12.狂気のギャン中再び
スラムの拠点で待っていると夕方過ぎの修練場が閉店した辺りの時間にノワが帰宅してきたが、レインはいつまで経っても帰って来なかったのでノワに事情を聞いた所、どうやらこの数日の間このアジトには帰って来ていないらしかった。
「ふーん、ま、あいつの事だし、何か考えがあっての行動だろうが、連合軍ぶっ潰そうとか言ってたし、暗躍させるのは不穏だな・・・っと、それで、ノワ、明日なんだけど、どうやら賭場で腕試しみたいなイベントがあるみたいなんだ、それで───」
「出る」
俺が皆まで説明するより先に、ノワは参加の意を表明した。
「・・・話が早いな、じゃあこの参加用紙に名前を書いて、それを当日会場の投票箱に入れろ、選ばれるかは抽選だが、ま、お前なら大半のプレイヤーには勝てるだろ、どうやら勝ち残り戦で連戦になるが、負けそうな相手には俺らにだけ分かる合図をしろ、それで俺らはベットを回避するから、ファイトマネーは最後まで勝ち残った一人に100万だが、まぁ無理して狙う必要は無い、むしろ八百長すれば100万は秒で稼げるしな、分かったか?」
「・・・分かった、じゃあ負けそうな相手が来たら、肩を回す動作をする、でも別に、優勝しても構わない、よね?」
「それは「決勝で待ってるぜ」に並ぶレベルの敗北フラグだが下手に手を抜いても八百長を疑われて賭け金が減るからな、どうせ八百長するなら決勝戦でするのが熱い、だから、決勝戦で俺に当たるとかじゃない限り、八百長はしなくていいぞ」
「・・・むしろ、レインとキンダムに勝った団長にこそ、オレは真剣勝負で戦いたいんだけど」
「そういうのは人目につかない所でひっそりとやらせろ、団長の威厳が傷ついて俺が恥をかいちゃうだろ」
「キリ・・・、お、お兄さんに威厳とかそもそも無いですけどね」
「同感・・・」
「ちっ・・・、じゃあ明日は頼むぞノワ」
俺はノワと過ごしたいのかアジトに泊まりたがっていたモモの腕を強引に引っ張りながら宿に帰って、しこたま聖書の暗記という勉強をモモに強要してからその日を終えたのであった。
次の日。
「それにしてもギャンブルと言えば思い出しますね」
「思い出す?、何をだよ?」
「?、忘れたんですか、私が命を賭けたギャンブルを無理やりさせられて、キ・・・お、お兄さんに「なんでも言う事を聞く権利」を貰った事ですよ」
「ああ・・・、ちっ、まだ覚えていやがったか」
「今思い出したんですよ、まぁ別に、私が兄さんにして欲しい事なんて別に無いですけどね」
「だったらそんな際どいエピソードを想起させるな!、そのエピソードにはとんでもない汚物がこびり付いてるだろうが、俺に頼み事が無いならその話は気軽に出すんじゃねぇ、また命を賭ける事になりたいのか!!」
言霊、名前を呼ぶと悪魔が攫いに来る、そんなオカルトの話だが、だが、マーフィーの法則のように、えてして死神とは、忘れた頃にやってくるものなのである。
「──────────呼んだかしら?」
「呼んでねぇ!!、出やがったなギャン中!、ホァーッ悪霊退散!悪霊退散!、オンベイシラマンダヤソワカ!、臨兵闘者皆陣烈在前!、急急如律令!、ウニ天丼!テキサステンプラ!!」
俺は知りうる限りの呪文を早口で捲し立てて、悪霊の除去を試みるのだが。
「あん♡、あん♡、久しぶりのご主人様のビンタっ!、久しぶりのご主人様の拳骨っ!、嗚呼、なんて素晴らしき快感、五臓六腑に染み渡るフォオオオオオオオオオオオオオオオオオイ!!!」
「ちっ、浦鉄の春巻みたいなリアクションしやがって、てかお前なんでここにいんだよ、そしてなんで変装してんのに秒で見破ってんだよ、でもそういうのどうでもいいから、有り金置いてとっとと失せろ!!」
「ご主人様の「失せろ」来たああああああああああ!!、嗚゛呼゛っ、イグイグイグぅう゛う゛う゛う゛!!」
汚い嬌声を撒き散らしながら絶頂する姿は周囲の注目を集めていたが幸いここは人通りも少なくそれほど目撃者も多くない。
なので俺はこの人間のクズを路地裏に連れ込む事にした。
「・・・ちっ、悪いモモ、こいつがいたら俺たちの正体がバレるかもしれねぇ、だから俺はこいつちょっとシバいて来るから先に行ってろ」
「え、あ、はい・・・、あまり悪い事しちゃダメですよ、兄さん・・・」
俺は鼻息荒くしながら股を抑える人間のクズを路地裏に連れ込むと、壁際に押しやって詰め寄った。
「おい、クズ野郎、お前俺らが変装してるって分かって話かけてんじゃねーよ、マジで殺すぞ!!」
「はぁはぁ、うん・・・、殺して・・・、私、ご主人様に殺されるなら、いいから・・・っ!」
ぞわわっと、背筋に悪寒が走るようなギャン中の上目遣いだったが、ゲームのアバターだとそれなりに容姿が整っているのがタチが悪い。
最初から分かっていた事だが、こいつには脅しは効かないし言う事も聞かない、むしろ雑に扱えば扱うだけ喜ばせてしまうという、俺にとっては災難極まりない化け物だった。
「・・・それでお前、今いくら持ってるんだ」
面倒なので俺は金だけ巻き上げて、後は放置して、モモの護衛はノワに任せて宿にでも引きこもろうかと思ったのだが。
「ごひゃくまん、ありまひゅ・・・でもごひゅじんさまに差し上げる前に、ひとつだけ、お願いが・・・」
・・・500万か、このギャン中は厄介な事にギャンブルが鬼強いので、あれから10日間で新しい賭場も開かれた事を加味すれば稼ぐのは不可能では無いが、それでもこんな大金をポンポン稼げてしまうのは、ギャン中だからこそなせる技なのだろうか。
「お願い?、なんだよ、言っとくが仲間には絶対しないからな、おめぇは一生一人で、村のすみっコで、シコって寝てろ!、俺がお前に恵んでやれるのは、せいぜい、この拳1発だけだ」
「そんな、わた、わたひ、ご主人様があの超強い騎士と戦ってるのを見てから、体の火照りが収まらなくて、わたひも、あの騎士みたいに、ご主人様にめちゃくちゃにされて、温もりを貰いたいだけなのに、嗚呼、どうかご主人様、私に、この醜いメス豚めに、お情けを恵んでくださいまし!!」
そう言って人間のクズ、†メア・ウロボロス†は俺に土下座した。
俺は醜いメス豚という蔑称がここまで似合う人間が、現実に実在して、そしてそれが俺の目の前に存在するという事実にドン引きしていた。
だが500万、それだけあれば目標の1000万にも大きく近づくし、これからもお金が攻略に必要になる事を考えれば、非常に不本意な事だが、メアの存在も必要不可欠と言えるだろう。
だから俺は心を殺して、やりたくない事をやるスイッチに切り替えて、殺意のレバーを下ろして、聖剣を取り出すと、メアに言い放った。
「おい、先に金を振り込め、そしたら、望み通りにしてやるよ」
「はぁはぁ、本当ですか、本当に払えば私に、お情けを、温もりを・・・!、授けてくれますか・・・っ!」
「ああ、安心しろ、俺はヤると言ったらヤる男だ、ま、お前がどれだけ耐えられるは分からないがな」
「心配無用ですご主人様!、私、この為にステータスは全部HPに振っておきましたから!、ご主人様の攻撃も10発は耐えられる想定です!、存分に壊しちゃってください!!」
「そっか・・・、じゃあさっさと振り込め」
「はい・・・」
『†メア・ウロボロス†から5,000,000グランが送られました』と表示されるのを確認した俺は、キンダムの時と同じに、手始めに足を切り落とした。
「んあっ、あぁっ──────────んぐっ」
俺は悲鳴を抑える為に、即座にメアの口につまさきを突っ込んで、今度は手を切り落とした。
ちなみに切断された手足はヒールでしか直せないものであり、ポーションで直せるのはHPだけである為に、ヒーラーはこのゲームに於ける必須ジョブなのである。
手足を奪われて無抵抗になったメアを俺は踏みつけにして聖剣を使って切り裂いていく。
お腹を切り裂いて内蔵があるのかを確かめてみたが、腹の中は空洞であり、血は流れるものの傷は直ぐにふさがった。
断っておくとこれは痛めつけるのが目的でやっている訳では無い、ただ、急所判定がどこなのか、痛覚判定がどれだけ適用されているのかを、淡々と確認しているだけの作業だ。
だから俺は、メアのHPが瀕死になりそうな具合を今までの戦闘経験から予測して、メアにヒールをかけて手足を復活させて、もう一度確認するようにメアの体に聖剣を突き刺す。
脳天、心臓、肺は、矢よけの訓練でも設定されていたように急所判定があり、そして痛覚も大きめに設定されているようだった。
そして眼球、喉、肝臓、子宮、脊椎などは、普通なら急所になる部分だが急所判定では無く、大きなダメージにはならないようだった。
2回目のヒールをかけた俺は、今度は何を確認しようかと思い、メアの体を裏返すと、関節がどこまで曲がるかを実験する。
ダッキャンバグが使える事から、肉体に無理な負荷をかけてもダメージにならない事は既に確認済みだが、それでも肉体の稼働限界を知る事は必ず役に立つものだろう。
俺はメアの首が背中にくっつくのかを試そうとして、どうやっても曲がらない事から今の筋力値では不可能と結論付け、今度は指の間接を一つずつ何度まで曲がるのを確認する。
第1関節は180度曲がったが、第2関節は90度曲げようとしたら折れて、第3関節も同様に折れた。
しかし指へのダメージは低く設定されているのか、痛覚もそれほどでは無いようであり、メアの反応も大人しかった。
なので俺は両手両足の全40本の指で同様の実験をし、全部の指が折れるという事を確認した。
そしてこの肉体には骨が無いのに骨折という現象が存在する事に疑問を感じた俺は、尾てい骨や脛など、通常打撃を受けたら痛い部位に打撃を与えるとどうなるかを実験し、そして、ここにも急所判定は無いが、骨のような感触があるという結果を得たのであった。
ここで3回目のヒールをかける。
もうヒールが使えない事から、肉体に傷跡が残るダメージを与える事が出来ないと思い、これまでの実験で得た結果から、何が1番効果があるのかの応用編をする事にした。
俺は聖剣をストレージに収納して、逆にあるものを取り出した。
瓶に収納されたそれを、倒れているメアの顔面に垂らす。
「アツゥイ!!」
物を溶かす酸性のスライム体液。
何かの調合に使えるかもと保存していたアイテムだったが、使い道が無かったのでここで使用したのである。
この肉体には皮膚という概念は存在しないので、スライムが溶かせるのは服だけなのだが、それでも肉体に浴びればそれはダメージとなり、煙を発して蒸発する。、
俺はそれをメアの頭上に、ぴと、ぴと、と一滴ずつ垂らしてメアの反応を観察した。
脳天に垂らされた雫は絶妙なダメージでメアを追い詰めているのか、一滴垂らす毎にメアはびくん、びくんと大きく跳ねて絶頂の快楽に身を委ねているようだったが、俺はそれを数度観察するとこれ以上の得られる成果も無いと思ったので中断し、代わりに飲み口をハンカチで塞いだ水の入った小瓶を近くの街灯に吊るして、ただの水滴が落ちるようにした場所の下にメアを放置して、俺はその場から立ち去った。
まるでパブロフの犬の如く、本来は拷問であるはずの水滴を浴びる行為にメアは快感を感じて汚い嬌声を撒き散らしているが。
俺は振り返らずにその場から早足で立ち去ったのであった・・・。




