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30.勝利の視覚

「来るー、きっと来るー、きっと来るー」


 俺は閑散とした静寂の夜道を歌を歌いながら一人で闊歩する。

 夜中に口笛を吹くと魔物が出るみたいな迷信があるが、ゲームでもそれが適用されるかは分からない、ただ、久々の命綱無しの危険行為に対して、俺は少しでも正気を錯覚させなければ恐怖で体が硬直してしまう為にこのような奇行に及んでいるのであった。


 そして時刻は丑寅、丑三つ時となろう時刻に、()()は音もなく現れたのであった。


 まるで弁慶橋のような橋の真ん中を堂々と渡っている俺は、人がいないのをいい事に呑気に歌を歌っている訳だが。


 ピリッと、肌を突き刺すような電磁波のようなプレッシャーが、俺の頬を撫でる。


 その感触に俺は直ちに警戒態勢へと、瞬時に意識を切り替えて、武器を抜刀して周囲を見渡した。


「どこだ?、どこにいる、気のせいか・・・?」


 しかし辺りには音も気配も無く、感じた違和感はただの錯覚かと胸を撫で下ろすが、突如として、目の前の虚空がゆらゆらと陽炎のように揺らめく。


 そして、最凶の人斬り、鏖殺(おうさつ)のオウエモンは神出鬼没として、目の前に顕現したのであった───。




「う、うわああああああああああああああああ、で、でたああああああああああああああああ…」




 俺は少しでも生存率を高める為に大声を上げようとするが、緊張した俺の喉は思ったように声を発せずにかすれさせてしまう。

 それがオウエモンの放つプレッシャーの影響なのか、それとも緊張し過ぎて呼吸を忘れたせいなのかは分からないが、とにかく今の自分が平静では無いという事だけは理解出来た。


 俺は重たい重りとなっていた大太刀を直ちに解除して投げ捨てて、そして魔剣『ダイハード・オブインジビブル』を抜刀する。


 ノワは俺の200歩後ろ、およそ100メートル後方から俺を尾行している、全力で駆けつけて10秒ほどのラグは生じる訳であり、その間に俺はオウエモンの一撃を受ける必要があるだろうと、俺は直ちにダイハードを抜刀する準備をしていたのであった。


 戦闘態勢に入った俺に対してオウエモンは語るでもなく、繰り返された定型文を言い放った。


「───────弱キ者ヨ、死ニ候へ」


「─────くっ!?」


 オウエモンは戦闘開始と同時に一瞬で距離を詰めて俺に斬り掛かる。


 その突撃の早さは一階層で戦った騎士団長、バスターにも匹敵するレベルの縮地であり、当然の如く俺には見極められるだけの技量なんて無かったが、間一髪、直感が冴え渡ったおかげでその首を狙った必殺の一撃を回避する。


 反撃なんて考えない、反撃すれば防御に手が回らなくなり、こちらの体勢不利が生まれると思ったからだ、故に俺はただ淡々と、オウエモンが繰り出す無慈悲にして必殺の一撃を、全身全霊で回避する事にのみ神経を集中させた。


「──────────(シッ)


「くううううう!!」


 ガンッ


 なんとかオウエモンの一撃を神がかった超反応で受け止めるものの、一手一手と追い詰められていく、もう30秒は戦っている事だろう、それなのにノワの救援が来ないのはおかしいと、俺は死を体感した焦りによって夢中で叫んだ。


「ノワーーーー!!、早く来てくれッーーーーー!!!」


 今度は思うように叫ぶ事が出来たが、しかし悲しい事にノワの返事は無かった。


 それどころか辺りは不気味なほどの無音であり静寂に包まれていて、この場には俺とオウエモンしか存在しない事を如実に物語っていた。


「・・・まさか、強制バトルフラグはタイマンになるように設定されているとかか?、封絶・・・いや固有結界か?、なんにせよ、この空間は俺とこいつの一騎打ちって事かよ?、ふざけんな!!、このクソゲーが!!、こんな強敵に一般プレイヤーの俺が対処出来るわけないだろうが!!、ああもうクソっ、こんな事なら囮なんて言わずにノワとレインに勝手にやらせとけば良かった、とんだ貧乏くじだぜ!!」


 と、言うものの、ノワとレインに大太刀を装備させた所で弱き者フラグが立ったかは不明だし、レベル1の自分が引き受けるのが最も効率的な検証になっただろう。

 だが、それでこんなリスクマッチを背負わされているのだとしたらどう考えても割に合わないし、恨み言の一つや二つ、いやそれ以上を言わずにはすまないという話だった。


 俺はそこから三分に渡ってオウエモンの猛攻を耐え凌いだ。

 間違いなく俺の人生における一番の修羅場だったが、今日までデスゲームの最前線で戦い抜いた俺の生存本能が、紙一重でオウエモンの一撃を上回ったのだ。


 しかし。


「はぁはぁはぁ、・・・くそっ、スタミナ切れかよ、逃げる事も出来ないし、もうほぼ手詰まりじゃねぇか」


 レベル1の俺は全力で戦えば三分でスタミナが消耗する程度のステータスしかない。

 こうなってしまえばオウエモンの一撃を受け止める事も、紙一重で回避する事も能わないだろう。

 力を発揮する為のスタミナが無いという事はつまり、実質俺には行動する権利を消失しているのに等しい。


 しかしそこでオウエモンは一息入れて、言葉を紡いだ。


「・・・貴様、弱キ者では無いナ」


「はぁはぁ、もしかして生存フラグが立ったか?、ああ、俺は弱き者じゃない、お前の敵じゃないんだ、だから頼む、見逃してくれ!!」


「・・・否、強キ者では無イ貴様ニ生きる道は無シ、我が剣の(にえ)とナる事を(ほまれ)に死ヌがよい、それが貴様の価値(なり)


 そこでオウエモンは体に闘気を漲らせてフルパワー、スーパーモードへと移行した。

 どうやら今までは小手調べだったらしい、そして恐らく、反撃しなかった俺はオウエモンが見逃すフラグを立てる事が出来なかったのだろう。

 理不尽な処刑がこれから行われる事を俺は察し、何かの奇跡が起きてこっから助かる可能性は無いかと一瞬だけ思考して、辞めた。


 目の前に立ち塞がる圧倒的な力を持った、理不尽の権化のような強敵。

 恐らく多くの弱小プレイヤーを狩り殺したであろうその剣は、鏖殺のオウエモンの名前に相応しい究極の剣技だ。

 そんなオウエモンと、DDO最高の剣士であるノワの決闘を、俺は見てみたかった、だから俺は危険を承知で囮になる事を引き受けた。


 だがそれももう、おしまいだ。


 多くの人間が熱望するような、そんな至高の舞台、決闘の機会は、ここで永久に消失する事になるだろう。


 だって。


 ──────────オウエモンは今ここで、()()()()()()()()()()()()()



 バチン。



 ここに来てから幾度となく繰り返された感覚。


 ゾーンの突入、覚醒状態への移行。


 俺はここで、昔サッカーをしていた時の記憶を思い出した。


 俯瞰視点とかイーグルアイみたいな設定は、漫画の中だけの物かと思うかもしれないが、過去にこの状態に入った時の俺は的確に周囲の状況を俯瞰して、そして必要な位置で必要なパスカットからキラーパスで逆転した経験があったのだ。


 あれは、無意識の感覚下の話であり、その時はたまたまうまくいっただけだったとその感覚を疑っていたが、意識的に発動出来るようになった今、その俯瞰という感覚がどういうものなのかを体感的に理解する。


「──────────(シッ)


 オウエモンの一撃、正面から見ればそれは範囲攻撃であり、縦横に回避する隙間の無い、受け止める以外に手立ての無い必殺の一撃だろう。


 だが俯瞰視点で見る俺は、それを屈むことによって紙一重ギリギリで回避する。

 僅かな判断の遅れで致命傷となる危険な回避方法だったが、しかしスタミナが枯渇している俺にはそれしか回避手段が無かった。


 そしてそれを俺は、ノータイムで一瞬の迷いもなくその危険な賭けを実行したのだ。


 それにより必殺を外したオウエモンには大きな隙が生まれ、俺はそこで的確にオウエモンの首を狙って一撃を加える。


 オウエモンはここで初めて残像を用いて俺から距離を取り、俺はそこで初めてオウエモンの猛攻から解放されて一息ついたのであった。


 その隙に俺は持っていた鬼人薬などの、ステータスを底上げするアイテムを使用し、オウエモンを討伐する準備を整える。


 つまり、俺の覚醒とは、最適化なのだ。


 勝つ為に必要な情報だけを取得し、それだけの為に思考する、最適解となる〝勝利〟への最適化。


 目の前の盤面だけに集中すれば、他の〝空間〟は不要となる為に、俺は周囲の情報を盤面という俯瞰で集めて、そこから敵の思考を先読みし、用意していた応手で対抗するという方程式。


 約束された勝利の(ヴィクトリー・)視覚(ヴィジョン)


 どっかのサッカー漫画みたいなオカルト地味た能力だが、俺の覚醒を言語化するとつまりそういう能力という事になるのだろう。

 勝つ事だけを思考し、他の全てを切り捨てるという感覚が思考にまで影響した結果、立体視野のように視覚が錯覚し、俯瞰で物事を見れるようになるという訳だ。

 つまり目の前の視覚すらも、聴覚や予測を交えた思考の中の情報の一つとして捉えているという事である。


 そしてその感覚は、五感から得られる情報が限定的になればなるほどに効果を発揮して、このVRゲームの中という、意識の中の世界において開花し、FPSがTPSになるような視界の自由度を俺に与えてくれるという訳である。


 現実ならば大気の流れや、雑音などの圧倒的な情報量によって、目の前の人間の行動だけを情報として感応する事は不可能だろう。

 しかしここは完全にオウエモンと俺だけの独立した世界として完成していた、であるが故に、俺は目を瞑っていてもオウエモンの行動を把握出来るレベルで、俺はオウエモンの間合いと呼吸を手に取るように感じていたのだ。


 一手、二手、三手と、今度は俺が一手進める毎にオウエモンを追い詰めていく。


 オウエモンの攻撃を完全に見切り、返す刃でオウエモンに一太刀見舞っていった、それもスタミナを回復させながら。


 しかし、どれだけオウエモンに致命打になる一撃を与えても、オウエモンがダメージを受けるような素振りを見せる事は無かった。


 俺の攻撃力が低過ぎてダメージが通らないのか、オウエモンのHPが尋常なく高いのかは分からないが、どれだけ致命打を与え続けてもオウエモンは弱った素振(そぶ)りを見せることは無かったのだ。



 ずきん。


「くっ、頭が、くそっ、これは脳への負担が尋常なく高いっぽいな、短期決戦向けか」


 俺は一瞬頭痛と立ちくらみでよろけつつ、ぼやけた視界からオウエモンを観察する。


 オウエモンは一瞬隙を見せた俺を狙い目だと判断してか、隙を見逃さずに目ざとく突進してくる。


 回避するのは簡単だが、このまま斬り合いを続けるのもジリ貧になるだろう、故に俺は、最後の最後まで隠しておきたかった切り札の奥の手を使う事を決意する。


 俺は初めて、オウエモンの一撃に対して真っ向から、力と力の勝負でダイハード・オブインジビブルを叩きつけた。


 筋力ステではかなりの差があったが、鬼人薬その他のドーピングの効果と、俺が的確にオウエモンの刀の根元を狙って打ち付けたおかげで、俺は通常なら吹っ飛ばされる所をなんとか踏みとどまる。


 そして、それと同時に虎の子のお守り、1000万で買った俺のダイハード・オブインジビブルは折られて、そこで『一分間無敵状態が付与されます』とメッセージが表示された。


 そこで俺は手早くコンソールを操作して、ストレージからある物を取り出して、オウエモンに密着する。





「うおおおおおおおおおお!!、お前なんか、嫌いだああああああああああああああ!!だああああああああ!!だああああああああああああああああ!!!」






 究極奥義、自爆。


 俺はダイハード・オブインジビブルとの最凶のシナジーを生み出すべく、無敵状態時に使う為の爆薬や火炎瓶、魔法(エレメント)爆弾(ボール)などのアイテムをしこたま買い込んでいて、そしてそれを今一気にここで解放したのである。


 爆薬の威力が100、電撃魔法のように防御貫通しなければスライム相手におよそ50くらいの威力だが、俺はそれをストレージに持てるだけ買い込んでいた。

 その威力は数値換算してざっと5千、防御力による減衰を考えても、2千は最低でも入っているだろう。


 プレイヤーが相手ならば、確実に10回は殺せるほどのオーバーキルな破壊力である。


 これが、どんだけ強い奴でも対処出来ない、そんな俺の奥の手という訳だ。


 俺はそれを一瞬のうちに発動させて、オウエモンに回避の間もなく浴びせたのである。



 大爆発。


 俺はとてつもない衝撃によって空高く吹き飛ばされるが、無敵状態のおかげで痛覚は無く、ただ吹き飛ばされただけだ。


 通常なら失神するレベルの甚大な爆発音をほぼゼロ距離で浴びた訳ではあるが、この電子の肉体には鼓膜が存在しないのと、キンダムとの決闘で地獄の苦しみを受けた経験からか、身構えていれば頭が割れるレベルの爆音すらも、俺は耐える事が出来た。


 一瞬だけ意識を持っていかれるが、俺はキーンとした頭痛を堪えつつ浮遊感に包まれながら周囲を観察する。


 そして同時にオウエモンもまた空中に舞っているのを確認し、俺の切り札がちゃんと命中した事を確認した。


 そして俺とオウエモンは同時に地面に落下して、俺は二度三度と地面に弾き返されるものの無傷で生還し。


 ──────────オウエモンは、全身が粉々になるレベルで地面に叩きつけられた後に、刀一つを残して無惨に消滅したのであった。




「・・・うっ、おぇっ、はぁはぁ、気持ち悪い」


 俺はオウエモンの刀を回収し、これでユニーククエストの任務クリアかと思って宿に帰ろうとするものの、そこで頭痛の限界が来て思わず倒れ込んだ。


 そしてそこに見知った顔をした二人が駆け寄って来る。


「大丈夫か団長、まさか()()を本当に使うなんて、・・・本当にレコンみたいで草」


「いやぁ、見応えあったよ、まさかキリリンが一人で討伐するなんて、驚き半分感心半分、流石キリリン、見事に予想を裏切ってくれたね、見直したよ」


 どうやら二人は遠目から俺を観察していたらしく、そんな感想を告げられるが。


「・・・はぁはぁ、てかレイン、なんでお前がここに?、用事があるんじゃ、無かったのか・・・?」


「ボクは用事を終えてここに来たらちょうどノワリンが困ってた様子だったからね、助けるついでにキリリンの勇姿を観戦しに来ただけだよ」


「・・・?、俺の尾行してた訳じゃないのか?、まぁいいや、取り敢えずノワ、これ、オウエモンの剣の『天星』、どうみてもお前の『天華』とセット効果だしお前のもんだろ」


 天星(てんじょう)天華(てんげ)、実にオシャレなネーミングだが、これをセットで使う事を考えれば、二刀流のノワの為に存在しているような武器だった。

 俺たちの目的はオウエモンを倒して神匠に会って名剣を得る事だったが、天星天華が揃うならば、目的は達成したに等しい話でもある。


 そう言って俺はノワに『天星』を渡そうとするが、ノワは受け取ろうとしなかった。


「・・・いや、それは団長が預かっててくれ、団長がオウエモンを倒したんだ、俺にはそれを受け取る資格が無い」


「・・・理屈は分からんでもないが、そんな事言っても俺の筋力じゃ装備出来ないし、セット効果の『黒龍の加護・陰陽』を発動させるには『天星』と『天華』揃ってる必要がある訳だし、俺が持ってても本当に宝の持ち腐れなんだが…」


 そもそも俺は二刀流キャラでも無ければ聖剣だって持っているし、俺が持っててもしょうがない事甚だしい。


 しかしそれでもノワは頑として首を横に振る、何か事情があるっぽいが、効率厨を自称するならそんな変なプライドとか拘りは捨てて欲しい所だが、厨二真っ盛りのノワに下手な説得が通用する訳もなく、『天星』は俺が預かる事になったのであった。

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