18.決戦前夜
そのあと俺は持っていた1000万とオルトの金1000万の2000万を使いモモを信者ランク5へと昇格させた。
俺の予測の通り1000万では必要数に足りないというのは幸い中の不幸で、おかげで財産のほとんどを吐き出す羽目になった訳だが。
だがそれだけの苦労に見合ってランク5には予想を遥かに上回る恩恵がついていた。
「へぇ、信者ランク5でスキルツリー【聖女】解放か、【聖女】ってジョブはゲームとしてはマイナーだけど、アニメだと超メジャージョブだし、最近はポピュラーなロールだもんね」
1週間ぶりに帰還したアジトにて、俺の報告を受けたレインがそんな風に感想を述べた。
「しかも【聖女】スキルは常時発動スキルも豊富で、自動回復、呪い耐性EX、神聖魔法強化とか効果もてんこ盛りだしな、今はスキルレベル1だから低位の浄化魔法しか使えないが、スキルレベルを上げれば高位の浄化魔法を使えるって事で、今後の攻略でも重宝しそうな感じだ」
「【聖女】、モモにはピッタリだと思う・・・」
「・・・えへへ、なんか照れちゃいますね、【聖女】って、それに私は前衛職の方が好みなんですけど・・・」
「本当にな、こんなぶっ壊れオプション付いてるって知ったら、ヒーラーの俺が無理してでも取るべきだったって後悔してるくらいだ」
「でも兄さんは〝聖歌〟を歌えないじゃないですか、【聖女】は聖歌を歌う事で聞いた人全員に勇気と加護を与えるみたいですし、それ考えたら私が一番適正あるのは妥当ですし、兄さんのヒールも保険として持ってて嬉しい訳ですし」
確かに、【聖女】がいるならヒールは要らないかと言えば、【聖女】は〝歌〟をメインに戦う存在なので、呪文の詠唱をする暇が無い為に、俺が別でヒールを使えるのは必要な事だが。
でも【聖女】と言えば、【勇者】、【魔王】と並んで万能、最強の存在だ、それにモモがなった事で、俺は自分がモモの下位互換になったような劣等感を感じずにはいられないのである。
このパーティーの序列はレイン(鬼強い、年齢不詳)>ノワ(バカ強い、中学生、推定14)>俺(普通、16歳)>モモ(弱い、初心者、13歳)で成り立っている、つまりモモに劣るという事は、俺は団長でありながらパーティーの最下位に転落するという屈辱を味わう事になるのだ。
だから俺はモモにだけは負けたく無いし、恐らくモモも、それで俺に対抗心を感じている部分はあるだろう、だから俺はモモに言ってやった。
「そうだな、確かに俺なんかよりモモの方がよっぽどしっかりしてるし【聖女】の座に相応しいと思う、だからモモ、ここいらで俺と団長の座をかけて決闘しようぜ、俺は既にレインともノワとも決闘してる訳だし、そろそろモモともやっとくべきだろう」
「えぇ・・・、急に何を言うんですか、そもそも団長なんて私に出来る訳無いじゃないですか、今日の会議とか交渉とかだって兄さんにしか出来ない事ですし、決闘だって【聖女】相手にしかけるのはおかしいですよね」
「いやでも、ここいらで一度はっきりさせておくべきじゃないか?、どっちが〝上〟なのか、自分より弱い奴に命令されるのはモモだって嫌だろう、だからここいらでさ、一度さ、白黒つけようってそういう話、モモが勝ったら、これからはモモに無茶ぶりしたり、鬼勉強制したりもしないからさ」
「それってつまり、私が負けたら無茶ぶりや鬼勉に黙って従わなくちゃいけないって事ですよね、嫌ですよそんなの!、っていうかレインやノワとの決闘だって兄さんは卑怯戦法や反則技使ってますよね、そんな人と決闘とか絶対嫌ですよ!」
俺がうまくモモを挑発してストレス発散する為に会話を誘導していたら、そこでレインが呆れたように頬杖ついてぼやいた。
「・・・キリリンはさぁ、モモくんに決闘で勝てば自分の評価や自尊心を少しは回復出来るとか思ってるかもしれないけど、はっきり言うとボクの中での評価は最初からモモくんの方がキリリンの10倍優秀だと思ってるからね」
「・・・オレもモモの方が人間として〝上〟だと思う、団長はオレと同じだから、だから決闘で勝っても、モモより上にはならないと思う」
知っていた事だけど、俺の評価とはパーティーの中で最下位は確定していた。
今更これを覆すのは、並の努力や成果じゃ無理だろう。
「ちっ・・・はいはい分かりました、じゃあモモ様の方が上でいいですよ、でもじゃあモモ様がリーダーの方がいいんじゃないですかね、だって、俺がリーダーだと誰も従わないし、統率も取れないんですからね!」
俺は不貞腐れた態度で仰向けになると、モモはため息ついて俺に言った。
「何を不貞腐れているんですか、私はちゃんと兄さんに言われるままに鬼勉しましたし、今日だって全部兄さんの言う通りにしたじゃないですか、レインやノワだって、たまに勝手をする事はありますけど、でも基本的には兄さんの指示通りに働いてますし、ここまで来たのだって全部兄さんの方針で動いて来た訳ですし、だったらどっちが上とか下とか、そんなの関係無いですよね、このパーティーのリーダーは兄さんで、周りもそう認めてるって話ですよね」
まるで先生のような的確で模範的な慰めだったが、俺は年下の女子に諭された事で、更に深く激しく甚だしく、プライドを傷つけられたのであった。
「・・・・・・なぁ、モモ」
「・・・なんですか兄さん」
「お前、俺の事好き・・・?、人間として・・・」
「・・・因数分解より難しい質問ですね、いえ、好きか嫌いかで言えば多分、ギリギリ、かろうじて好き、と言え無くも無くも無いかもですが、得意か不得意かで問われたらものすごく不得意ですし、もし現実で出会ったとしても、友達になるのも、ちょっと迷うかもしれません・・・」
「うっ・・・・・・、ワァ・・・・・・、ひどい!、俺はこんなにもモモによくしてるのに!、許さんっ!、モモ!、このクソ野郎!!、仮にお前が俺のリアルのイケメンフェイスに一目惚れしたとしても、今日の出来事の意趣返しとして、お前には一生塩対応で「さぁ、どこかで会った事ありましたっけ?」って他人のフリしてやり過ごすからな!、覚えとけよ〜ッ!!」
「兄さんの自分の顔面に対する異常な自信はなんですか・・・、私、別にイケメン好きでも無いですし、そこそこのイケメン程度に一目惚れするとかも有り得ないですよ」
そんなやりとりをしていると、レインがじっとこちらを見ている事に気づいた。
「どうしたレイン?、やきもちか?、生理か?、悪いなあまり構ってやれなくて、一週間ぶりだし、久しぶりにパパと大人のスキンシップでハッスルするか?」
号泣した後だからか微妙に変なテンションだが、レインはそんな俺の奇行に構うことなく、淡々と告げた。
「モモくんには兄さん呼びを許してるんだね、ボクのお兄ちゃんはダメだったのに、なんで?」
「・・・え、いやそれは単に潜入する為の設定で、別に深い意味は無いし、お兄ちゃんはアリサと被るから普通に嫌だっただけだし」
「そ、そうですよ!、兄さん・・・キリヲさんの事兄さんって呼ぶの、本当はすごく恥ずかしくて嫌ですけど、役だから仕方なく演じてるだけで、おかげで潜入も上手くいってますし、別に深い意味とか無いですよ!」
「・・・ま、一週間も二人きりで生活してたら、口では喧嘩してても仲良しさんになるのは当然か、妬けちゃうなぁ、キリリンの妹枠は、僕が欲しかったのに」
「いや、俺の妹枠は永久欠番だから、モモに貸してるのはただの妹モドキ枠だから」
「妹モドキってなんですか・・・」
くどい表現だが、俺はこいつらとの距離をそれなり詰めてはいるが、心まで許した事は一度もない。
そもそも家族だろうが人間不信の俺にとっては信頼に値する存在では無いし、だから俺はまだ誰にも心を許してはいないのだ。
「そんな事より!、なぁレインお前この一週間どこで何をしてたんだよ、連絡無いのはいいとして、一度も見かけないのは流石に気になるぞ」
構って欲しい様子なので俺はレインにそう追求した。
それに対してレインは意味深に笑って、意味深な言葉だけを残して部屋に帰って行った。
「・・・駒を増やして来たんだよ、盤上で踊る駒を、ね──────────」
「駒・・・?」
非常に意味深で不可解な発言だが、レインのやる事だし、何かしらの意図はあるのだろう、それを追求したい所だがレインは〝名探偵〟役であるが故に、不親切でヒントしかくれない事も、俺は分かっていたのである。
そして次の日俺たちは、予定通りに10階層のボス攻略戦に旅立つのであった。




