8.人斬りの街
「──────────今宵の虎徹は血に飢えておる」
「──────────来い…」
短いやりとりの後に一人の人斬りと一人の剣士は刃を斬り結んだ。
深夜の閑散とした街に、澄みきった剣戟の残響が響き渡る。
一心不乱な刃は、ただ互いの命を刈り取る為だけに振るわれて、そこには名誉も栄光も無く、ただ剣士としての真価、すなわち〝力〟だけが素朴に存在していた。
「──────────美しい」
そんな月並みな感想しか出ないくらい、俺はその決闘に、純粋なむき出しの殺意だけを映した光景に、魅入られていたのだ。
それは俺には到底及びもつかないような至高の領域。
人生をそれを研ぎ澄ます事に費やした人間だけが辿り着ける、人でなしに成ったものだけが成し遂げられる、そんな究極の武闘。
人が自分には手が届かないものに強烈惹かれるのは、それが人のサガであるが故に、なのだろう。
俺はノワがNPCの剣客とそんな至高の戦いをするのを、ただ黙って観戦していたのである。
「・・・30体目、取り敢えずこれで今湧いてるらしき人斬りはだいたい狩り尽くしたかな?」
「ふぅ、色んなタイプの剣士がいたけどまだ歯ごたえのある相手には会えてないな、もう少し探索してみたい所だが」
「今日はこの辺でいいだろ、闇雲に探索して成果が出るとも思えないし、急ぐ理由も無いからな、夜頑張って昼の活動時間減らす方がマイナスだ」
「ま、団長がそういうなら今日はここまでにするよ、あーあ、ここでならもっと強いヤツとやれると思ったんだけどな」
「・・・他のプレイヤーはソードスキルや魔法を使ってNPC狩りしてるのに対して、お前はスキル無しの一刀流で強敵も倒してるんだもんなぁ、なぁノワ、なんでお前そんなに強いんだよ、まだ中学生だろ?、なんでそんなゲーム廃人みたいに強いんだよ」
はっきり言ってノワの強さはこのゲームの中でもかなり異常に際立った強さだ。
プロゲーマーや廃人より圧倒的に強いのだから、ただの中学生がそんな剣の極みに到達しているような強さは異常であり、何故強いのかという疑問は仲間としても思う所があった。
はっきり言って、実は人間じゃなくてこいつもAIじゃないのかみたいな疑いの目は、ノワの強さを目の当たりにする度に募らせていたのだ。
そんな俺の疑念にノワは当然のような調子ではっきりと答えた。
「実はオレ、VRMMO歴は4年で、リサちゃんが死んでからずっと不登校引きこもりでゲームやってたからな、DDO始める前はSAOのVRタイトルや剣が使える色んなVRMMOもやり込んでたし、まぁ剣一本で飯が食えるくらい剣術が優遇されてるゲームなんてDDOが初めてだったな、SAOVRもなんだかんだ初心者向けでもっさりした強力なソードスキルを連発する単調なゲームだったし、ここまでリアルな戦闘でスキル無しでも戦えるゲームはDDOが初めてだから、それで多分他の人より上手くいってるんだと思う」
「VRMMO歴4年って、おい、お前義務教育だろ、親は・・・まぁいいか、・・・確かスポーツでは9歳から12歳の間をゴールデンエイジと呼んでその間の修行が人生で最も大きな影響を与えるとか言われてて、韓国のプロゲーマー養成所でも注目されてるって話聞いたな、その10代初期からガッツリVRMMOに浸かってたら、その辺の最近VRMMO始めたプロゲーマーより上になるのは当然っちゃ当然か」
何事に於いても、幼児期や思春期の英才教育というのはその人間の人格や成長に大きな影響を与えるという訳だ。
だからゴールデンエイジの4年間ならば、プロゲーマーの10年に匹敵しても不思議では無い、という話だろう。
これは剣道の達人でゲーム廃人であるキリトにも引けを取らない背景だと俺は思った。
まぁ10歳から引きこもりゲーム廃人になったというのはあまりにも悲しくて救いが無いし、社会復帰も絶望的な感じだが、そんなノワだからこそこのDDOに呼ばれる理由があるし、そしてこのゲームにノリノリで参加しているという事なのだろう。
なんと言うか、納得したはいいものの、聞いて愉快な内容でも無かった感じだ。
なので俺は、無理やり話題を転換した。
「そう言えばここのNPCは報酬美味いって話だけど、30
体も狩ったならかなり貯めてんじゃないのか?、今日いくら稼いだんだよ」
「えーっと・・・、あ、すごい!、800万近く稼いでる、今までの貯金と合わせて1000万もある、これならAランクの魔剣も買えるかな?」
「・・・まぁ1000万でも大金ではあるが、最近の収入のインフレから考えても、2000万とか5000万でも不思議じゃないかな、なんだかんだ序盤で買える鋼の剣も長持ちしてる訳だし、Sランク魔剣の値打ちなら1億でも申し分無さそうだしな」
「うーん、となるとやっぱりどこに行っても金策になる訳か、至る所で金が必要で、金を得る為に競走が必要って言うのも優しくない設計だ」
「だな、ま、仮に1億必要だとしても、ここでのNPC狩りをしていれば割と直ぐに貯まるだろ、一先ずはこの調子で──────────」
「ぎぃえええええええええええええええええ」
と、そこで静寂を打ち破るような悲鳴がこだまする。
俺たちは何事かと声のした方へ駆けつけるのであった。




