22.独裁デモクラシー
「交渉、何を交渉すると言うんだ、この男を生かす事が、君に何か得があるとでも?」
オルトの処刑を中断させた俺に、ここに集まった全ての人間が注目する。
目立つ事を避けていた俺がこんな場所に出てきたのは場違い極まりないが、俺は震える声で答えた。
「・・・実は俺は、今回はオルトさんの協力者でした、ビーター達の味方をしているように見せつつも、オルトさんが〝革命〟するのを手伝ってました、だって、その方が俺にとっては都合がいいから」
俺がそう言うと、オルトも含めて全員が驚いた様子だ。
それも当然だろう、この土壇場でオルトの協力者であると告白する利点は、普通は無いのだから。
でも俺は、この場でならそれが有効なカードになり得ると思って明かしたのである。
「君がオルトの協力者?、理屈は分かる、自分の団員を【聖女】にする為に、オルトから金を引き出す為に協力していただけだろう?、だがそれは俺からすればビーター側の君を味方に付ける事でビーター側の介入が無いと油断させる為の布石で、事実、君はオルトに俺の事を話さずに中立を貫いていたはずだ」
「ええ、だからこそ、俺にはこの場に於いて貴方に意見があります、俺が、オルトさんに貴方がビーター達と繋がっていた事を明かしていれば、今回の件だってそもそも未然に防がれるか、オルトさんは別の手段で〝革命〟を起こそうとしたでしょう、だから、今回のテンペさんの勝利の立役者は俺であり、俺にはテンペさんから報酬を貰う権利があると、俺は思います」
「・・・なるほど、それは確かに、筋の通った話だな、それで君は、この男を処刑する権利を得て、この男から得られる高レベルの『生命の種』を得ようという話か、・・・いいだろう、認める、確かに今回の俺の勝利は、君の中立が無ければなし得なかったものだ、【聖女】を生み出す対価も含めれば、いささか強欲な取引だと思うが、君たちが今回のボス戦でも〝中立〟で貢献してくれた事に対して、俺たちも報いるべきだろう、ならば、この男の『生命の種』は、君に譲ろう」
そう言ってテンペは、俺にオルトの首を落とすようにと促した。
俺はオルトの顔を見た。
死の恐怖を体感し、全てを諦め死を悟った顔をしていた。
・・・こいつは、人の為とかいいながら、最後に出た言葉は自分の保身の事しか頭に無かった。
周りから慕われているように見えて、土壇場では誰も味方する奴がいなかった。
どうしようも無い男だ、ここで脱落する事に、誰も疑問は抱かないだろう。
でも俺は
それでも
そんな奴だからこそ
そんなゴミみたいな男だからこそ
──────────救われるべきだと
そう思ったのだ。
「──────────え?」
「・・・何を!?」
俺は聖剣を振り下ろしてオルトを拘束する男たちの腕を切り落とし、オルトを解放してやる。
そして、俺は大声で叫んだ。
「オルトの助命に賛成するものは、挙手してくださあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!」
「な!?」
「えっ!?」
「ふーん」
「そう来たか!」
俺はそう言って思いっきり手を挙げた。
その意図を理解したモロエを筆頭とした『J0̸KERS』の面々、及び、トッポを含めた他のギルドの連中も俺の意図を理解したのか挙手をする。
そして、周りがオルトの助命に対して多数派になる雰囲気を感じた連合軍の人間達も、便乗するように挙手をした。
これにより、オルトは大多数の人間から助命を認められる事になった。
これは、オルトが有罪かどうかではなく、生かすか殺すかを問いかけたのがロジックだ、自分を〝善人〟と主張するならば、例え悪人であっても殺す事を安易に肯定したりはしない、それが冤罪を疑われる状況ならば尚更だ。
だから俺はその場の勢いだけで、オルトの無罪を勝ち取ったのである。
そんな俺に対して、初めてテンペは余裕の表情を崩して、焦った顔で俺に訊ねた。
「どういうつもりだ君は!、こんな、事をして、一体君になんの得がある、この男を生かして、一体君はどうすると言うんだ!!」
「テンペさん、あなたの方針に逆らうようで申し訳無い事なんですが、俺が思うに、連合軍は巨大過ぎます、三軍まである今の連合軍は存在し続けるだけでプレイヤー同士の分断を生み、力による支配を生むでしょう、仮に同盟と通行料の無償化があったとしても、連合軍が連合軍である以上、俺たちは先に進む毎に、窮地に追い込まれると思いました、なので、俺はここで、連合軍の分割を提案させて貰います、オルトさんには新しい連合軍を作ってもらいそこのリーダーになって貰って、連合軍を二分する事をここに提案させてもらいます」
もしもここで有力者で実力者のナンバーツーであるオルトを排除し、テンペの独裁を許してしまえば、間違いなく連合軍は今以上に暴走すると、俺はそう思った。
しかし、それは革命によってテンペを排除しても変わらないだろう。
そして、見るからにハイスペで優秀であるテンペとオルト以外には、連合軍のリーダーという役職は務まらない。
それはジーザスのような十傑を連合軍の中から見た俺だけに出来る判断だ。
中間管理職レベルでただのパーティー隊長ですら満足にこなせない俺だからこそ、身に染みて分かっていた事であるが故に、俺はオルトを高く評価していた。
だから俺は、オルトをここで死なせるのは得では無いとそう判断し、この提案をした訳である。
「馬鹿な、そんな事、認められる訳・・・!」
勿論そんな提案は、覇権ギルドを作ろうとしているテンペからしたら到底受け入れられるものでは無い。
だが、テンペとオルトが決定的に決別し、そして、オルトがまだ支持を失っていない今だからこそ、俺の提案は強引に押し通せる余地があったのだ。
「テンペさん、この国は〝民主主義〟で出来ているんです、だったら、独裁するかもしれない組織なんて認められる訳がない、それが俺が、オルトさんを生かそうとする理由です、では皆さん、もう一度問います、オルトさんの作る新しいギルドに入りたい人間は挙手してください!!、オルトさんの作るギルドは、超絶ホワイト!ノルマ無し!、アットホームでボス戦の参加も自由のまったりギルドです!!、入りたい人は挙手してください!!」
今度は空気を読んでビーター達は手を挙げなかったが、それでも、今の連合軍から抜けたい者、不満を持っている者、二軍で燻っている者、ボス戦に懲りたもの、オルトを支持する者、そういう人間は確かに存在していた。
およそ半分を超えるくらいの人間が挙手をしている。
恐らく、二軍として不当な扱いを受けた人間が大多数だろうが、独裁という恐怖政治には民意は付いてこないといういい例だろう。
「くっ・・・この愚民が、連合軍に所属していれば、お前たちは最強のギルドの一員になって、ゲームのクリアに貢献出来ただろうに、何故理解出来ない、何故ひとつの意思の下で束ねられて団結しようとしない、そんなんだからこの国は・・・っ!!」
「・・・テンペさん、〝民主主義〟っていうのは、時として、全体の利益や、繁栄とは真逆に進むかもしれません、でも、人間が心から望んでいる事は、自分が安全圏にいて誰かが辛い仕事を引き受けてくれる事だけですから、辛い仕事を強制するシステムは、それが国家の為なのだとしても民意はついてきませんよ、〝独裁〟なんて、今の若者には古過ぎるしきたりですから」
独裁の行き着く先がホロコーストやホロドモールや文化大革命だというのならば、権力とは絶対に、一極集中させてはならないものなのだ。
「・・・くくっ、まさかこの俺が出し抜かれるとはな、驚いたよ、まさかこのゴミだらけのゲームの中で、この俺が負かされるとは、『霧輪組』のキリヲ、この名前、我が生涯に刻ませてもらおう」
テンペは憎々しげに俺を睨んだ。
どうやら恨まれてしまったようだが、ま、分裂した連合軍ならば、多少のヘイトくらいはなんとかなるだろう・・・多分。
こうして俺たちは無事に10階層を攻略し、余計な血も流さずに、11階層へと到達したのであった。




