7.初恋のスイーツ(笑)
「なんか、こうして二人で出歩いてると、デートみたいだよな」
翌日、俺はモモのスイーツ巡りに付き合わされて街を歩いてる途中、ふと雰囲気を盛り上げるためにそんなテンプレ系のセリフを言ってみたら。
「は?、こんなのデートでもなんでもありませんよ!!、仲間に思われたくないとか言って3歩後ろからストーキングしつつ、店に入っても注文せずに「それ美味いのか?」「ふーん」「俺は肉食いたいけどな」を繰り返すばかりの癖に、いきなり何言ってるんですか!!」
モモは俺とデートするのが照れくさいのか、それとも俺と二人で歩く事に緊張しているのか、テンプレツンデレみたいな反応で可愛らしく俺に怒って見せた。
俺は無言で「ついてくついてく」するのも飽きて来たので、そんなモモに偽らざる本心を熱く聞かせてやる。
「いや、甘いもんばっか食ってたら塩っぱいもんも食いたくなるだろ、ここの甘味も簡素なタルトと苦いだけのコーヒーばっかであんましちゃんとした店じゃ無いし、だったら塩かけて焼けば大体うまい肉食った方が幸せな気持ちになれるだろ」
これが俺の本音だ、飽きた帰りたい、せめて肉食いたい。
「肉食いたいなら一人でレストランに行けばいいじゃないですか、わざわざ私を同行させる必要とか無いでしょ」
そんな俺の要求にモモは応える気がないのか、それともツンデレが人気ヒロインの属性だと思っているのか、そんな反抗的な返答を返してくるが。
「・・・出来るならそうしたい所だが、お前を一人にして誘拐されて人質にされる可能性もあるし、別に俺は腹が減ってる訳でも無いからな、肉が食いたいというより、スイーツ(笑)に飽きただけだ」
かれこれ数時間、もう10件以上連れ回されて、懐の広さが「この川、深いっ・・・!」の俺様でも流石に耐えきれなくなるくらい、ハードなスイーツ巡りに俺は辟易としていたのだ。
「飽きたとか言って、まだ1品しか食べてないくせに」
まだ10階層だからなのか、店で出される飯は味気ない粗末な食事ばかりであり、基本的に料理スキル上げて自分で作った方がうまいのが今の料理の基準である為に、わざわざ店に貴重な金を落とす気にもならなかったのである。
「男は美味しくもないスイーツを気分だけでドカ食いとか出来ないんだよ、お前今何件目だよ、もう10件以上巡ってるのに、まだ満足出来ないのかよ!」
おかげ朝から数時間、ずっと連れ回されてこっちもかなりお疲れ気味なのだが。
それに対しモモは「うわっ、出た、ジェンダー差別」と枕詞を付けてから答えた。
「分かってませんね、ハズレの店があるなら当たりの店もある、そういう当たりのお店、隠れた名店を探す事こそスイーツ巡りの醍醐味でしょう、それにスイーツは満腹値もそんなに圧迫しないみたいで、まだまだ全然いけそうです」
満腹値、この電子情報の肉体にも空腹感や満腹感というものが設定されており、どうやらスイーツは食事で回復する効果が薄い為か、満腹値は低く設定されてるようだった。
「ちっ・・・、そうだモモ!、じゃあ次はあの店にしてみよう!!」
この調子だとこの街の全てのスイーツ店を巡るまで解放されないと思い、俺は適当に理由つけて肉を食わせて、満腹値を圧迫させる策を試みる事にした。
「え、あそこって普通のレストランで、スイーツとかある感じじゃ無いですよね、まぁ一軒くらいなら付き合ってもいいですけど」
俺が指をさしたのは『大衆レストラン デリシャス』という看板が掲げられた、何の変哲もない普通のレストランだが。
「ばっか、オメェ、分かってねぇな、意外とオムライス屋が卵に拘ったプリンとか、イタリアンの店がチーズに拘ったティラミスとかが隠れた人気スイーツとして絶品だったりするんだよ」
俺はモモが心替わりする前にさっさと手を引いて店の中に連れ込んだ。
そこはボロくて汚い閑古鳥の鳴いてそうなしけた店であり、俺たちはテーブル席のボロい椅子に座ってメニューを確認する。
「お、味わい深い (好意的解釈)店内だが、メニューは結構豊富だな、50種類くらいあるし、どれにするか迷っちゃうな」
見た目に反してメニューは充実しておりハンバーグ、オムライス、ペペロンチーノなど、見慣れた料理が並んでいた。
「へぇ、アイスとかホットケーキとか、一応スイーツもあるんですね、店は変な感じですけどメニューは豊富でどれにするか迷いますね」
俺たちは数分の間メニューを眺めて考え抜いた後に、俺は「デリシャスセット」、モモは「日替わりランチ」を注文した。
「お前日替わりランチとか、絶対ハズレ要素の方が強いだろ、こういうのは在庫処分の食材を適当に詰め合わせて作る有り合わせのメニューな訳だし」
「そうですかね?、私は日替わりランチだと、毎回違うメニューが食べられてお得で好きなんですけど、てかキリヲさんの頼んだデリシャスセット、5000グランもして高いし、そんな気軽に頼んでいい気がしないんですが・・・」
「それでもお前の今日のスイーツ代よりは安いからな、俺も半日付き合わされてる訳だし、美味いもん食って今日の元を取らないとやってられねぇよ!!」
「勝手についてきた癖に・・・、というかもうお昼も大分過ぎましたけど、約束とか大丈夫なんですか?」
「ああ、そいつとは夜に約束したからな、そいつも昼間はノルマとかあるらしくて忙しいし、だから夜までは自由だ」
「ふーん、・・・そう言えばキリヲさん、ずっと気になってた事あるんですけど」
モモが珍しくマジなトーンで語ってきたので、俺は空気ぶち壊す為に茶化した。
「なんだ、彼女か?、勿論〝今は〟フリーだぞ」
ガキ相手なので見栄を貼るために「今は」を強調しておく。
「そんな事聞いてないし、仮にフリーだとしてもキリヲさんに告るとか100無いですから・・・、ええと、こんな事、今更聞くのも変かもしれませんけど、どうしてキリヲさんは、初対面の私に色々と世話を焼いてくれたんですか?、キリヲさんみたいな人間性なら、私とは関わらない方が自然、ですよね」
「あー・・・確かにな」
何故モモを助けたのか、善人では無いと自認してる俺からすればおかしな事だし、今こうしてモモと普通に接しているのも、モモを利用価値でしか考えていないのなら不思議な事だ。
でも、思い当たる理由は一個だけある、それは俺が過去のトラウマから人間不信を抱えていて、そして、モモはそんな人間不信な俺ですら心を許してしまうような、そんな不思議で不可解な魔力があったからだ。
モモのどこに、何に、その魔力を感じたのかは分からないけど、ただそれを言葉にするなら。
「──────────きっと、初恋のお姉さんに似た何かを、お前から感じたからだろうな」
「・・・初恋のお姉さん、この間の昔話でもちらっとだけ言ってましたけど、確か、命を救われたんでしたっけ?」
「・・・ああ、俺は昔、とある持病と怪我で入院生活をしていた、それで一緒の病室で過ごしてたのがそのお姉さんだったんだ、当時の俺は一人で病院生活するのが退屈で、宿題とかも全然やらなくて、でもお姉さんが一緒にゲームしてくれて、勉強も教えてくれて、そして、サイコパスの妹との向き合い方も教えてくれたんだ、そんなお姉さんに幼い俺が淡い恋心を抱くのは自然な事だっただろう、そしてお姉さんは、病室で騒ぐ事を注意されて逆上したアリサから俺を庇って、アリサに刺されたんだ」
「──────────え」
今思えば、俺がアリサを殺そうとしたのは、お姉さんを刺したアリサに対する俺の復讐、だったのかもしれない。
「その時に姉さんは深い傷を負った、覆い隠せない傷だ、それなのにお姉さんはあの時、泣いたり怒ったりせず、それでもアリサを叱ったんだ、俺はその姿に、神のような、大きな救いのようなものを見た、だからきっと、俺はあの時のお姉さんの自己犠牲に生かされてるから、お前のそういう部分に、無意識に惹かれていったんだと、思う」
「・・・善意は人の為ではなく、巡り巡って自分に返ってくる、ですか…」
「・・・?、まぁそういう事だな、そう言えばお姉さんも似たような事を言ってた気がするな、もう声も思い出せないけど」
今は顔も名前も思い出せない、それくらい苦くて悲しい記憶だったが、だが、俺はお姉さんの自己犠牲に生かされた、だからどれだけ悪人を演じようとしても、それを俺の中から完全に消し去る事は難しいのだろう。
俺の答えを聞いてモモは納得いかなかったのか、しばらく間を空けてからぽつりとこぼした。
「・・・キリヲさんはどう思いますか、自分が傷ついて、痛い思いをして、周りから理解をされなくても、それでも誰かの為に尽くす人生って、・・・私は、元々は自分を優先して生きてる人間だから、本質ではお姉ちゃんの事、何も理解出来ないんですけど」
「そうだな、俺も理解出来ないし、そんな生き方で本当に幸せになれるのかよ、って問い詰めたいくらいだ、でも、俺はそのお姉さんに生かされた、だから誰よりも理解しようとしないといけないし、誰よりもそれを、尊重するべきなんだと、思う」
そう言葉にした時、自分の中でもなぜ俺がモモを庇っているのか不可解だったのが一気に腑に落ちて、納得出来た。
そうだ、俺は罪人であり、救われた側の人間だ。
だから俺がモモを救うのは当然であり、そうする事で俺は救われるという話なのだ。
「・・・なるほど、分かりました、という事はキリヲさんの中には今でも、そのお姉さんがいるって事なんですね」
「顔も名前も思い出せないけどな、・・・っと料理が来たみたいだな」
筋骨隆々とした強面のイカつい店主が料理を運んできた。
5000グランもする高価なメニューだけあって、7皿のフルコースのようだ。
そして俺の前に置かれた料理、缶詰。
モモの前に置かれた料理、彩りのあるポテトやハンバーガーがメインのアメリカンなフルコース。
「ってオイイイイイイイイイ!!、どう見ても逆じゃねーか、なんで5000もするデリシャスセットが缶詰一個なんだよ、食ったら何か特殊効果ある系の食いもんなのか!?」
缶詰はラベルのされてない不穏な食い物だし、そういう可能性もまだ一応残されている為に、俺は缶詰を1口運んだ。
「うっ──────これは・・・、懐かしの猫バーグの味じゃねーか!?、なんで5000払って猫バーグ食わされてんだよ、なんで5000も払って猫バーグ食わなきゃならねぇんだよ!!、もういい、店長!、俺にも日替わりランチ1つ!!」
すると店長はドンッ!!!と机に2つ目の缶詰を叩き付けて去っていく。
「──────────え?、どういう事だ?、おーい店長、注文間違えてますよ、じゃあ今度はデリシャスセット1つ!」
ドン!!!、また缶詰が叩きつけられる。
俺の目の前には、猫バーグ (推定)の缶詰が3つ。
モモの目の前には、肉、野菜、魚、彩り豊かなフルコースが並んでいる。
「俺が何をしたって言うんだ・・・、まさかアリサの奴、俺を絶望させる為に俺の注文がバグるように操作している・・・?、おいモモ、お前もデリシャスセットを注文してみてくれ!」
「ええっ!?、私は無駄遣いな上にまた猫バーグ食べるのとかいやですよ、キリヲさん、私の分けてあげますから、ほら、このハンバーグ、とってもジューシーで美味しいですよ」
そう言ってモモはフォークを突き出して来た。
その芳醇な食欲をそそる香りに抗えず、俺はそのフォークを「あむっ」っと啄む。
「うっ──────────、うまあああああああああああああああああああああああ!!、なんだこれ、こんな美味いもんこの世界に来て初めて食うぞ!?、今まで食った料理はどれも調味料が微妙に足りない感じの微妙な料理ばっかなのに、これは旨みも味のバランスも完璧で、現実のレストランで出されてもおかしくないレベルだ、俺はこの世界の味覚再現が微妙だから味気ない食事しか無いのかと思ったが、こんな美味いもん食ったら、豚の餌レベルの他の飯が食えなくなるレベルで美味すぎる、なんでモモの日替わりランチだけこんなに豪華なんだよ!?」
この世界の食事は娯楽にならないと思っていた俺にとって、このハンバーグは常識を覆すような革命的な料理だった。
値段で言えばファミレスのハンバーグ700円くらいの味だが、1ヶ月ぶりの美味しい食事というだけで俺は感動に咽び泣くレベルで舌が幸せを感じていたのである。
「長い食レポですね・・・、でも本当に驚きです、こんな美味しい食事がゲームの中で食べられるなんて、もしこれが普及したら、ゲームの中で好きなだけ好きなものを食べられるようになって、世界中から戦争が無くなっちゃいそうなレベルです」
「・・・いや、現実の飲食店や食品生産業が大打撃を受けて、農業国と工業国の戦争がむしろ生まれそうなレベルだけどな、でも、理屈は分からんが、ここの日替わりランチには〝当たり〟が存在するみたいだな、店長の気分なのか法則があるのかは分からんけど」
俺は無言で缶詰を食しながらそう分析する。
ゲームなら法則性はあるだろうし、一番高いデリシャスセットを頼んで缶詰を食わされる訳だから、日替わりランチなら1%、デリシャスセットなら5%みたいなガチャになってる可能性もある訳だからなんとも言えないが、こんな美味い飯を食ったら毎日食いたくなるのも当然の事だろう。
モモの満腹値を圧迫する為に連れ込んだレストランではあるが、モモはなんやかんや言いつつも俺にフルコースを半分分けてくれて、その為結局午後もスイーツ巡りに付き合わされる事になった。
──────────後に『大衆レストラン デリシャス』は隠れた名店として話題になり、スペシャルフルコースは確率1%、上限1日1回のクソガチャだと判明するのだが、それはまた後の話である。




