31.名匠の在り処
翌日、俺たちは意気揚々と名匠を倒した事を包帯の男とガキに報告しに行った。
名匠登場フラグが何かは分からないが、取り敢えずこのユニーククエストと思しきものはこれでクリアになるだろう、そう思って包帯の男に報告しに行った訳だが。
「あ、いたいた、おいガキ、包帯のおっさんはどこだよ、オウエモン倒したからその報告に来たんだが・・・」
人を探すように辺りを見回してるガキがいたので俺はそんな風に話しかけると、ガキは困った顔で答えた。
「師匠は・・・昨日から帰ってこない、いつも毎晩遅くまで酒を飲んで朝帰りしてたんだが、今日は帰って来なかったんだ・・・、なぁ兄ちゃん、昨日の夜、師匠を見なかったか?」
「・・・帰ってこない?、てかあのおっさん足が悪いとかじゃないのか?、身体に包帯巻いてたけど」
「師匠は幕府から命を狙われてる、だから変装の為に重傷者を演じていたんだ、だから実はどこも怪我なんてしていない」
「は?、ちょっと待て、じゃあお前の師匠がオウエモンって事にならないか?、このタイミングで帰ってこないとか、それ以外考えられないだろう、素性隠してたのも、あのおっさんがオウエモンだからなんじゃないのか」
安直な推理だが、倒すべき殺人鬼の正体が実は依頼者というのも、抑え切れなくなった殺人衝動を止めてもらうという目的の上ではよくある話だろう。
俺はこの時点で包帯の男の正体がオウエモンだったのだと九分九厘確信していたのだが。
「そんな!、師匠が人斬りなんてする筈が!!だって師匠は剣以外に興味なんて無いし、師匠がオウエモンだったら、自分で自分の家に火をつけた事になる、そんなのおかしいだろ!!」
と、ガキは声高に反発するが、そこでどこからとも無く嗄れた老夫が現れて、真実を語り聞かせてくれた。
「・・・あやつ、鹿金剣寿郎は取り憑かれておったのだ、名刀を打つという、ただそれだけの執念にな」
老人は昔話をするように、オウエモン、鹿金剣寿郎の物語を語った。
曰く、剣寿郎の父、鍛治郎は紛れもない名匠であり、この国最高の刀鍛冶としての名声を欲しいままにしていた。
しかし剣寿郎はそんな父から失敗作と言われ幼少期から苛烈な虐待を受けて育ち、父に深い憎しみを持っていた。
そして鍛治郎は鍛冶師人生最高の名刀である『天星』を造り上げたが、剣寿郎は名刀が剣の価値も分からない将軍家の伝家の宝刀として飾られるのを惜しみ、天星を奪って自ら鹿金家を討ち滅ぼした。
それは父への復讐と、父の打った最高の名刀である天星の名をこの世に知らしめて、この世に至高の名刀を生み出したという鍛冶師としての名誉を得るという目的の為だった。
しかし才能の無い剣寿郎にはどれだけ時を重ねても父を超える名刀を生み出す事は出来ず、そして没落して鹿金の名を失った剣寿郎の刀は価値を認められず、次第に剣寿郎は刀剣の価値を理解しないような道楽者達を逆恨みするようになった。
自分の打った刀に見向きもせずに、見てくれや小細工にばかり目を奪われる剣士の事を、自身の敵として深く憎むようになったのだ。
それがオウエモンの始まりであり、目的はこの世から自分が打った刀以外の刀を装備する人間を駆逐する事。
それと同時に、自分が造り上げた名刀を託すに相応しい剣士を自ら見出す事。
その目的の為に剣寿郎はオウエモンへと身を落として、人斬りをしていたのだという。
「・・・という事は、剣寿郎、オウエモンが名匠って事になるのか?、やっべ、もう倒しちゃったんだけど」
俺はまさかオウエモンにそんなオチがつくとは思わなかったので冷や汗をかくが。
老夫は静かに首を横に振り、重々しく告げた。
「否、名匠というのはこの都市の鍛冶師たちが作り上げた伝承、ただの迷信に過ぎないものだ、優れた剣士の元には優れた鍛冶師がつくという、武器商人をしていた時代に人斬りが蔓延り鍛冶師達が迫害されるのを防ぐ為に作り上げた、〝刀剣は使い手を選ぶ〟という皮肉を込めたただの迷信に過ぎないものだ」
「・・・つまり政治的に避難を逸らす為のプロパガンダって事か、ここで武器商人として迫害されていた過去と繋がるって訳ね・・・まぁこのオチに納得出来ない訳では無いが、なぁ爺さん、本当に名匠はいないのか?、散々苦労してあれこれ頑張った挙句に実は名匠はいませんでしたなんてオチは、俺としてはくたびれもうけ過ぎて受け入れられないんだが」
言ってしまえば大きな報酬で釣っておきながら、実は報酬は値打ちの無い微妙なものでした、とでも言うような詐欺クエストだ。
受け入れられない物でもないが、徒労感を考えれば受け入れ難いと言わざるを得ない。
しかし俺がそう言うと老夫はまるで待っていたと言わんばかりの調子で、俺にこう言ったのだ。
「ふっ、若いな小僧、この世に名匠がいるかどうかは、小僧自信が決める事だ、どんな名刀も蔵にしまわれればそれはただの無用の長物だし、どんな切れ味のいい刀を持った所で、それを振るう剣士の腕が鈍ければ藁を斬る事も叶わぬであろう、であれば、何が名匠や名刀かと決めるのは結局、その剣を握る剣士の心構えなのでは無いか」
「つまり優れた剣士が握ればどんな剣でも名剣になり得る、だからこの世に名匠がいるかどうは自分次第だと・・・やかましいわ!!」
ガツンと、俺はしたり顔で諭してきた老夫のハゲ頭を殴ってやる。
こっちは一億払った上で命懸けで死ぬ寸前まで追い詰められた挙句に徒労感に包まれているのだ、そんな気休め一つで納得出来る程温いお使いじゃなかったし、それ相応の報酬くらいくれてもいいという話なのである。
「このクソゲー、理不尽設定のクソバトルだけじゃ飽き足らず、シナリオまでクソなのかよっ、ああもう、俺は今後またユニーククエストらしきイベントに遭遇しても二度とやらないからな!!」
俺は誰に聞かせるでもなく自分に言い聞かせるように地団駄を踏みながらそう叫んで、早足でスラムの鍛冶場から立ち去ったのであった。




