9.信仰の街
「信仰とは、神を崇め、神の教えを守る事によって、神との関係を深める事にあるのです、さぁどうぞ、我らの神を讃えなさい」
そう言って祭壇の上に立つ神父と思しきNPCの男が合図をすると、整列していた多くの信者、修道士達が歌い始めた。
それに習って俺たちも声を上げて、「AHー」と音をハモらせて合唱に参加する。
そんな面倒な〝ノルマ〟を俺たちは朝から、まだ普通の人間が出勤しているくらいの時間から修道院にてやらされているのであった。
このノルマは相当に面倒で手間であるらしく、参加しているプレイヤーは俺とモモの他には僅か数名であり、他のプレイヤーからは見放されたノルマであるみたいなのだが、〝歌〟を課題にしたノルマだったので、歌が得意なモモに参加させる為に俺もいやいやながら早起きして参加していたのである。
こうして一時間に及ぶ合唱の練習の終わり際に、神父が締めの言葉を送った。
「うむ、女神様も大変に喜んでおいでであろう、では、女神様、我らに祝福の光を与えたまえ」
神父がそう言うと、急に辺りが暗くなり、そしてどこから差し込んだのかも分からない謎の光が、モモを照らした。
「え、急になんですか!?、なんかめっちゃ照らされてますけど!?」
俺はその光に何か効果があるのかと、モモに近寄って光を浴びてみるが、効果は感じられなかった。
「・・・ただの演出か?、いや、そういえば騎士ランクと一緒で信者ランクはステータスに表示されるんだったな、おい信者ランクはどうだ」
俺はモモから離れてそう尋ねると。
「ええと・・・ランクが2に上がってますね」
「たった一時間で1ランクか、だとしたらモモにとっては結構効率のいいランク上げ手段になりそうだな」
「1日1回しか貰える機会が無いですけど、確かに経験値は美味しそうですね、そう言えば2になると何か変わるんでしたっけ?」
「確か、修道院の中にある図書館を利用出来るのと、他の教会施設から少額のお布施を受け取る権利と、あとは教会で治療を受ける時の少額の割引だったかな?、信者ランクの旨みが出るのは最高ランクの5からで、5になれば宗教法人を設立する権利による免税、最高位の加護による神聖魔法の強化、教会にある禁書になった魔導書を閲覧する権利、教会のサービスの無償化など、白金騎士と同じでエグい特権がついてくるが、それ以外だと別に大した事無かったな」
これは修道院の受付NPCが説明してくれる話であり、俺も今朝方聞いたばかりだ。
「図書館の利用ですか・・・、何か役に立ちそうですかね?」
「どうだろうな、そもそもどんな本があるのかも分からないし、普通に誰でもなれるランクの特権なんてカスだろうし、そういうのは5に上げてから改めて考えればいいんじゃないか?」
「・・・それもそうですね!、さて、次は街の掃除とゴミ拾いですか、こちらは結構大変そうですね」
「そうだな、ま、こっちは貰える経験値しょぼいみたいだから、適当にやろうぜ」
ゴミ拾いでカントンのパーティーと合流して俺たちは、午前中をゴミ拾いに従事し、昼はカントンの奢りで飯を食って、午後は聖書の暗記と住民から持ち込まれたお使いクエストをこなして、一日を終えたのであった。
「うっし、今日もみんなお疲れさん、それにしてもピーチ、お前すごいなぁ!、たった1日でランク上げるなんて、異例のスピード出世だし、ほんと、大したもんだよ!!」
カントンは昨日と同じ安い居酒屋で打ち上げ会をしていた。
メンバー達は面倒そうにしているが、タダ飯が食えるから付いてきたという感じだろう。
カントンに褒められたモモは褒められ慣れていないのか随分と嬉しそうに頭をかいていた。
「い、いやあ、まぐれですよぅ、えへへ・・・」
「いやいや、お前がいてくれて本当助かるよ、何せこの任務は二軍の中から5チームくらい参加して行ってる激戦だが、最初にクリアしたチームだけを一軍に上げるって話だからな、ピーチがいなかったら俺たちが一軍に上がるのは絶望的だっただろう、流石、最強パ───ごふっ」
「おい、余計な事言うな」
俺は肘をついて小声でカントンを注意する、まだ一杯目のくせにかなり出来上がっているようであり、酔っ払っていて迂闊な様子だった。
「おっと悪い、・・・ええと、それで今後の方針なんだが・・・」
と、そこでメンバーの一人が声を上げた。
名前はアロマとかいうギャルっぽい雰囲気の、生意気そうな女だった。
「てかさ、その子がランク上げ出来るならあたしら別に要らなくない?、わら、だったらその子にランク上げさせてあたしら別の事やってた方が絶対有意義だよね」
「賛成」
「・・・同感」
「おれも金策とかしたいし、街の探索とかもしたいし、毎日働くとか無理やわ」
「いやーキツいッス」
と、ギャルのボイコットにメンバー全員が賛成する形になった。
どうやら元々この仕事じみたあまりにも退屈で窮屈過ぎる作業に、ギャル達も辟易としているようだ。
ちなみに俺も一日で飽きて帰りたくなったのだが、モモの護衛という仕事がある以上、それは出来なかった。
「お前らなぁ・・・、これを成功させれば一軍になって、このデスゲームで最も安泰な地位を手に入れられるんだぞ、今こそやる気の見せ所だろうが!!」
カントンはそんなメンバーに心底呆れているのか憤っているが、それを気にかける人間は俺も含めて誰もいなかったのである。
そして険悪な沈黙に耐えきれなくなったのか、モモがそこで意見した。
「あ、あの、私は別に一人でも構わないというか、キリ」
「おい」
「──────────っと、マリ、お・・・兄さんと、一緒なので、一人でも大丈夫というか、その方が効率がいいのも間違いないので…」
ちなみにマリオとピーチという明らかにセンシティブで関連深い偽名を使ってる都合上、この身分の上での俺たちの関係性は兄妹という事にして、モモには兄さんと呼ばせる事にした。
妹にトラウマを持っている俺だったが、「お兄ちゃん」呼び以外ならそこまで刺激的では無いので、苦肉の策として都合よく妹にした訳である。
意外な事にモモは嫌がるかと思ったが、兄さん呼び以外にはそこまで抵抗は無いみたいだった。
そしてモモがそう発言した事によってカントンもなし崩し的にモモの意見を認めるしか無くなったのであった。
「うーん、なんか悪いな、新入りに全部押し付けるみたいになるけど、まぁそこまで言うなら頼むわ、じゃあ俺も明日からオフにするから、二人で頑張ってくれ!!」
「・・・えっ!?、副隊長さんもお休みするんですか!?」
「え・・・?、い、いやだって俺がいてもいなくても変わらないし、俺だって実は忙しいからな!、ま、兄妹水入らず、仲良く頑張ってくれたまえ!、ははは」
「・・・なんかこの人、キリッ・・・お、兄さんの同類って感じがします」
「一緒にすな、俺は勤勉だろうが」
「兄さんの勤勉は、効率重視で卑怯戦法上等の、怠惰を求めた先にだけ行き着く勤勉じゃないですか、基本的に効率重視で怠惰だし、どう見ても同類って話じゃないですか・・・」
「・・・・・・」
カントンと同類と言われるのは非常に癪だが、残念ながらここまで分析されているとぐうの音も出なかった。
何も言い返せないのも癪だったので俺は、このあとでモモのグラスをカクテルと入れ替えて酔い潰れさせ、眠ったモモの顔に落書きをしたのであった・・・。




