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2.種まき

「キシャアアアアアアアア」


「ぎゃああああああああああああああああああ」





「な、これは・・・」


 一人の男が複数のゴブリンによって蹂躙されていた。

 男の周辺には既にゴブリンによって殺害されていたのだろう、真新しい仲間の死体が横たわっている。

 ノワは脇目も振らずに救援に向かうも虚しく、最後の男もまたゴブリンによって殺害されて無惨な死体となる。


 一応死体も10秒間の間に蘇生魔法を使えば生き返れるのだが、蘇生(リザレクション)は高レベルの【回復魔法(ヒール)】のスキルツリーを解放する必要があり、当然、この場には使用出来る者はいない。

 よって男の死体は10秒の猶予期間の後に消滅し、後には男の命の証であり、このゲームに於ける唯一のレベルアップ手段である『生命の種』と、無数のゴブリンだけが残された。


「おいおい、キングもクイーンもいない雑魚ゴブリンの群れにやられたってのかよ、面倒だが『生命の種』は回収しないとだし、お前ら、戦闘開始だ、オープンコンバット!!」


 俺が合図を出すまでもなくノワは既にゴブリンと斬り合っていて、そしてレインはやる気なさそうに、モモは人死(ひとじに)のショックからか怯えた様子でゴブリンに向かっていく。


 それを俺は後方から陣形を見通せる位置を陣取って観察する。


 何故俺が直接戦闘しないのかと言うと、それは俺の役職が回復役(ヒーラー)だからだ。

 普通、こういう地味でやりがいの無い職業は戦闘が下手そうなモモに押し付けるべき役割だと思うのだが、このゲームがデスゲームである以上、指揮官とリスク管理の仕事をモモに押し付ける訳にはいかず、しぶしぶ俺は貴重なスキルポイントを【回復魔法】に、ステータスポイントをMPに振ったのである。

 これにより俺はMPを基礎値の50から20増やして70とし、1回20MP消費のヒールを3回、パーティーメンバーのHPを3回まで30%回復出来るという訳だ。


 ちなみにモモはスキルポイントを【強化魔法】、ステータスポイントをHPに振らせ (ヒールをかける頻度を減らす為)、ノワは【剣術】と筋力、レインは【暗殺術】と敏捷に、それぞれポイントを振っている。


 このゲームにはジョブという概念は無く、プレイヤーは等しく【勇者】として扱われるが、ポイントの振り方によって他のゲームでいう所の【戦士】【僧侶】【魔法使い】【盗賊】みたいな個性が出るという話だ。

 このスキルポイントというのがクセモノで、上級スキル習得にはたったの10レベルまでのスキルポイントで足りるのだが、このゲームのレベル上げ手段が他のプレイヤーの命と引替えである以上、中々簡単にはスキルポイントを得られない仕様だ。

 その気になれば複数のスキルを極める事も出来るというのがつまり、他のプレイヤーを殺せばそれだけで廃課金仕様の「英雄ビルド」「勇者ビルド」に近づけるという事だ。


 今のところそう言ったレベルの突出したプレイヤーはいないが、だがこんな風に脱落者が増えていけば残ったプレイヤーが必然的に強化されて、厳選されていくのだろう。

 前線から離れたプレイヤーは置いてかれて、前線にいるプレイヤーは過酷な競走を強いられる、なんとも理不尽な成長レースだった。





「はぁはぁはぁ、流石に連戦は(こた)えるな」


 ゲームの中とは言え汗もかくし血も涙も流れる。

 感情やメンタルの影響がはっきりと反映される上に、スタミナの概念もあって、消耗すれば休養と回復が必要になるという訳だ、とことんソロには向かない仕様だった。


「キリヲさんは後ろで見てたばっかりじゃないですか、てか、私のHP、そろそろ6割切ったんでヒールかけてくださいよ!」


「3割切ったらかけてやるよ、流石にまだ使うには惜しい、その耐久ならゴブリンの一撃でクリティカル出ても即死する事も無いんだし、6割なら全然戦えるだろ、むしろお前は満タンだと余計な被弾増えるから6割くらいが丁度いい」


「丁度いいってなんですか!!、MP増やして回復も出来るようにしたかったのに、キリヲさんが【強化魔法】とHPにしろって言うから言った通りにステ振りしたのに、それでヒールすらしてくれないなんて横暴過ぎます!!」


「パーティーは完全分業するからパーティーの意味があるんだよ、このゲーム、如何に早く上級スキル覚えるかがキモだからスキルポイントの分散とか有り得ないし、それにヒールだって今んところお前専属のヒーラーやってる訳だから、だったらお前のHP増やした方が合理的って話だろ、お前のHPが500を超えたら他のステータスに振る事を許してやるよ」


 ちなみ基礎HPが100で、モモはステ振りして140だ、レベル上げの上昇分を加味しても10レベル到達まで他のステータスに振ることを禁じると暗に告げた訳である。


「むう、言ってる事は分かりますけど、でももうちょっとこっちに配慮や遠慮してくれてもいいんじゃないですか、私、初心者なんですよ・・・」


「初心者だからこそ手厚く過保護にしてやってんだろうが、普通のゲームならお前みたいな初心者、奴隷ヒーラーで一生いいなりになってるからな、俺がリスク管理含めてヒーラーやってるんだから、お前は俺に感謝して従えって話だ」


「・・・それと奴隷の何が違うんですか、いえ、前衛戦闘職選ばせて貰った事には感謝してますが」


 モモは不満そうだが俺は面倒だったのでさっさと話題を切り替えた。


「まぁ、そんな話はどうでもいい、とりあえず、ここにある戦利品の『生命の種』だが──────────」


「当然、山分けですよね!!」


「──────────いや、ここはリーダーである俺が全部食う、団長命令だ!、ヒーラーである俺が真っ先に10レベルに上げて上級スキルである蘇生(リザレクション)を覚える事とMPを増やす事が、パーティー全体の生存率を大幅に引き上げる事になるのは間違いないだろう、だからこれ以外は有り得ない」


「はああああああああああああ!!?、何言ってるんですか、独り占めとか、そっちの方が絶対有り得ませんよ!!、一人だけレベル10になってスキルポイントに余裕持つとかズル過ぎます!!」


 俺の発言にモモは血管がブチ切れそうなレベルで叫び、そして他の二名も見過ごせないと言わんばかりに詰問した。


「・・・オレも、筋力上げて鋼の剣を装備出来るようにしたい、鉄刀は軽すぎるし、パーティーの火力を上げる事も、生存率を上げる事になる…」


「キリリンの主張にも一応の道理はあるけど、でもそれ言ったらアシスタントの能力上げるよりも、チームのエースが単騎でボスと戦えるくらい強い方が、他のパーティーに襲われた時の保険にもなって得だよね、弱いエースを蘇生出来るようにするより、強いエースを死なないように回復する方が遥かに合理的って話だし」


「うるせぇ、団長命令だ!!、お前らがやらないから俺がこのクソつまんなくて楽しくないヒーラーやってんだから、せめてレベル上げくらい優遇しやがれ!!」


「それ言ったら私だってキリヲさんの指示でHPタンクにさせられたんだから優遇してくださいよ!」


「団長の頼みでも、嫌、かな…」


「どうする?、決闘で決めちゃう?」


 と、当然の如く話は纏まる訳もなく、俺たちは棚ぼたで手に入れた『生命の種』の分配を巡って(みにく)く言い争っていたのだが。




「おい、貴様ら!!、ここで何をしている!!、ここにいた()()()達の隊は何処だ!!」


「ええと、どちら様ですか・・・?」


 見た事も無い男のパーティーが俺たちに詰め寄る。

 突如現れた男たちに、俺は比較的丁寧に質問した、雰囲気からして、死んだヤツらの仲間なんだろうか。


「俺は『愛と正義の連合軍(ダーク・バスターズ)』十傑であり先遣隊隊長のジーザスだ、俺たちはこの階層の探索任務をしていた所、カモスの隊とはぐれた、そして合流した仲間からピンチを聞いてここに駆けつけたんだ、もう一度聞く、カモスの隊はどこだ!!」


「ええと・・・」


 『愛と正義の連合軍(ダーク・バスターズ)』、縮めて連合軍(ダーバス)

 DDOに於ける最大派閥ギルドであり、所属人数1000人を超える巨大ギルドだが、スタートダッシュに於いてはビーター達の後手に回り、攻略には着いて来れなかった印象だが、一応9階層まで進出していたのか。

 その結果の全滅だとしたらご愁傷さまだが、まぁ、最大派閥としての沽券(こけん)やプライドもあったのだろう。


 今のところ俺たちが懇意(こんい)にしてるのはビーターではあるものの、デスゲームはいつどんな風に趨勢(すうせい)が動くか分からない為に、ジーザスが連合軍の幹部であるならば敵対するのは得策では無い。


 俺はざっくりとそろばんを弾くと、見たまんまをありのまま()()()()形で話す事にした。


「すいません、俺が来た時には一人の男が複数のゴブリンに囲まれてる所しか見てなくて、だから、他のメンバーがどこに行ったのかとかは分からないんですけど、一応、遺品としてこれが残されてました・・・」


 そう言って俺は『生命の種』を一つだけ渡した。


 勿論嘘は言っていないが、それで納得出来るかは微妙な所だろう。


「一つだけ・・・?、そんな筈は無いだろう、ここは行き止まりだ、俺たちは他の誰にもすれ違ってない、だからカモスの隊はここで全滅していないとおかしい!!」


「・・・?、なんで行き止まりにカモスさんの隊が全員追い込まれたって断定出来るんですか?、仲間と離れたなら、その仮定でカモスさん一人だけが仲間を残して仲間を捜索する可能性だってありますよね?、むしろ足でまといになりそうな仲間を見捨ててカモスさん一人だけが逃げ出した可能性もあるんじゃないんですか?だってフルパーティーが雑魚モンスターのゴブリン相手に全滅するっておかしいですよね?」


 これは誤魔化す為の言い訳では無く、シンプルにそう疑問に思った質問だ。

 少なくともフルメンバーならゴブリン相手に全滅する方がおかしいし、行き止まりだからって逃げ道が無い訳では無い、連合軍は結束の強い集団では無いのだから、仲間を見捨てれば逃げ切る事もできる筈なのだから。

 俺の質問にジーザスはなにか図星でもつかれたのか、苦し紛れになっていた。


「そ、それは・・・、あ、あれだ!、連合軍は正義の士の集まりだから、仲間を見捨てたりしないし、最後まで勇敢に戦うものだからだ!!」


「ふーん、そういう割には俺がここに来た時、ゴブリン達は全員無傷で弱ってる奴なんて一人もいなかったんですけどね、フルパーティーでゴブリン相手に全滅するとか、そんな事あるのかな?、まぁいいや!とにかく!、俺が知ってるのはそれだけなんで!、俺も悲鳴が聞こえて急いで駆けつけただけで他の事は知らないんで、言える事はこれだけっすね!!」


「貴様、『生命の種』を横取りするつもりか・・・!!」


 俺が話を切り上げようとしたら、ジーザスは殺気立ててこちらを睨むが、俺はどうせ持ってる種を全部渡しても1個足りないとか難癖付けられる可能性があると思ったので、シラをきる事にしたのであった。


「いや、本当に一個しか落ちてなかっただけで、知らないっすね、ま、そもそも、ここで死んだのがカモスさんなのかどうかも俺は分からないんで、正直その種渡すのも俺は(しゃく)なんですけど、そっちがその種をカモスさんの物だと主張するなら、それを認めて種を差し出します、その代わりここには()()()()()()()()()()()()という、こっちの主張も認めて欲しいって話ですね」


 俺はそう言ってじっとジーザスの瞳を見つめた。

 面倒なので、こっちは意見を曲げる気は無いという意思表示を、出来るだけやんわりと示した訳である。


「・・・貴様、連合軍に逆らって、ただで済むと思うなよ、悪人め・・・!」


 俺たちは一応、1階層攻略の立役者であり、決闘で注目を浴びた実力者だった、そんな俺たちとケンカするのを嫌ってか、ジーザスは退くことにしたようだ。

 ジーザスは仲間を引き連れて立ち去っていく。


 ちょっと不穏な捨て台詞だが、似たような感じでカントンに絡まれた時も賄賂(わいろ)で上手く懐柔出来たので、明確に対立した時に賄賂を贈れば戦闘は避けられるだろう。

 そこで俺たちもようやく一息つく事にしたのであった。

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