口言うなよ、その通りだけど、事実だからってなんでも言っていい訳じゃないからな」


 笑顔でとんでもない暴言を吐いてきたノワに俺は面食らいつつ、何がそんなにおかしいのかと追求する。

 終始真顔の俺に対してノワは、まるでモモのように穏やかで、優しい笑みを浮かべて───────こんな俺を受け入れてくれた。


「でも、だからこそ、誰かが救わないといけない、誰にも救って貰えないなんてかわいそうだから、だから、私が救います。・・・きっと、リサちゃんが救われなかったのは、私が無力で、救う側じゃなくて救われる側で、リサちゃんの心の中に私がいなかったから、リサちゃんの本当のお友達になれなかったから、私がリサちゃんと学校以外でも一緒にいられるお友達だったら、マリヲさんがリサちゃんを嫌う必要も無かった筈だから、だから、私の責任として、使命として、生まれてきた意味として、マリヲさんを私が救い、そしてリサちゃんの事も、私が救います」


「・・・俺が救われる側?、なんでだよ、俺は年下の女子に救われるほど落ちぶれた人間じゃないし、救って欲しいとも思ってない、お前は一体、俺のどこに同情してるんだよ」


「・・・マリヲさん、マリヲさんって、自分が生きてる理由とか、なんだと思いますか」


「は・・・、なんだよ急に、哲学か? でも俺の結論は一つだ、この命はアリサを殺して生きてるものだから、だからアリサへの贖罪だ、俺はアリサを殺した事を悪だとは思っていないが、命を頂いたなら頂いた分だけ生きる義務はあると思っている、それだけの理屈だ」


「そうですか・・・、なら、私にはきっと、マリヲさんを救う義務がある、だって、アリサちゃんを追い詰めたのは─────私、ですから。今もマリヲさんがアリサちゃんに囚われて生きているのだとしたら私は、マリヲさんを救う義務がある、という()()です」


「ノワがアリサを追い込んだ・・・?、ちょっと待て、一体どういう事なんだよ」


 アリサが俺の初恋のお姉さんを刺したのは、お姉さんに嫉妬して俺を殺そうとしたからだ、そこに第三者の介入が入り込む余地があったとは思えないが、しかしアリサの友達を名乗るなら無関係とも思えず、俺は聞き返した。


 俺の質問にノワは昔話を語るように、ゆっくりと語った。


「リサちゃんが亡くなる少し前、あの時の私は、唯一の味方だった兄を無くして、学校に行ってもいつも俯いてリサちゃんとも殆ど口を聞かなくなるくらい、失意のどん底にいました、見兼ねたリサちゃんは私に色々と話しかけてくれたのですが、その時に私は、つい、言ってしまったんです──────「私のお兄ちゃんはもういないから、だからもうやめて」と、いつも私はリサちゃんとお互いのお兄ちゃんの話しかしてなかったのに、つい、そんな一言を言って、リサちゃんのなけなしの善意を踏みにじってしまったんです。だからきっと、もしリサちゃんがマリヲさんを殺そうとしたのならば、その原因の一端は、私にあったのかもしれません」


「え・・・?、それ、一端じゃなくて端緒(たんしょ)じゃん元凶じゃん、友達の兄貴が死んだから自分の兄貴も殺してお揃いにしようとか、アリサなら普通にやりかねないレベルの単純な動機じゃん。一緒の病室になったお姉さんに嫉妬して俺を殺害するのも動機として少し弱いと今まで疑問に思っていたけど、唯一の大親友とお揃いにする為に自分の兄を殺すのはあのサイコパスなら普通にやりかね無いレベルの妥当な動機じゃん、つまり、お前が全ての元凶ってコトなのか・・・?」


 今まで無表情を装っていた俺はここで血の気が引いて動揺を隠せずに戦慄の表情を浮かべていた。

 ノワの兄は事故死だろうから、ノワがノンデリサイコパスのアリサについ心無い一言を言ったのも不可抗力だろう。

 でも、もしノワがいなければ俺はこんなに苦しまずに、アリサも俺も罪を犯さずに済んだかもしれないと思ったら、ノワに対して、今までのように部外者扱いは出来ないのだと、そう思った。


「・・・だからマリヲさん、私は、黒馬羽乃は、DDOのノワとして、マリヲさんとリサちゃんを救います、・・・ああきっと、これが私の生まれた意味で、私のこの世界での役割なんですね、英雄でも正義の味方でも無い、そんな私の役割、マリヲさんはこんな私の事、受け入れてくれますか?」


 その質問には迷う余地は無かった、俺の答えは最初から決まっているからだ。

「言っただろ、好きとか嫌いじゃない、ただ────〝必要〟なんだ、俺がこの世界を生き残る為に、先に進む為に、アリサに辿り着く為に、だからお前が俺たちを救ってくれるって言うならば、俺は喜んでお前に寄生する、お前は好きなだけ俺に寄生してくれていい、それだけだ」


「──────────っ」










「────────好きとか嫌いとかばっかみたい、人間の価値なんて、必要とされるかどうかそれだけなのに、生きてる価値の無いゴミ人間は好き嫌いで物事を判断して人間の本質を見ようとしない、だから敵味方の区別で人を判断する、ノワだけだよ、私を〝敵〟にしなかったの、だから利用してあげる、得になるようにね、その分ノワも私の事、利用していいから」








 それは私の記憶。


 私の人生の中で最も美しいと思えた瞬間の記憶だった。


 クラスで一番の美少女で天才だったリサちゃんは、度重なる横暴と、持たざる者からの多くの嫉妬から迫害を受けていた。


 でも私はそんなリサちゃんが隣の席になった時に、勇気を振り絞ってリサちゃんがいつも自慢するお兄ちゃんについて尋ねた。


 それだけのきっかけで、本当にそれだけの関係性だったけれど。


 でも、「私の事が好き?」と尋ねた私にそう答えたリサちゃんの微笑みは、今も私の心に焼き付いて消えないくらい鮮烈で、美しかったのだ。


 空っぽだった私の心にもたった一つだけ、自分が美しいと、大切だと思える物があった。


 彼女の事を、世界を敵に回しても守りたいと思った。


 それは二度と戻らない過去の記憶だと思っていたけれど、もしも、この世界を〝現実〟に書き換える事が出来るのならば、もう一度あの光景に近づけるのかもしれない。


 そんな期待だけで、空っぽだと思っていた心は自然と満たされていく。


 空っぽの私を今満たしているモノは、仮想世界の剣士でも、失った兄との絆でも、忘れられない親友でもなく、世界を敵に回してもいいという〝覚悟〟だった。


 その為なら死ねるという覚悟だけが、空っぽで虚無の心に、前に進む意味を与えてくれたのだ。


 私はこの瞬間に救われたのだと、そう思えたから、だから私は、改めて告げた。







「───────マリヲさん、私は、あなたの事が、好き、・・・マリヲさんにとっては好きとか嫌いじゃなくても、私にはマリヲさんしかいないってそう思えるくらいに、マリヲさんのその人間としての歪んだ在り方を愛してしまっている・・・好き嫌いなら絶対選ばれない私だからこそ、好き嫌いじゃなくても必要としてくれるマリヲさんに、どうしようもなく必要とされたい、だから、マリヲさんの事、リサちゃんと同じくらい・・・、大好きです」


 そう告白したノワの目は、何かが吹っ切れたように晴れ晴れとしていて、見た事がないような自信に溢れていて魅力的な表情で、俺は思わず圧倒された。


 息が止まるくらい、ノワのその告白に俺は胸を打たれたからだ。


「・・・じゃあ、お前の事を今から「一緒に地獄に落ちても心が痛まないリスト」にぶち込むけどいいか?、俺に好かれるっていうのはつまりこういう事だぞ、言っとくが俺は、今はまだ状況が安定してるから大人しくしてるだけで、状況次第ではどんなあくどい事もやる予定だ、それでも本当に、最後まで俺について来てくれるか」


 俺の不器用に差し出した手を、ノワは迷うこと無く両手で優しく包み込んだ。


「はい、マリヲさんが望むならなんでもします、それが──────私の使命ですから」


 ぎゅっと、包むように優しく、でも離さないくらい強く握り締められた手の感触に、俺は小さくない執着を覚えた。


 人から好かれる事になれていない俺は、そんなノワの好きに対してどう返せば分からなかったけれど、ただ、俺の中でノワの存在が無視出来ないくらい大きくなったとそんな実感を感じて、俺は両手で俺の右手を包むノワの手を、左手で撫でたのだ。


 きっとこの手が俺を遥かなる高みへと導いてくれる、そんな期待を込めて、俺はノワの手に触れ続けた。










「・・・それじゃあ早速で悪いが『天星』、受け取ってくれるよな?、ストレージの邪魔なんだ、俺に預けられても正直困る」


 ちなみにオウエモンの武器である『天星』も、今日武器屋で整備してもらい、鞘や鍔などもキリトのダークリパルサーをイメージした白緑のカラーリングでコーディネートした。

 無理矢理受け取らせる為に、ノワ専用武器としてのキリトコーデをした訳だが。


「うわだっさ、何この色、団長は色彩センス無いな」


 そんな俺の粋な計らいは一蹴されるのだった。


「は?、お前の為にダークリパルサー風味で(こしら)えたのにその反応無いだろ、確かに日本刀に白緑は微妙に合わないと俺も思ってたけど、でもこの方がキリトっぽくていいだろ」


「オレは黒緑のディバイネーションのほうが好きなんだよなぁ、ダークリパルサーも青薔薇の剣も折れるからな、まぁいいや、どうだ団長、似合うか?」


 そう言ってノワは『天星』と『天華』二振りの名刀を背中にマウントした。

 刀は本来腰に差すものとはいえ、二刀を背負うと見た目のシルエットに威圧感を感じる。


「ああ、刀の二刀流を背中につけるのは微妙にダサいけど、でもお前がやるとなんかしっくりくるし、強そうなオーラが出てるぜ」


 ボス戦を前にしてやる事はやった、これで万全の準備をしてボス戦に挑めると思い、俺はノワとのやり取りを振り返りつつも、二人で他愛の無い話をしながらベッドに入ったのである。


 そして波乱のキリ番ボス攻略戦が始まるのであった。

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