23.革命のピロートーク
「全く、人に勝手するなとか目立つなとか色々言う割に、結局一番目立ってたのはキリリンじゃん、これでよく人の事を馬鹿とか変人とか言えたものだよね」
「あの場で割り込める度胸・・・、流石団長、男気の塊だった」
「ほんと、びっくりしましたよ、いきなり何も言わずに飛び出して、あんな事するなんて・・・」
俺は10階層から11階層に続くトンネルを歩いている途中、メンバーから囲まれて蹴られていた。
それだけの大立ち回りを俺が相談も無しに唐突に行ったのだから、この反応も当然だろう、俺も、あの場で暴走した自分に自分で驚いているくらいなのだから。
「でも、ま、これでちょっとは面白くなって来たよね、これでキリリンは連合軍の連中から命を狙われるようになる訳だし、連合軍も分裂して対立してる訳だし、今までみたいな横暴や独占も無くなって、バチバチにやり合うようになった訳だし」
「オレは団長が暗殺されないか心配、結局レベル1のままだし」
「本当ですよ、今回の戦闘で連合軍の人達はみんなレベル上がったのにキリヲさんだけレベル1とか、普通に結構ヤバい状況なのに、それなのにあんなことするなんて・・・」
周りが優しめの力で俺を蹴る中で、モモだけは本気めに俺を殴ってきた。
それだけ俺の身を案じてくれているのだろう、故に俺は何も言えなかった。
・・・いや、それでも切り出すなら今しかないと思い、俺は言ってやった。
「おいモモ、この『現実帰還水晶』、お前が使え」
そう言って俺はモモに水晶を手渡した。
「・・・え?、何言ってるんですかキリヲさん、それはむしろキリヲさんが使うべきでしょう、だって私は【聖女】である程度保護されてますけど、キリヲさんは命を狙われる立場なんですから」
「は?、俺がいなくなってお前が生きていける訳ないだろ、それに俺は、なんとしてでもゲームをクリアしないといけない理由があるんだよ、知ってるだろ、だからモモ、これはお前が使え、はっきり言うぞ、お前みたいな初心者がいると迷惑だ、俺の命が脅かされる、だから──────────〝失せろ〟!!」
失せろ、俺の中で〝死ね〟に等しい強い言葉だ、それを冷水のようにモモに浴びせた。
それを聞いたモモは逆上し叫んだ。
俺は立ち止まり、空気を読んでレインとノワが先を歩いてく。
「なっ、何言ってるんですか!、私は今は【聖女】ですし、レベルだってキリヲさんより上ですし、むしろキリヲさんの方がお荷物でしょうが!、迷惑だっていつもいつも無茶ぶりされてる私の方が迷惑してます!!」
「今日死にかけてたのはお前だろうが!、俺が守らなかったら、お前は間違いなく死んでいた、だから、お前は本当なら死んでいる人間なんだよ、だったら、俺の言う事を聞く義務があるんじゃないのか?、それともお前は、今日みたいにまた死にかけて、俺の命を危険に晒す迷惑かけてもいいって言うのか?、どっちでもいいさ、どの道お前がその水晶を使うにしても使わないにしても、お前をこのパーティーから〝追放〟する、当然だよな?、だってお前は俺に反抗的だし、俺に迷惑かけたんだからな、この水晶は追放するお前への餞別だ、好きに使え」
俺は出来るだけ冷淡に、心を殺して、モモに言った。
だってそれだけモモの事を、死なせたくないと、そう思ったからだ。
そんな俺の態度にモモは涙を流すが、だがどうせ水晶を使えばモモはここでの記憶を全て忘れる、ならば、ここでどのようにモモを傷つけても、それはモモの傷にはならないのだ。
俺は追い詰めるようにモモを誘導していく、テンペの演説を聞いた効果だろうか、言葉の持つ〝力〟を、俺は今までよりも強く実感して言葉を操っていた。
「お前は俺が善意でお前の世話を焼いたと思っているかもしれないが、俺に善意なんて存在しない、何故なら俺は生まれながらのサイコパスだからな、お前に利用価値があると思ったから、利用する為に近づいただけだ、レインも言っていただろう?、お前は優秀だって、俺も最初はお前には高い利用価値があると思っていた、だからお前を自分の隠れ蓑にする為に利用していただけだが、ま、その利用価値も、今回の潜入で使い果たしたがな、連合軍を分裂するという目的は既に達成したし、【聖女】になったお前は俺以上に悪人から狙われる存在になるだろう、だから邪魔なんだよ、お前は用済みだ、だからお前はもういらない」
俺の言葉に、モモは泣きながら黙って耐えていた。
俺は何も言い返さない事を不審に思いつつ、モモの心理をリタイアに追い詰めるように、容赦なく追い打ちをかける。
「ああそれと、お前が俺に恋心を抱いている事は、俺はとっくに気付いているぞ、当然だよな、だって俺は、お前が利用しやすくなるようにそういう風に接していた訳だからな、お前の心を開かせるように、わざと裏表が無いように間抜けな行動を取ってお前の心に取り入って、お前の素の面や本性を引き出していた訳だ、だが悪いな、俺は年下の女子には興味無いからな、だから好きになられても迷惑だし、ここいらでお別れするのがお互いにとっての幸せだろう」
「・・・・・・」
半分挑発のつもりで言った言葉だが、それにもモモは反論しなかった。
耳を塞いでいるのか、心を閉じているのか分からないが、だとしても俺は容赦せずに続けた。
「お前だって理解しているだろう?、自分がいない方がパーティーは上手く機能するって、戦闘要員二人と、外交もスパイも金策もこなせる超優秀な俺、対してお前の特技は〝歌〟だけだ、今回はたまたま役に立ったが、これがいつまで役に立つかは分からないし、今の時点でも大分お荷物だったよなぁ、だったらここで、潔く身を引く事が、〝みんなの為〟だって、いい子のお前なら分かるよな、それともお前は、自分の我儘で、俺や、他のみんなに迷惑かけてもいいっていうのか」
モモは俯いて拳を握りしめていた。
俺への怒りか憎しみか、分からないけれど、ただその悪意が大きければ大きい程、モモをこの世界から〝追放〟出来るだろう、だから俺は、手心なんて加えてやらない。
全身全霊、本気の本気で、モモを追い詰める事だけを考える。
「・・・なぁ、冷静に考えてみてくれよ、俺だってさぁ、なんの見返りも無しにお前みたいな初心者をキャリーするのは大変なんだよ、オルトを助けたのだってあいつが金持ちの医大生で見返りがありそうだったからだし、俺の立場からすれば、お前みたいな生意気なだけのクソガキ、助ける理由とか無いからな、仮にお前がリアルで何かしてくれるってなっても、別に俺イケメンだから女に困った事とか無いし、セフレだっていっぱい居るし、お前がセフレになっても別に嬉しく無いからな、だから、俺の為にも、みんなの為にも、お前はここで現実に帰ろう、な?」
「・・・うっ、はぁはぁ、うぅ・・・」
そこでモモは胸を抑えて苦しんだ。
このゲームの中の体には心臓は無いが、だが人間の習慣として、ストレスによる心の動きに心臓が作用したような錯覚を覚える事はあるのだ。
俺はモモにトドメをさそうとして、最後の言葉を言おうとした。
「モモ、俺はお前が──────────」
「────────────もう、いいです」
そこでモモは俯いた顔を上げて、俺と視線を合わせた。
その両目からは大粒の涙が今も流れていたが、瞳は一点の曇りもなく、俺を見つめていた。
「・・・分かって、くれたか?」
「・・・はい、分かりました、気づきました、痛いほど、こんなに苦しいほど、キリヲさんの事が
──────────好きだって」
「──────────え?」
俺はモモに飛びつかれる。
不意打ちを食らった俺は間抜けな声を漏らしながら押し倒された。
「───────好き!!、大好き!!、死ぬほど好きです!!、どれだけ酷い事言われても、どれだけ酷い事されても、それが全部愛情だと疑う事が出来ないくらい、あなたの事が大好きです!!、だからもう、ひとときも離れたくありません!!、ここでの記憶を失いたくもありません!!、死ぬまで一緒にいさせてください!!、大好きです!!」
「なっ・・・、なんでだよ、俺なんて、性格悪くて、口も悪くて、人付き合いも悪い、ド陰キャでコミュ障の、年下の女子相手に強気出るしか取り柄の無いクズみたいなゴミ人間なんだぞ!!!」
我ながらひどい自己分析だと思ったが、それが偽らざる俺の本心だった。
「分かってます!キリヲさんがバカでマヌケで人でなしの、最低で最悪のブ男だって分かってますから!!、でも、好きになったんだから仕方ないじゃないですか!!」
「訂正しろこのブス!!、俺はブ男じゃねーよ!!、ド陰キャだけど!!チー牛って言われないようにっ、コミュ障って言われないようにっ、色々涙ぐましい努力してんだよ!!、どうせ生まれ持った素材が良かっただけの性格ブスの分際で俺を馬鹿になァーーーっ!!、ちっ、ああもう、クソっ、モモっ!!、俺も、俺もお前が大好きだ!!お前に死んで欲しくない!!、一秒でも長く生きて欲しい!!、だから頼むっ、一生で一度のお願いだ、水晶を、使ってくれえええええええええええええええええ!!!!」
ぎゅうううううううううううううううううううううっと。
俺はモモが壊れそうなくらいに強く、限りなく強く抱き締めた。
モモはそれに応えるように俺よりも強い力で俺を抱き返した。
俺はそこで初めて、〝愛〟を知ったのかもしれない。
人を愛するというのがどういう感情なのかを、そこで感じたのかもしれない。
まだひと月程度の付き合いだったが、家族より近い距離で過ごしたモモの存在とは、それだけ俺の心を占領していたのである。
だから俺は、モモを失う事が怖くて怖くて仕方なかったし、失いたくなかったのだ。
「・・・キリヲさん、お顔、ぐしゃぐしゃですよ、泣くほど私の事、好きだったんですか」
「・・・っだって、しょうがないだろっ、俺は人間不信で、人を信じられなくてっ、でもお前はっ、初恋のお姉さんの面影があって、自然と、信じたくなってたんだからっ」
「じゃあ、私の事、最後まで信じてください、私は絶対、キリヲさんを裏切りません、一秒でも長くキリヲさんより長生きします、だからこれからも、キリヲさんのそばにいさせてください、〝なんでも言う事を聞く権利〟を、ここで使わせてください」
「っ・・・ちっ、それを使われたら仕方ないか、うっ、ぐすっ、仕方ないから信じてやるよ、今度お前が死にそうになった瞬間、俺が先に死にそうになるから、だから覚悟しとけよ」
俺がそう言うとモモは思い出したように試案顔をして言った。
「ええと、実はその事なんですが気になってる事があって・・・」
「・・・ん?、何かあったのか?」
「ええ、実はボスの攻撃を受ける前に私、何者かに背後から殴られて、それで攻撃を直接食らったんです・・・」
「・・・殴られた?、あそこにはカントンの率いる護衛部隊が守っていた筈だが、他にモンスターがいたのか?」
確かにボスの攻撃は強力だと思ったが、それでモモが一気に瀕死まで削られたのは不審に思っていたが。
「・・・どうでしょう、いえ、私の勘違いだといいのですが」
「・・・プレイヤーに襲われた可能性、か、否定するにも疑うにも、まだ情報不足ではあるが、だとしたら確かにこのままでは戻れないよな」
あの場では連合軍の人間がモモを襲う理由は無い、あるとすれば、リアルの関係者、という事になる訳だから。
「だから一応私にも、ここで〝やらないといけない事〟があるんです、だから、もう少しここにいさせてください、邪魔になったら今度は自分から身を引きますから」
「・・・分かったよ、悪かったな、酷い事言って、本当にごめん」
「いいですよ、だって、最初から一ミリも疑ってませんでしたから、だから、私が不甲斐ないせいでキリヲさんに酷い事言わせて、こちらこそすみません」
そう言ってモモは包み込むような優しさで、俺を受け止めてくれた。
その優しさに俺は、完膚無きまでにモモに絆されて、心を許してしまったのである。
「モモ・・・、うぅっ・・・」
この手に伝わる感触も、体温も、現実では無い。
でも現実に存在する何よりも、俺にとっては得がたくてかけがえのないものだと、思わずにはいられなかった。
その後俺たちはもう一度互いの絆を確かめ合うように抱き合ってから、トンネルを抜けたのであった。




