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9.鏖殺のオウエモン

「おい、大丈夫か!?」


 俺たちが駆けつけた所では、一人の男が剣客NPCに斬られて殺害され、そしてもう一人の男が尻もちをついて倒れていた。


 そしてNPCは倒れている男に無慈悲に刃を振り下ろす。


「──────────(シッ)


「危ない!!」


 ガキン!!


 俺が叫ぶより先にノワが動き出して、NPCの刃を受け止める。


 NPCはどうやら今日戦ってきた中でもかなりの手練で高レベルのようであり、握っている刀は妖しく煌めいて、不意打ちをしたノワの一撃も難なく回避、残像を使って即座に距離を取った。


 獲物を警戒しているのだろう、普通はこんな敵に対して恐れを見せるようなNPCは稀であり、やつらはただ決闘の流儀に則って己の剣術を披露する事のみを目的に戦っているものだが、そのNPCは確かな知性と警戒心を併せ持っている事が伺えた。


 こいつは強い、俺はそう思ってノワとNPCを見守る。


 そしてそこからノワとNPCは、数時間にも及ぶ激闘を繰り広げる事になるのであった。


「片手剣スキル、《登り炎天》!!」


「一刀流スキル、《天翔龍閃》!!」


 ノワは二刀流では無いものの、ソードスキルを解禁してほぼ全力を出すが、NPCも同様にソードスキルを使用して対抗し、ノワの動きに合わせて来た。


 二人の実力はほぼ拮抗しているようであり、ほぼ最強剣士であるノワと対等に戦えるNPCなど、ほぼ最強と言えるレベルの猛者だろう。


 ここに来て今日の最高潮と言える戦いに俺は、息を呑んでその激闘を見逃さないようにと刮目して目に焼き付けたのだ。


 ………。





 しかし期待していた劇的な決着は、思わぬ形でついてしまう。



 バキン



「あっ・・・」


 ノワの剣が、激しい必殺技の応酬に耐えきれずに折れた。

 それは11階層で買った市販品の鋼鉄の片手剣。

 この至高の決闘を耐えるには荷が重すぎた、というのも仕方無い話だろう。


 そして獲物を失い丸腰になったノワに、NPCは言い放った。


「我が名は煉獄鏖右衛門(オウエモン)、強き者ヨ、この勝負、預からせて貰ウ、再び見えよウ、次は、真の名剣名刀を携えテ相見える事を願ワン」


 オウエモンはそう言い残して陽炎のように幽かに揺らめいて消えた。


 俺はそれを見届けた後に倒れている男に声をかけた。


「大丈夫か・・・ってお前はゼンイツ!?、じゃあもしかして今殺られたのは・・・」


 倒れていたのはゼンイツ、昨日までパーティーを組んでいたペインキラーの団員だ。


 ゼンイツもまた持っていた刀を折られており、怯えた様子だった。


 そして俺は怯えたゼンイツが正気に戻るのを待ってから、話を聞いたのであった。


「・・・はい、殺されたのはコリンさんです、僕は深夜に出現する人斬りの話を聞いて、それでたまたま今夜出会ったコリンさんと一緒に人斬り狩りをしようって事になったんです、最初は二人がかりで難無く倒せてたんですけど、もう帰ろうって所でさっきの奴が急に現れて、それでコリンさんは・・・うぅ・・・」


「・・・確かにさっきのやつ、オウエモンは異次元の強さだったが・・・なぁコリン、オウエモンについて、何か知ってる事はあるか?、出会った時のセリフとかでもいい、何か手掛かりは無いか?」


 俺はコリンの死に責任を感じてぐずっているゼンイツに構わずに訊ねる。

 それにゼンイツは鼻をすすりながら答えた。


「・・・分かりません、オウエモンなんて名前にも心当たりは無いですし急に現れたとしか・・・、ああでも、一個だけ気になる事を言ってました」


 ゼンイツはハッとしたようにそう言って、俺は聞き返した。


「なんだそれは?」


「えーっと、確か、弱き者よ、死に候え、だったかな?、多分、弱い奴を狙ってたんだと思います、僕は戦おうとしたんですけど、コリンさんは一目でヤバさに気付いて逃げようとして、そんなコリンさんを真っ先に狙いに行ってたんで」


「弱き者よ、死に候え、か、ゲームのキャッチコピーとしてはかなり剣呑なワードだけど、このゲームが弱者に優しくない設計だとしたら、それもまぁ納得か・・・」


 俺はそう言ってコリンの死体から生まれた『生命の種』、このゲームにおける唯一のレベルアップ手段であるそれを拾うと、ゼンイツに手渡した。


「こいつはお前が使え、コリンの最期を看取ったのはお前だしな、お前が使うならコリンも少しは浮かばれるだろう」


「え、でも、僕なんかが使っても、だって僕、弱いですし・・・」


「誰だって最初は弱いさ、でも弱い事は罪じゃない、弱い事に甘える事は罪だが、弱いのは人間なら当たり前の事だ、真面目に義務教育受けてる奴がゲームが得意じゃないのは当たり前だし、人殺しの才能なんて普通は持ってても得しないからな、でもこのゲームはそんな殺人鬼と戦うゲームなんだから、だったら殺るしかないし、それはお前にとって必要な物だろう、それともお前はこれに懲りて、もう二度と戦わずに一生引きこもりたいとか思ったか」


「・・・いえ、それは、確かに怖かったですけど、同時にもっと強くなりたいって、死んでしまったコリンさんの仇を取りたいって、そう思いました」


 ゼンイツの目は死んでいなかった、あれだけ死の危険に瀕していても刀を手放さなかったゼンイツの心は、少なくともそこらへんのプレイヤーよりは勇敢で強いのは、パーティーを組んでいた俺には理解出来たからだ。


「だったらお前にとってそれは必要なものだし、お前が受け取らない理由も無いだろ、ま、その代わりと言っちゃなんだが、今後もしオウエモンについて情報を得る事があったら教えてくれ、ノワも久々に火がついちまったみたいだからな」


「分かり、ました・・・、あの、キリヲさん」


「なんだ?」


 今まで俯いていたゼンイツはそこで覚悟を決めたように前を向いた。


「僕、強くなります、今日助けて貰った恩を返せるくらいに、いつか、助けて貰った分を返せるくらいに・・・!」


 ゼンイツのやる気に燃える目を見て、俺はこいつは強くなるんだろうなと漠然とそう思いつつ、こいつが敵にならないように努めて優しく返答する。


「ま、俺は大した事はしてないからな、気負い過ぎるなよ」


 そう言って俺は背を向けて宿へと歩いていく。


 そんな珍しく気障っぽい態度を示した俺に、ノワが呆れたように言った。


「団長は本当に何もしてないだろ・・・、というか、一週間ずっと思ってたけど、あのゼンイツって子に対してだけ団長の態度柔らかすぎないか?、いつも言葉のナイフを振り回してる団長があのゼンイツと接する時だけは羽毛なみのフワフワ言葉ばっかでこの差別にドン引きするんだけど、もしかして団長ってホモなのか?」


「いや、差別されて当然の奴を差別するのは差別じゃないからな、じゃあお前、野良犬に敬語使ったり、気を遣って道を譲ったりするか?、しないだろう、それと同じでお客様は丁寧に、それ以下のゴミには冷たくするのは人間としての基本行動だろ、差別とかホモじゃなくてこれは人間として当たり前の対応ってだけだからな、俺に優しくされたかったら俺に優しくされて当然の人間になれって話なだけだ」


「・・・そういう言い回しはやっぱりリサちゃんのお兄ちゃんなんだな」


 ボソッとノワが何か皮肉を言ったようだが、どうせ悪口なので俺は聞き流した。

 最近は自分が4人の中で一番の異常者かもしれないという疑念も芽生え初めて来たので、この話題はやぶ蛇になりかねないので早急に話題を変える。


「それにしてもオウエモンか、殺人鬼探しに魔剣探しにオウエモン探し、これらが一直線で結ばれるくらい関連してたら楽だが、やることが増えるとめんどくさいな、あーあ、殺人鬼もここに混じっててくれればいいのに」


「・・・まぁ、オウエモンを倒す為に名剣が必要で、名剣を得る為にオウエモンを倒す必要があるとしたら最初にどっちを片付けるべきかって話だけど、だとして卵と鶏、どっちが先なんだろう、ね」


「どっちでもいいよそんなもん、だって両方無いと親子丼作れないからな、なら両方必要って事で結論出てるし」


 殺人鬼探しから名匠探しからオウエモン探し。


 謎解きゲームでも無いくせに捜し物がいっぱいな訳だが、つまるところ、人生とはいつまでも何かを探す宝探し、という事なのかもしれない。

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