5.10層の街、ヘルゲート
「ふわぁ、ここが10層の街、ヘルゲートですか、今までの街はグランディス王国を除いて小さな街や村って感じでしたけど、ここはちゃんとした都市になってて、ワクワクしちゃいますね」
モモは「ふわぁ」とか可愛い子ぶってやがるが、ゲーム初心者ならそんな感想になるのも当然と言えるくらい、ヘルゲートは立派で趣向の凝った建造物が立ち並んでいて、デザイナーの拘りを感じられる瀟洒で雄大な街だったのである。
ちなみに10階層到達の通行料は当然の如くかけられていた。
まぁ連合軍は自分を〝善人〟だと自認している組織である為に、それ以外の全てを敵とし、連合軍以外に不利益を与える事に躊躇しないのも当然と言えば当然の話なのだが。
それに今は日当で5万くらいは苦労せずに稼げるようになっている訳だし、40万の通行料もそこまで痛いものでは無く、そこまで気にする出費でも無い。
今気になる事と言えば。
「・・・もしかしたら、10階層のキリ番は王国とか都市とか広い拠点になる、そういう法則性があるのかもな、好きな街に飛べる転移門の設置も、こことグランディスだけだし」
「だとしたら10の倍数の街で拠点を作るのがいいのかもね、拠点の場所を他のプレイヤーに知られるのはデメリットになるけど、他のギルドと連携するなら固まって拠点作る事はメリットになる訳だし」
「ま、それで派閥や勢力の棲み分けが作られるだろうし、俺たちが拠点を作る必要も無いと思うが、戦闘漬けじゃない人並みの生活送るなら、拠点は欲しいよな…」
「分かる、お風呂入りたい」
「え?、このゲームお風呂とかあるんですかね?、あるなら私も入りたいですけど」
「温度を感じる感覚がある訳だしお風呂も作ろうと思えば作れるものだろうけど、それってゲームの中でまで入りたいものなのかい?、むしろボクは、お風呂に入る必要が無い事が楽でいいと思うんだけど」
「風呂は日本人の心だからな、たまには日常を思い出せる時間が無いと心が荒んで人に戻れなくなるから、だからたまには日本人の〝心〟を思い出したいんだよ」
「ふうん、そういうものなんだね、なんか今、ボクには人の心が無いという言外の批難を感じた気がするのは気のせいかな?」
「安心しろ、今のは日本人の心の話であって人の心は関係無いから」
「そうかい、ならいいよ」
ま、レインに人の心があるのかは少し疑わしい所ではあるが、それは言わぬが花だろう・・・。
俺たちは4人で固まって街をあちこち回って探索し、そして夜になって俺は酒場である相手と落ち合ったのであった。
「よう、兄弟、久しぶりだな」
「おっす兄弟、元気してたか」
そんな軽い挨拶を交わしながら、場末の酒場で俺は連合軍の二番隊副隊長 (二軍のエース)であるカントンと密会をしていた。
目的は勿論、連合軍の今の情勢についての調査である。
「それで一体なんの用なんだよ?、質問とかなら別にメールで済ませればいいと思うんだが」
カントンは俺に会うのが面倒くさかったのか気だるげな態度でグラスをあおりつつそう切り込んでくるが。
「ま、色々と相談したい事があったんだ、例えば・・・、連合軍に寝返り・・・、とかな」
「お?、おおう!?、それは勿論相談に乗るぜ、お前らは少人数で名前を上げた最強格の一角だからな、連合軍の中でも評判はいいし、お前らが連合軍に入ってくれれば鬼に金棒だしな、歓迎するぜ!!」
カントンは嬉しそうに顔を綻ばせて随分乗り気のようだが、今のは会話を円滑にする為のリップサービスのようなものだった。
「そう言ってくれるとありがたい、ただ、連合軍に入る為には色々と不安に思ってる事もあるんだ、9階層の攻略の事とか、指揮をした副団長のオルトの事とかな」
「・・・あー、確かに、9階層はとんでもない激戦だったらしくて100人以上死んだらしいもんな、俺も二軍で助かったっていうか、一軍ですらそんなに沢山死ぬのかって、びっくりしたくらいだし」
「え?、じゃあ9階層のボス攻略に参加したのは全員が連合軍の主力の一軍だったのか?」
「あーどうだろう?、俺も一軍とか二軍とか、その組み分けを詳しく知ってる訳じゃねぇんだ、団長がテンペさんで、副団長がオルトさん、その下に十傑がいて、その十傑が束ねるのが精鋭部隊で、後は二軍って感じで、攻略に参加したのがどこの部隊かまでは知らん、一応十傑もメールで名前だけは教えて貰ってるんだが、顔までは分からんし…」
「・・・なるほど、じゃあ一応、ボス戦に数合わせの二軍をかき集めた可能性もあるんだな」
「分かんねぇけどな、ただまぁ、そんなに沢山死ぬなら誰も一軍になんてなりたくねぇよな、俺の部下の中にも、それで連合軍辞めたいって言ってる奴もいる訳だし」
「まぁビーター組が被害ほぼゼロ人で攻略してた上での惨事な訳だし、これで連合軍のやり方に疑問を持つのは自然な事だと思う、それで、俺の相談なんだが・・・」
俺はカントンにある提案を説明した。
「・・・なんだ、そんな事か、ま、別にいいぜ、今の連合軍なら実態を見てから判断したいというのも分かるからな、それくらいなら俺の権限でなんとかなりそうだ」
「ありがとう、恩に着るよ、これはこの間の報酬の残りだ」
そう言って俺が金を振り込むとカントンはだらしなく口角を釣り上げた。
「うほっ、ありがとさん!!、いやー実は今すっからかんで困ってたんだよ、上司の務めで部下に奢り過ぎてな、人気者のさだめっていうかさ!、とにかく助かったぜ!」
カントンは身の丈に合わない金を得た事で金銭感覚がバグっているようだったが、金銭トラブルを抱えてる奴の方が扱い易いのは間違いないので、俺はそそくさとカントンと別れの挨拶を済ませて宿へと帰った。
───────連合軍が覇権を取れる組織なのかどうか。
それを見極める事は直近の重要な課題であり、それ故に俺は、その為に行動しているという話である。
仮に犠牲を厭わない進軍を続けるのだとしてもそれはいつかは限界が来るものだが。
だがこのゲームではプレイヤーの死は必ずしも戦力の低下とはなり得ない。
プレイヤーの死によって生成される『生命の種』は、プレイヤーの個人の戦闘力を上げる為の重要なリソースであり、故に最初から、一定数のプレイヤーの消費は必要経費として求められているものだからだ。
だから俺は、連合軍がどういう人間を〝生贄〟にしたのか、その答えを知りたかったのである。




