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3.始まりの街 グランディス王国

「現在街は殺人鬼の捜索の為に封鎖されてるんだ、なぁに、憲兵の騎士達は優秀だ、三日もすれば見つかるよ、騎士達はドラゴンすら倒せるくらいの実力者ばかりだからな、犯罪者は皆、騎士に捕まって独房送りさ」


「ねぇ知ってる?、この世界は神様が罪人を閉じ込める為に作ったんだって、下の世界に行くほどたちの悪い罪人が紛れ込んでるんだとか・・・

 でも、地上で暮らしてる私たちには関係無いわね、だって私たちは『選ばれし民』なんだもの」


「グランディスは悪人も犯罪も存在しない理想の国だった筈なのに殺人事件だなんて・・・、なんて恐ろしい」


「どんな屈強な戦士も空腹には敵わなねぇ、《飢餓状態》になると全能力が半減し、格下にも負けるようになるから注意するんだ、ところで兄ちゃん、この『携帯型糧食』買わねぇか?、一度に5個まで携帯出来て、1つ食えば1日は腹を満たしてくれる優れものだぜ?、1個500グラン、5個買えばサービスで状態異常薬もつけてやる、早い者勝ちだぜ?」


「君は新米冒険者か?、城の外には凶悪な魔物がいるから注意するんだ、奴らは人間を見ると直ぐに襲ってくるからな、それに自分よりレベルが上の相手ならば、攻撃が急所に当たれば一撃で絶命する事もある、心配なら急所を守る防具を買うのがオススメだ」







 俺はNPCから情報を拾える事を知り、片っ端からNPCに声をかける作業に没頭していた。

 チュートリアルの無いゲームなので、NPCが情報源として設定されているのだろう。

 「ようこそ」とか「君は今」とか益体(やくたい)も無い定型文を繰り返すタイプのNPCも多いが、中にはプレイヤーと見紛うレベルで会話をするNPCも存在していた。

 プレイヤーとNPCの判別は、今は全員初期装備であるが故に明確だが、恐らく装備に個性が出て、見た目で区別出来なくなれば、両者を判別するのはかなり難解になると思われる。


「次世代AIの開発の為の実験目的だと言っていたし、そりゃあNPCの思考AIが高精度でも当然か」


 街を見回してみると、美人NPCにナンパしたり、幼女NPCにパンツを見せてと交渉しているプレイヤーもいたりして、それらに定型文では無い返答をする様を見たら、NPCと言えどとても舐められたものでは無かった。


 そんな風に街の中で情報収集をしつつ、俺は手頃なギルドを探していた。


 俺と似たような目的で探索している人間も何人かいたので、俺はそのうちの何人かと情報交換でもしてみたいと思ったのだが、しかし、コミュ障で陰キャな俺は、見知らぬ他人に声をかける勇気がどうしても出なかった。


 相手が同年代なら多分ここまで緊張はしないのだろうが、多分年上で、しかもデスゲームの最中という事情もあってか、声をかけようと思ってもどうしても最初の一歩が踏み出せず、立ち止まったまま、何を話すか自問自答している内に機会を逃していた。

 何度か向こうから話しかけてくる場面もあったが、俺がコミュ障のせいか会話は弾まずに、直ぐに会話は打ち切られて実のある話題をする事は叶わなかった。

 そこで俺は自分のコミュ障を痛感し、さらに話しかけるハードルは高まっていくのであった。


「・・・ていうか俺、こんなコミュ障なのにギルドでやっていけるのか?、冷静に考えたらソロの方が気楽だし、最初はソロで自由気ままに遊ぼうと思っていたんだが、わざわざギルドに入って面倒くさい人間関係背負い込む必要あるのか?」


 と口に出してみるものの、ギルドに入るのはこのデスゲームにおける最低限の自衛手段だろう。

 これが某剣と浮遊城を舞台にしたSA○みたく、ビーターとしての先行者利益、レベルキャップによる俺TUEEEE展開、対人要素の低い温ゲーのデスゲームという()()()()の創作物ならば、ソロも選択肢に入るが。

 しかし、このゲームは明らかに対人がメインになってるような条件であり、そしてビーター含め全てのプレイヤーはほぼ平等な条件で戦う事になる。


 仮に、〝攻略組〟が2000人規模の軍隊を構築し、他のプレイヤー全ての殺害を目的とした時に、ギルドに所属していればギルド同士の連合を組む事で〝アンチ攻略組連合軍〟を作って対抗し、自衛出来るが、ソロプレイヤーならばフィールドに出る事すら危険であり、両者のナワバリを避けて生活するか、1人で複数人を相手に戦わなくてはいけないという話なのである。


 今の時点では全員がレベル1であり、そしてレベルの上昇手段が有限リソースの『生命の種』に頼るしか無い以上、数こそが力であり正義となる。

 故に、どう考えてもこのゲームの設計は、ソロプレイが推奨されてないように思えるし、そしてデスゲームで縛りプレイをするというのも自殺行為という話なのであった。


 そういう面で、基本的にギルドとは身内で組むものであり、〝攻略組〟のように無差別に受け入れてくれる組織とは希少であり、身内のいない人間からすれば有難いものになるのだろう。


 下手に弱小ギルドに入るよりは攻略組に入る方がマシなのは間違いないし、弱小ギルドでもソロよりは効率的なのも間違いない。

 それはビーターの情報提供を受けたプレイヤーの共通認識になっているはずだ。


 故に、たとえコミュ障で陰キャだとしても、生き残りたいなら無理でもギルドに入らなくてはならないのだが、それでもソシャゲのように無言フォロー、無言入団が出来るような甘いものでは無いからこそ、俺は困っていたのである。


「・・・こうなったら、自分でギルド作るのもアリか?、自分が団長なら気を遣う必要も無くなるし・・・ああ、でも、俺、団員にノルマ出したり、指示したりするの、多分出来ないよなぁ」


 部活をやっていたからこそ、奔放な部員に首輪を着ける役割である部長の苦労や心労は知っていた、故にそう安易に務められる役職でも無い事も分かっていた。

 まぁそもそも、募集かけても入団者ゼロになるのがオチだとは思うが。


 そんな風に考えながら探索していると、街の一角で人だかりが出来ているのが見えた。

 何事だろうと思い、俺もそこに立ち寄る。




「世界を〜♩、始める為に〜♩、貴方の魂を〜♩、空に捧げて〜♩、参りましょう〜♩、煉獄の深淵〜♩」


 



 そこでは一人の少女が歌っていた。

 歌っているのは俺も聞き馴染みのある曲、DDOのPVでも使われたDDOのテーマソングである『Dancing Dogma』だ。

 どうやらそこではミニイベントのようなものが開催されているようであり、参加費1000グランでテーマソングを歌ってカラオケで100点を取ると100000グラン貰える、と言ったイベントのようだった。


 少女の歌声は素人の俺からしても聴きやすくて、カラオケでもかなり高得点を狙えそうな美声だったが、肝心の点数はと言うと──────────


「69点!?、ダムで100点取った事もあるアタシが69点!?、厳しすぎでしょ、採点基準どうなってんのよ!!」


 少女がそう不満を漏らすと、イベントの主催者らしきNPCはにこやかに丁寧な口調で答えた。


「嬢ちゃんの歌声も悪くは無いが少々アレンジが効きすぎだな、不要なビブラートやこぶしは曲の雰囲気を壊すし減点対象だ、この曲は聖歌だからもっと厳かに歌わなきゃいけないんだ、もし上達を望むなら毎日15時には聖歌隊が教会で練習してるから、見に行くといいぜ」


 NPCにそうコメントされた少女は不服そうにしながらも、しぶしぶとステージを降りていった。


 そこに取り巻きと思しき男たちがかけよる。


「最高だったでござる、やはりあむ様の美声は天使でござる、あむ様マジ天使、デュフフ」


「あむ様ならちょっと練習すれば次こそ100点を取れるはずッス、参加費は僕らが出すんで何度でも挑戦してください!!」


「うおおお、生であむ様の歌声が聞けるなんて、クソゲーかと思ってたけど、最高の神ゲーマロ、あむ様、これからも一生ついていくマロ!!」


 と、少女は話し方が変な男達に群がられていた。


 女のPNは海礼児(みれに)あむ、確かかじさんじ所属の有名vtuberだ。


 流石に使用アバターはゲーム内のキャラクリエイトであり本家まんまとはいかないが、それでも特徴的なピンク髪はパーソナルカラーとして存在感を放っていた。


 そこで俺は思い至った。


「・・・なるほどな、DDOは転売禁止の初期ロット1万の限定販売とは言え、運良く購入出来た有名人がいてもおかしくは無い、か」


 ボリュームのメイン層はコアゲーマー中年と大学生ばかりだろうが、中には当然、ゲーマーのインフルエンサーなどの有名人もいるし、そして彼らは圧倒的なカリスマを持って自分のギルドを作り上げるだろう。


 そう考えたら、何もわざわざ自分知らない人のギルドに無理に加入しなくても、自分が知ってる有名人のギルドに入るのも、メンバーが趣味の合う同年代が多い可能性が高いという点では得策か。


 海礼弐あむはアイドル系vtuberなのでアイドルに興味無い俺からすれば微妙だが、俺も好きなvtuberはいるし、それにYouTuberとか声優とかならもっと俺にとっては親近感のある存在だ。


 そこなら趣味の合う仲間も見つかるかもしれない。


 そこから俺は、デスゲームに巻き込まれた有名人を探す事にした。




zyam_game「ういいいいいいぃ〜〜〜ッス!!、どうも〜、ジャムでぇっす!!!、昨日から団員を、募集した所、誰一人来ませんでしたあ!」


「・・・・・、そりゃあ生きるか死ぬかのデスゲームで、無職と組みたい奴はおらんか・・・」



 ・・・・・・



煉獄ゾロアキ「俺は、俺の債務を全うする、俺の団員は、誰一人死なせない!、そこの君、鬼殺隊に入る気は無いか」


「え、あ、いや、・・・結構です」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ネットに強い弁護士「みなさん聞いてください、ゲーム内に於ける暴力は、暴行罪、傷害罪、及び殺人罪が適用されます、他者を傷つける行為はやめましょう、開示請求によって法の裁きを受ける事になるでしょう、また、事件に巻き込まれた時は私に相談してください、1時間1万円から相談を受け付けております、ナリ」


「久々に見た気がする」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 色々探して見たけれど、結局、ピンとくるようなギルドや有名人は見つからなかった。


 なんとなく、俺みたいな人間が満足出来るようなギルドなんてそもそも存在しないので、妥協が必要だという結論になった訳だが、だが妥協するにしても選択肢になるものが無いというのが現状だ。


 結局、丸一日使って得た結論が、〝攻略組〟に入った方がマシなるというのがなんともやるせない話だ。


 明日も探索を続けるべきかを思考しながら、俺は一日500グランの格安宿へと向かう。


 そこで俺は急にゲームがフリーズし、待機状態へと切り替わった。


「あ・・・、今俺の体が自宅から保護施設に運ばれているって訳か、別に内蔵無線でも遊べるだろうけど、内蔵バッテリー使用するといざって言う時に処刑出来ないからとかそういう話なのかな?」


 手持ち無沙汰になったので色々と思考に耽っていたが、そこから俺は5時間近く放置を受けたのであった。

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