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21.失敗作

 一億を渡した次の日、俺とノワは再びスラムの鍛冶場に訪れた。


 そして包帯の男は無事にドラゴンの竜玉を手に入れたようであり、禍々しい光を放つ玉を霊的な布で包んで持参していた。


 そしてそこで俺はガキにある事実を告げられた。


「これは将軍家の家宝として秘蔵された由緒正しき黒龍の竜玉だ、元々は師匠が持っていたものだったが家が没落した時に奪われたものだ、それを昨晩、大泥棒に頼んで盗み出して貰ったが、いずれは幕府にもバレて俺たちは裁かれるだろう、だからそうなる前にオウエモンを倒し、そして幕府の不正を暴いてくれ、じゃないと俺たちはみんな罪人として殺されてしまう」


 なんかいかにもRPGらしいいわく付きの逸品だったが、それだけオウエモンが特殊なユニーククエストという事だろう。

 オウエモンに〝オチ〟がつくのかは分からないが、これがもしRPGならば、かなり重要度の高そうなシナリオの雰囲気がぷんぷんしているのだから。


 そんなガキの説明にノワは主人公っぽく威勢よく頷いた。


「任せろ、俺が必ず、オウエモンを倒してこの世界を救ってみせる!」


「頼んだぞ、約束だからな!!」


 そう言ってガキはノワに小指を差し出して、ノワはガキと指切りをして約束した。


 それと同時に包帯の男は鍛冶に取り掛かった。

 相変わらず鮮烈で澄み切った金槌の音を響かせて、男は全身全霊、一心不乱に鉄を打ち続けた。


 鉄刀であればほんの数秒で出来上がるような男の練度だったが、流石に竜玉をエンチャントした魔剣ともなると時間がかかるようであり、男はそこから数時間に渡って金槌を振り続けた。


 俺は2時間が過ぎた頃には長くなりそうだなと思って昼寝したが、ノワは何が面白いのかそんな様子をずっと立ったまま見つめていた。

 俺はそんな真剣なノワの様子を見て、話しかけずに黙って横になったのであった。










「くかぁ〜・・・ぽへぇ、ん、今何時だ・・・」


 よだれを拭いながら目を覚ました俺は辺りを見渡す。

 こんなカンカンと騒音だらけの場所で眠れるのも我ながら図太いと思うが、昨晩も宴の後に人斬り狩りをして寝不足気味だったのでお疲れだったのだ。

 そして俺は外を確認して日が暮れている事から19時過ぎだと理解し、そして未だに鍛治が続けられている事を確認して、俺は未だに立ったまま観察を続けているノワに言ってやった。


「よく飽きずに見てられるな、退屈じゃないか?、もし眠いなら今度は俺が見張りするから、お前も昼寝していいぞ」


 俺は親切からそう言った訳だが、ノワはよほど真剣なのか、鍛治から視線を逸らさずに答えた。


「・・・多分、やっている事はリズムゲーなんだと思う、タイミングよく力加減を合わせて金槌を振るう、そのタイミングと力加減がジャストだと綺麗な音が出るんだ、なぁ団長、信じられるか、もう何時間もああやって金槌を振るっているのに、あのおっさんは一度もミスをしていない、ノーミスで刀を打ってるんだ、だったらこちらも、その偉業を見逃したら失礼だろう」


 音ゲー、まぁゲームの中のシステムなのだから、普通に刀を叩いて剣を作るのでは無く、何らかのゲームシステムのアシストはあるんだろうが、それを数時間に渡って続けるというのは、普通の人間には難しい行為だろう。


 だからノワが包帯の男に敬意を表したくなる気持ちも分かるし、同時に、魔剣の制作に何時間もかかるのであれば、それはNPC以外が行うのはかなりの重労働になるとも思った。


 俺はあらためて鍛冶場にいる人間を一人一人観察して、それで包帯の男がどれだけ飛び抜けた存在なのかも理解する。


 そしてあらためてノワに問いかけた。


「なぁ、じゃあやっぱり、あのオッサンが名匠って事なのか?、他に候補もいない訳だし」


「さぁ、それは剣が出来上がってみないと分からないんじゃないか、でも、NPCの中でかなりの上位にいるのは間違いないな」


「それもそうか」


 そして俺は手持ち無沙汰になったのでアイテムの確認や、他のギルドのマスターに適当に情報交換のメッセージを送ったり、モモに「今何してる?」的な他愛の無い雑談のメッセージを送ったりして暇つぶしをしていると、そこから更に体感2時間、合計10時間に及ぶ長丁場の後に、包帯の男は刀を打ち終えたのであった。







「・・・これは、失敗作だ」


 男は開口一番そう言って刀を床に叩きつけた。


 男の手は震えており、長時間に及ぶ重労働で手が痺れているのだろう、持っていた金槌を手からすり落とした。


 俺は何がダメだったのだろうと、まずノワに質問した。


「ノーミスクリア出来なかったのか?」


「・・・いや、聞いてた感じ、ミスは無かったと思う、刀だって・・・、今まで見たどの魔剣よりも重くて、確かな手応えを感じる、・・・でも」


 ノワは出来上がった刀を拾ってステータスを表示させる。


 そこにはこう書かれていた。


 『失敗作の名刀』

 攻撃力100 重さ500 切れ味S 耐久性B


「失敗作なのに名刀なのか、なんかちぐはぐだな、でも、真の名刀と言うにはちょっと物足りない感じなんだろうな」


 そこら辺の魔剣は攻撃力50くらいで特殊能力がついて値段が500万そこいらと考えると、攻撃力100は魅力的だが、この刀に一億の値打ちがあるとは到底言えなかった。


 一般プレイヤーのHPが50そこいらと考えれば、防御力やバフを無視すれば確殺出来る武器だが、重さ500というのが曲者で、筋力が足りなければ装備不可、ソードスキル使用不可、防具使用不可などのデメリットがつく訳で、レベル10以上で筋力全振りのノワでも、これ一本装備すれば二刀流がキツくなるレベルの要求ステータスなのである。


 そもそも魔剣が普通の鍛冶師が100本に1本作り上げる奇跡の代物なのだから、仮に名匠であっても魔剣の性質を備えた名刀を作り上げるのは確実では無いとは思っていたが、結局はネトゲあるあるの確率運ゲーという事なのだろうか。


 しかし普通のネトゲなら重課金エンチャントガチャは必要な集金システムだが、このデスゲームにおいて重課金エンチャントガチャを実装するものなのだろうか。


 ・・・いや、有り得るものかもしれない、このゲームはなんやかんやお金の重要度が高い、その上で廃人プレイによるレベリングを否定している、だからこそ金を稼げる人間が強くなるというのは、このゲームのデザインとして妥当に思えた。


「・・・って事はエンチャントガチャが成功するまで1億のため直しか、トホホ」


 なんて思っていたら、今度はノワが拾った刀を炉に漬け込んで、再び金槌で打ち始めた。


 カァ──────────ン。


 その動作はシステムのアシストなのか、包帯の男のトレースが出来ているからなのか、包帯の男と全く同じ音を響かせて、初回にして既に卓越し洗練されたものとして完成されていた。


「おいおい、今度はノワが長丁場になるのかよ、累計20時間も作業継続とか付き合ってられねーよ」


 ・・・と、そう思うのだが、金槌を振るっているノワがあまりにも楽しそうだったので、俺は徹夜でモモと文通しながら結局徹夜に付き合ったのであった。

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