3.酒場にて
「──────────って事があったんすよ」
俺は9階層の街の酒場でいつも通り〝宴〟をしていたビーターギルド『J0̸KERS』のリーダーであるモロエに、迷宮で起こった事件のあらましを説明していた。
ちなみにここの街は地下ダンジョンの中に作られているという設定の筈なのだが、他の階層のどの街も普通に空がある天井の無い独立した世界としてマップが作られている仕様であり、壁の外側には行けない代わりに、空には太陽があり昼も夜もあった。
マップの移動は大金を払って転移門を使用するか、ボスフロアにある唯一のトンネルを通るしか無い訳だが、どのマップも基本的に独立した世界観であり、マップ同士の交流などは希薄な様相だ。
俺の報告にモロエはジョッキをあおって「カーッ」と一息ついてから、俺に情報を共有してくれた。
「俺の聞いた話だと、連合軍はどうやら功を焦っているようだな、これは普通のデスゲームじゃない、善人と悪人で潰し合うデスゲームだ、それなのに俺たちビーターを悪役にして団結した連合軍が、俺たちビーターに置いてけぼりにされてなんの実績もあげられないんじゃあ求心力も無くなるからな、それで功を焦って二軍の連中も前線に連れ出して、無茶な攻略を進めてるって話だ」
「そんな・・・、俺たちだってビーターの情報がある8階層までだって、過剰な戦力で場数を踏んでから攻略したのに、このデスゲームで無茶な攻略をするなんて!!」
一応ボス部屋の発見まではスムーズだが、その前の前座として、参加者は皆、ビーター側からのレクチャーを受け、ビーター攻略時の2倍近い200人の戦力を集めて攻略していた。
「ま、俺たちを〝悪人〟だと見なしてる奴らからしたら、悪人にゲームの主導権を握られるのが面白く無いんだろうよ、折角1000人規模っていうゲーム内最大派閥を作ったのに、このままじゃ俺たちが攻略組の覇権ギルドになって残りのプレイヤーも俺たちを支持するようになる訳だし、そうなったら連合軍は権力を失って、崩壊は免れないだろうからな」
「・・・理屈は分かりますけど、でもそれで死んだら元も子も無いと言うか、結局、ゲームである以上、強いプレイヤー同士の結束こそが大事で、覇権とか権力なんてそこに付随する付加価値みたいなものじゃないですか」
「ま、俺らは覇権とか興味無い自由人だし、だからこそ玉座が空になっている〝大海賊時代〟の今が好ましい訳だが、覇権を狙ってる奴らからすれば、覇権を取れなければ〝敗北者〟になり、それは好ましくないって話だからな、理屈と筋が通っている以上、これは仕方の無い事なんだよ」
「仕方無い、か、まぁデスゲームである以上、人が死ぬ事を肯定するのも仕方無いって、話なんですかね」
「ま、そういう事だな、それにここで死んでも命まで奪われる訳でも無いしな、元々死んだような人生生きてる連中からしたら、ここでの生活の方が生き生きしてるくらいだぜ」
デスゲームのペナルティは熱電波による脳の破壊による死かと思いきや、言語中枢、記憶中枢への損耗による言語障害と記憶障害を患うだけで、一応命を奪われる事はなく、そしてDDOの開発元であるゲーニックから賠償金も支払われるとの事で、普通のデスゲームに比べれば軽いものだ。
故に、無職やニートの人間からすれば、ここでの生活はある意味勝ち組と言えるものになる訳だ。
DDOは設備投資に30万かかるゲームだが、最初からデスゲームにする目的だった為か、懸賞や抽選によってテストプレイヤーやデバッグのバイトに無償で1000台配られており、そういった人間も一定数の人口が存在する訳であり、モロエもその一人だった。
「それでキリヲ、お前レベルいくつになったんだ」
モロエは藪から棒にそう質問してきた。
俺は隠す事でも無いので正直に答えた。
「拾った種の数は3つで、分配はまぁ、もめにもめたんですけど、ノワは筋力を1回上げるだけで鋼の剣が装備出来て攻撃力2倍になるから、レインは【暗殺者】のスキルで《急所突き》が貰えるからって当確になって、モモとどっちが食うかって話になったんですけど、そこで俺が「ここでお前に譲る代わりに、次拾った『生命の種』の分配では、俺に投票する事」を交換条件に譲りました、なんで俺はまだ1のまんまっすね、まぁ【回復魔法】はレベル3で上回復、5で範囲回復、7で全回復なんで、1だけ上げてもしょうが無かったんで、別にいいんすけど」
「ま、レベル上げてもHP基礎上昇値は10でMPは4だしな、ヒーラーがレベル2になって覚える《癒しの光》は呪い、ゾンビ特攻で今の所必要無いし、それが妥当か」
「一応【強化魔法】レベル2の《味方攻撃強化Ⅰ》もうちのパーティー事情的には結構有用な事も判明してますからね、アタッカー3体いる訳だし、アタッカーのレベル上げるよりバッファーの魔法上げた方が効率的にはいいので、モモのレベルもどれだけ優先して上げるべきか悩み所です」
「ははっ、普通MMOと言えば、敵の攻撃を受ける盾役が必須なのに、全員アタッカーで盾役をこなせるんだからすごいよな、キリト並の二刀流で捌く兄ちゃんと、全ての攻撃を避けて捌く兄ちゃんと、鬼耐久で受け切る嬢ちゃん、中々楽しそうなパーティーだぜ」
「俺は【剣士】【魔法使い】【騎士】【僧侶】の王道パーティーに憧れてたんですけどね・・・」
その上俺がヒーラーでじゃじゃ馬な馬鹿どもの手綱を握らされてる訳だから非常にやるせないが、だが、それも嫌では無い自分がいたのである。
その後俺はレベルアップに浮かれて酔い潰れていたモモを背負って回収すると、一泊1500グラン (階層によって宿代は値上がりする)の安宿でその日を終わらせたのであった。




